第十六話 双子神とアザートス
遅くなりました。
ここまで加筆修正しました。
ご指摘有難うございます。
今回の前半は説明がメインです苦手な方は飛ばして後半をお読みください。
~ツアールとロイガーの視点~
『何の事ですか?』
私には念話でそう返事するしかできませんでした。
なんの事か解らないという風に誤魔化したつもりです。
『別に隠すような事でもないぞ』
魔人バロン様は私にそう仰られました。
『だから何の事かと…』
『此処はアザートスの見る夢。あの神が目覚めればこの世界は存在できなくなる。ある程度の魔術を極めた魔術師か魔人、一部の者なら知っている事だ』
私は魔人バロン様の念話に愕然とした。
この事は神の中でも極一部の者しか知らないのに…。
『ウィルの奴は何度も生死を繰り返して、偶然アザートスの力を模倣する魔術を習得したみたいだがな』
『その様子では本当に知っているようですね』
私は魔人バロン様にため息を吐きつつ話しました。
そして魔人ウィル様の呪文にも納得いきました。
夢は現に…かあ。
偶然とはいえ、そのままではないですか…気付かなかったです。
『ああ』
私の念話に頷く魔人バロン様。
アザートス
旧神を除けば、この世界に於いて最強の神にして魔王。
この世の外に追放された「歪んだ空間の彼方に存在する混沌の核」と形容されるこの魔王は追放の際に殆どの知性と感覚を剥奪され、狂気のままにあらゆる時間と空間に接している汚らわしい玉座の上でのたうちまわっています。
この世界はアザートスという神の見る夢です。
余談ですがナイアルラトホテップなどは、この神の従者で他の高位の神(暗黒神話大系の邪神)に匹敵する力を持っています。
ナイアルラトホテップが行動を起こす事の何割かは、一時的に知性の戻った時のアザートスの指示によるものです。
『でも結論がそこに行き着いたとしてなんの役に立つんです? 魔人ウィル様の場合はアザートス様の力を模倣できたみたいですが…』
私は魔人バロン様に疑問を返した。
『我々魔人は元は人間だ。それは知ってるな』
なにを今更。
『それがなにか?』
私は思ったよりも冷ややかな反応を返しました。まあ散々魔人バロン様の無様な姿を見たのだから当然です。
『ツアール。お前達の主神ハスターから力を貰っているとはいえ魔人が、いや元人間がなぜ神に勝てるのか疑問に思わなかったか? それだけじゃない、他の神々を超える我々のスキルの高さにもだ』
魔人バロン様の念話に私は沈黙しました。
それは前々から疑問に思ってました。
結論は出ませんでしたけど。
魔人ウィル様もなぜ偶然にも事象操作系の魔術を完成できたのか不思議です。
『神をもって神を殺す。これは我々が知っているこの世界の基本的な神や邪神の殺し方だ』
魔人バロン様の念話に何を今更と思いましたが黙りました。
『しかしこのやり方を誰が発見したと思う?』
『それは…』
魔人バロン様の念話に私は改めて言われると解りません常識だったからです。
『我々魔人だ』
その念話に私は驚きました。
『俺を含めて、昔この世界に顕現した当初の魔人ではたとえ高位のスキルをもっていても神や邪神その分身を殺せなかった。なぜか解るか? 』
昔は殺せなかった?
それは…おかしいですね。
今の魔人は神(分身)を殺せているんですけど。
本人が言ってるんですから本当なんでしょうけど、確かにおかしいですね…。
念話での説明が長々と続きましたが要約すると次のようになります。
この世界に初めて顕現した魔人は(バロン様を含めて)当初どうしてもこの世界の住人(神)に勝てなかったそうです。
当時はバランサーが、つまり戦闘司書も私達のような暗黒神話大系の神々もいない時代だったのでで、人数の関係もあり無法と暗黒の時代になりました。
主神ハスター様の力を借り高レベルのスキルを使いながら神(分身)を殺せないのは何故か?
