私の出番少なくありません……?
私が生まれたのは、母が魔王を討伐してから一年がたった頃だ。
当時の母は色々と混乱していたらしい。戸惑いながらも私を育ててくれたことには感謝してもしきれない。
魔王を倒したとは言っても、魔物による被害が消えたわけではなかったようで、育児と魔物退治を掛け持ちしていたらしい。
ただ、私も十歳になる頃には魔物退治の手伝いもしていたので、徐々にではあるけれど母の負担を減らせていたと思う。
そんな私達には、父親と呼べる人はいなかった。
そもそも母は誰ともそういう関係になったことはないらしい。
そんな母に、「寝込みでも襲われたんじゃないの?」なんて言ってみたが、勇者の名に誓ってそれはあり得ないと断言された。
そして、私が十八歳になり、ようやく魔物退治に終わりが見えてきたときに、それは起こった。
突然記憶が、知識が、どこからか流れ込んできたのだ。
ある、男の記憶が。
そして、理解してしまった。
その男のどうしようもない計画と、その結末を。
とはいえ、その記憶も不完全なもので、すべてを理解したとはとうてい言えなかったのだけれど。
それでも、何のために行動し、何のために私が存在するのかを理解してしまったし、同時に腹も立った。
前世の私に対して、現世の私が怒っていると、そういうことだ。
だけど。いや、だからこそ。私は私を認めない。
そのためにすることも決めた。
まずは、すべてを話すことだ。
「母さん、話があるんだけど……」
「前世の記憶があっても、私は母さんの味方だし、遠くに行っても、時が経っても、私は母さんの娘だからね!」
「そうね、イリスはいつまでも私の娘よ!」
親子の絆を再確認した私達は、ある魔術を行使する。
「「あのバカをぶん殴るために!!」」
目的を果たすために。
「とまぁ、こんな感じですね」
イリスは満足したらしい。神の隣で座っている。
メイも、どことなくうれしそうな顔をしていた。
「いや、こんな感じと言われてもだなぁ……」
肝心なところは話してくれないし、我が殴られることは確定的だなぁ……と、魔王は一人浮かない顔だ。
「そっかぁ、イリスは私の娘かぁ。感動だよぉ」
勇者はなぜか涙を流していた。
そんな中。
「あ、僕もう帰っていい?」
神はマイペースだった。
「ぶっちゃけね? 僕が居る必要はないんだよ。ただ魔王を、パッパァをいじめられそうだったから来ただけで」
仕事もないわけじゃないしー、とも言った。
「なに、すると貴様、この件に関して関与していないのか……?」
ここで食いついたのは魔王だ。
「まー、この世界の責任者は僕だけどねー? 彼女の世界のことは管轄外なわけでー」
「いやいや、この世界に来ている以上管轄移っておるだろうに……」
納得がいかないといった顔をしていた魔王であったが、やがてあきらめたようである。
「ま、帰ることは許さんのだが」
彼の目は「今逃げたら許さん。絶許!」と告げていた。
「ま、誰かが殴られるようだし、残るのはまぁ悪くない選択肢だよね」
「これはこれで複雑な気分……いや、少し待て」
「……? どうしたんだい?」
大事なことに気づいた。いや、気づいてしまった。
「イリスの正体はまぁ、納得のいかない部分もあるがおおよそは理解した。だが、もう一つ明らかになっていないことがある」
「なんだい? 言ってごらん?」
神に促された魔王は一言告げる。
「メイの正体だ」
謎解きしてないのに新たな謎が……。