第十五話 双子神と海神
遅くなりました。
体調不良やパソコンが酷い事になったので遅くなりました。
~ツアールとロイガーの視点~
ふんぐるい むぐるなふ
くとうぅるう るるいえ
うがふなぐるふたぐん
ルルイエの館にて死せるクトゥルフ
夢見るうちに待ちいたり。
「いあダゴンいいいいいいダゴンいいいいいっ!」
戦闘司書二号が右手に三枚の使い捨ての写本を握ると呪文を唱えました。
その詠唱と共に使い捨ての写本は燃えて灰になります。
戦闘司書二号の仮面の隙間から大量の汗が流れます。
私とロイガーは戦闘司書二号から離れてます。
これから召喚するのは対立神性だから物凄く苦手なんです。
海神ダゴンの召喚。
下位神召喚
邪神の力のみを召喚し術者の敵を駆逐する魔道書を用いた魔術の奥義の一つです。
ですが此れは精神汚染を気にしなければ誰でも使えます。
幾つかの例外の邪神はいますが…。
普通は一回で発狂もしくは心停止ですね。
魔術師や適性の有るもの、もしくは魔人か戦闘司書なら数回は使えます。
でも消耗が激しいので滅多に使いません。
これで召喚された邪神は私達とは別の存在であり唯の兵器と考えたほうがいいです。
例えば敵が召喚魔術で私に対して別のツアールという邪神を召喚した場合どうなるか?
答えは、どちらかが死ぬまで戦わなければなりません。
力のみの召喚だから起こりうる事です。
神の力を持って神を倒す。
魔術には魔術でしか対抗できないこれがその謂れです。
まあ今回は違う事に使いますが。
そんなわけで戦闘司書二号は手札の一を切りました。
辺りに磯の香りが漂う。
激しい波の音が何もない虚空から響く。
その虚空より大量の海水が溢れ出します。
その海水が収束しそれは現れました。
海神ダゴン。
父なるダゴン。
《深きものども》の首魁であり母なるハイドラとともに海洋種族から崇められる存在。
全長六メートルの《深きものども》に似た存在。
大いなるクトゥルフの眷属。
それを三体召喚した戦闘司書二号はダゴンに先陣を切らせる。
ダゴンは《深きものども》にその怪力を振るう。
前の道を塞いでいた《深きものども》生き残りは、己の崇める神の暴挙に逃げ惑います。
瞬く間に道が切り開かれました。
私達はその道を通りウィル様の元へと走ります。
「えげつない」
魔人バロン様は走りながら文句を言いました。
「合理的と言って欲しいですぜ」
戦闘司書二号はそう返すと槍を突き近くの《深きものども》の頭を刺し殺す。
「また間接技を極めて欲しいのかな?」
戦闘司書一号の笑顔に顔を青くするバロン様。
本当にこの方は最強の魔人なのかな?
それはそうと…。
「バロン様」
「うむ」
私の言葉にこれ幸いと頷くバロン様。
戦闘司書一号に対して距離を離します。
「七年前の前世の私達が死んだ時と同じだね姉様」
ロイガーも私達の言いたいことが解ったらしい。
あの時の記憶が蘇る。それは割れた魔人の仮面の付けた奴らに当時のバランサーの殆んどが絶滅させられた時の事を。
生き残った者もその当時の肉体は破損が酷く、最早廃棄するしかなかった為しかたなく絶命した者と共に転生しました。
「御嬢まさか七年前というとあの時の事ですか?」
「うん」
「あの時かあ~御嬢達のオムツを替えやら夜鳴きやら大変だったな」
「うんうん、俺達交代で面倒見たな}
戦闘司書一号と二号が私達の会話に口を挟む。
「ひ~ど~い~」
私は羞恥のあまり顔を赤く染める。
「姉様をからかうのは後にして。あの時はバロン様がいて負けたんだから相当な敵だよ」
「ロイガーの御嬢は去年までおねしょしてたな」
「いやああああああああああああああぁっ!」
戦闘司書一号の言葉にロイガーはひねりを加えた前方宙返りで《深きものども》を蹴る。
無駄に高い体術と格闘のスキルが効いてますね。
クマさんパンツが見えてますよ…。
ロイガーの言葉に私は当時の事を思い出す。
だけど…その肝心な相手の顔が思い出せない。
「確かに似てるな。バランサーの殆どが死んだあの時に」
魔人バロン様も口を挟み走りながら辺りを見回す。
近くの建物は自重で無残にも折れ曲がり、私達の足元で半透明になった石のレンガの中を泳ぐ魚が鳥に捕食されていた。
魔人ウィル様の居る方角には沢山の木々や竹が海の中から異常な速度で成長していた。
その竹の先端は《深きものども》が何十体も突き刺さっている。
一目見て絶命しているのが解る。
「生物として滅茶苦茶だね姉様」
「まあ地面の下を泳いでますからね」
復活したロイガーの言葉に相槌を打つ。
まだ顔が赤いな…。
「少し違うな。これは私達とこいつらの事象の観測が違うから起こってるんだ」
「はい?」
バロン様の言葉に私は聞き返しました。
「全ての事象は観測者が観測して存在する。つまり我々は足元を石のレンガと無意識に思っているからこの上に立つ事ができる。だが魚はこの下を海の一部と思い込んでるから泳ぐ事が出来るんだ」
「ようするに異なる観測結果が重複してると考えればいいんですね」」
魔人バロン様の言葉にロイガーは返答しました。
私はその言葉に頷きました。
まああまり意味が解りませんが。
というか魔人バロン様を除く全員にとって少ししか理解が及ばないでしょう。
ですがこの魔術は明らかに事象操作系魔術では?
これではまるで…。
『この世界はアザートスの見る夢。規模こそ狭いがそれに匹敵するのではないか?」
そのバロン様の念話に私は思わず大声を上げる所でした。
お読みくださり有難うございます。
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