文献や魔道書を漁ったり実験などして検証をした結果、この世界における強さ序列がアザートスによって決まっている事が解ったそうです。
この世界の強さの序列は次の通りです。
最初に暗黒神話大系の邪神及び神々。
次に現実世界の神々。
更に独立種族や奉仕種族。
最後に人類。
この為に神を殺せなかったそうです。
ですがバランサーとしての役目上なんとかしないといけなかったため生まれた方法が…。
『神をもって神を殺す』というやり方です。
その為の最初のやり方が魔道書による神の力のみの召喚。
ですがこのやり方以外では駄目でした。
具体的いえば、魔人自身のスキルによる攻撃は全く役に立ちませんでした。
そこで考えられたのが、この世界の住人(神と人間)の信仰もしくは畏怖を集め魔人自体を神にすること。
やり方のは現実世界の文献を参考にしたそうです。
魔人を神にするやり方は次の通りです。
最初に死を偽装し怨霊として災いを成し畏怖を与え後、祭上げられ神となる。
次に死後復活し、様々な奇跡を起こして信仰を得る。
更に暗黒神話大系の神と契約結ぶ。もしくは加護を得る方法。
最後に情報操作をし魔人そのものの神秘性を持たせる。
この方法により、魔人は信仰を得て神を殺す事(もしくは無力化)ができるようになりました。
『ウィル様が事象操作系の魔術を完成出来たのは完全な偶然ではないと? 何度も死に復活して畏怖や信仰を得てしまったから』
私は生唾を飲んだ。
『本来ならあり得ないことだ。しかも今回は通常の魔人が所持している魔力を超えている。恐らくアザートスが従者のナイアルラトホテップを使い魔力を供給させてるようだ』
『その結果、第二のアザートスを誕生させるかも知れない事になった言うんですね魔人バロン様』
私は魔人バロン様の言葉に沈黙しました。その結果がこの眼前に広がる光景。
アザートス様が命令しウィル様を新たに魔人にした理由は、この世界を壊すため?
その考えに怖気が走りました。
アザートス様は自身の境遇にそこまでの狂気にとり付かれたのかと。
『なぜその事を私に? 魔人バロン様』
『万が一の事を考えてだ』
…魔人バロン様の念話に返答できませんでした。
『あくまで万が一だ…ん?』
魔人バロン様の念話が中断されます。
「魔人バロンが御嬢に色目使ってますぜ」
何事かとバロン様の方を見ると、戦闘司書二号がその両拳をバロン様の側頭部に当ててグリグリしてます。
一般的な子供への体罰『ウメボシ』です。
魔人バロン様、体格が小さいから浮いてますね。
ぷら~んと。
「ぎいやあああああああっ! 誤解だあっ」
戦闘司書二号かなり力を込めてます。
先程までの緊迫感が台無しです。
「あの止めたほうが…」
ロイガーあたふたしてます。
「ツアール助けてえええええええええぇっ! それに子供に興味は無い…」
私は助けようかなと思いましたがその言葉にイラッときました。
「戦闘司書一号やって」
私は親指で首を切るジェスチャーをする。
「そうですなあ」
戦闘司書一号はそう言って走りながら魔人バロン様に指四の字を掛ける。
器用ですね戦闘司書一号。
「ぎやああああああああああああああああっ!」
辺りに魔人バロン様の悲鳴が響きました。
そんなアホな事をしてる時です。
新た発生していた私達の横の森の奥から突然爆発音がし、二つの人影が飛んできました。
…いえ正確には黒いチャイナ服を着た女の子と、赤いフリルの付いた短いスカートを穿いた女の子をそれぞれ一人づつ庇い…二人ですので四人ですか。
見覚えのある男の人です。
あれは…ウィル様っ!
しかも二人?
あっ片方は魔術で作った分身ですか、物も触れるんですね。
などと呆けてたのがいけませんでした。
それぞれののウィル様は女の子を庇い頭を守っていますがその身は地上を跳ねて此方に来ます。
ズポッ。ズポッ。
そんな音をたて、それぞれのウィル様の頭が私とロイガーのスカートの下に入りました。
「「「「「…」」」」」
いやな沈黙が辺りに経ちこめます。
この顔の位置は…。
「アウ」
ロイガーは私の目を見ると顔を真っ赤にして首を振ります。
その眼には涙が。
「アウアウ」
私も頭が真っ白になり首を振ります。
たぶん泣いてます。
「「アウアウアウ」」
私達二人して変な声を出してます。もう…お嫁にいけません。
「あー君達。下着見られてるから早く避けたほうがいいぞ」
ここで魔人バロン様の無神経なお言葉が。
「「いやあああああああああああああっ!」」
ビシッバシッドスッゴスゴスゴスッ!
逆マウントポジションとでも言うべきでしょうか、ロイガーとそれぞれのウィル様の頭をお尻で押さえ込み、その胴体を殴り続けました…。
後にはボロボロになったウィル様が気絶して横たわってました。
ロイガーと私は後でウィル様に謝罪したのは言うまでもありません。
お読みくださり有難うございました。
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