第十二話 双子神の誤解
加筆しました。
~ツアールとロイガーの視点~
私達の前に現れた三人は、あまりにも見慣れた人物でした。
私から見て右側。八十代のお爺さんは戦闘司書一号。
隊長としての役割を持ち、その特長は年齢に見合った多彩な技を持っています。
その格好は、赤い鳥の羽を飾りつけたプラッター・ハットを被り、胴の前後に胸当てと背当てだけを付けたクウィラス。
腕はスラッシュという、わざと切れ目を入れて中の生地を見せるようにした装飾にし、左右非対称しています。
ズボンはホーゼンという膝丈~七分丈のズボンを穿き、ホーズという膝まである長靴下をガーターと呼ばれる紐で留めています。
右手は腰のミスリルを混ぜた鋼の帯剣をいつでも抜けるようにし、左手は
使い捨ての魔道書二十枚を入れたポーチに触れていました。
赤色で統一した装備を纏った彼の顔には、魔人が使う仮面に似た物が付けられています。
彼の仮面は【赤竜の仮面】といいます。
魔人の仮面の模造品を、ミスカトニック大学の錬金術師が作った物です。
性能はオリジナルにはまったく届かないものの念話を使えるようにしてあり、武器系及び魔術の内一種類を LV4にし、魔道書の使用に伴う精神汚染を軽減するものです。
この仮面は戦闘司書としての実力に応じて良いものを与えられます。
新人の場合は、せいぜい念話を使えて精神汚染を軽減するものです。
次に左側は七十代の痩せたお爺さんで、戦闘司書二号。
装備は一号と変わりません。
違うとすれば青色で装備を統一していることと、剣の代わりに槍を装備しているところですか。
仮面は一号の物にも匹敵する【青竜の仮面】を付けています。
彼は副隊長としての役割をもってます。
その力は戦闘司書の中で最高の怪力を誇ります。
『来てくれたのね〇の一号。〇の二号っ!』
私は念話で二人に歓喜の声を上げる。
『御嬢っ! アホな発言はやめてください』
『そうですっ! 力の〇号て、なんですか』
『ごめんなさい姉様には後で言い聞かせておくから』
『ひ~ど~い』
『ウィル様に言いつけますけど』
その念話に私は震える。
『それだけは勘弁してください』
『御嬢達そのウィルてのは誰ですか? 二号も聞きたいだろう』
『そうだな親代わりの俺達としては聞きたいな』
『『ノーコメント』』
二人の念話にそれだけしか答えられなかった。
最後に、真ん中の一番背の低い人物は下にベスト、黒のインバネスコートにケープを羽織、ズボンはコールズボン。ネクタイはホワイトタイ帽子はトップハット、手袋は白革手袋、足はストレートチップを履いていました。
その手にはミスカトニック大学で自筆で写本した魔道書【ラテン語版ネクロミコン】を持ち、顔は魔人の証である仮面を被っています。
体格は小さく一桁台の子供に見えるが耳の先がとがっている為、亜人という事が窺えます。
仮面から覗ける瞳は私達やウィル様と同じ鮮やかな赤です。肩まで伸ばされた銀髪の先は無造作に切られていました。
『力と…技の…』
『今なにかアホな事考えませんでした? 姉様』
『別に』
「最高位の戦闘司書に、魔人バロン…」
目の前の戦闘司書と双子がアホな事を念話で話してると知らず、緊張した表情を見せる漁師さん達。
「俺は戦闘司書は何度か見た事があるが、魔人は初めて見た。確かなのかバロンって」
「特徴は、この間の新聞で見た通りだ」
世界創生より存在する最古にして最悪最強の魔人。
全ての魔人の頂点に位置する者。
そんな新聞の文章を漁師さん達は思い出しているみたいです。
味方なのですが、どう言えばいいか。
「眠らせろ」
「「はっ!」」
「「なっ!」」
その時予想しなかった言葉を聞き、私達は啞然としました。
瞬く間に二人は漁師さん達の、首筋や腹部に打撃を与え眠らせました。
「なにをしてるんですかっ! 一般人(神)ですよ」
「そうだよっ! 姉様の…」
「緊急事態だっ! これから先はこいつらには見せられん。連れて行け」
私達の抗議に焦った声で怒鳴りつけるバロン様。
その迫力に私は次の言葉を飲み込みました。
魔人の頂点にいる方のその姿に違和感を覚えたからです。
「収納」
バロン様が唱えると《深きものども》を切り刻んだ、無数の【バルザイの新月刀】は空中に集い、光の破片に変化して、そのまま魔道書に吸い込まれました。
「映せ【レンのガラス】」
バロン様は【レンのガラス】を召喚しました。
空中に顕現する、一平方メートルの丸い見た事もない曇りガラス。
その能力は異界を覗く事。今回はそれを応用して遠見を可能とします。
「見ろっ! 貴様らがあいつらを助ける事を優先した結果だ」
その光景は血も凍る光景でした。
「ウィル様…」
「ウィル兄ちゃん…」
ウィル様が全身を切り刻まれ、最後に槍で刺し殺されていたのです。
「なぜですか?…普通の魔人は仮面を付けてない状態でも、あの程度のやつらは無傷で対処できるはずでしょ」
「普通の魔人はな…だが奴の戦闘記録を調べていたら、とんでもない事がわかった」
「とんでも無い事?」
バロン様の言葉に私は虚ろな顔で聞き返す。
「奴は唯の一度も勝ったことがないんだ」
「「え?」」
なにを言ってんだろうと私達は思いました。
「正確には負けないように行動し続けた結果、奴は魔人と評価されただけの人間なんだ」
「それのどこが…」
「わからないか? 奴は誰よりも弱い。それを補う為、自分の死を織り込み済みで戦い続けた結果が今の奴なんだ」
その言葉に私はゾッとしました。
「ならすぐにでも助けに…」
「もう遅い。奴は、暴走の危険があるため処分する」
色々な理由があるが魔人や魔術師は、魔道書による精神汚染、戦闘による心の病など様々な理由で、暴走する可能性がある。
その場合可及的速やかに、収めなければならない。
そうしなければ最悪の場合、一国が滅びる。
だけど…。
「そんなのっ! 味方でしょう」
「くどいっ!」
首を振るバロン様に抗議をしようとしましたが、その気迫に言葉を飲み込みました。
「まってよっ! バロン様ウィル兄ちゃんは助けられないの」
「方法はあるが、リスクがある」
「方法があるならっ!」
「駄目だっ!」
これ以上言えば私達を無力化する、その眼はそう語っていた。
「だったらウィル兄ちゃんに仕事押し付けて仕事さぼってたって、上の方に言おうかな~」
そのロイガーの言葉にバロンは、沈黙。
「ナンノ コトカナ」
魔人バロン様の動揺がわかります。
「おっぱいバブてなにかな~」
ロイガーの言葉にバロンは震える。
「スナック アケミの、ミー子て誰ですか?」
私の言葉にバロン様は二回震える。
「ダレデスカネ~」
冷や汗をダラダラと流すバロン。
「しらばくれても駄目ですぜ俺達が教えたんだからな」
「それと、経費を使い込むのは駄目ですぜ」
帰ってきた戦闘司書の二人が、私達を援護してくれる。
『おっぱいバブてなに? それにスナック アケミってのも何かな』
『さあ~』
『御嬢達はまだ早いですな』
『そうだぜ戦闘司書一号』
戦闘司書達は断言する。
…まあいいでしょう今は魔人バロン様です。
ジトっと見つめる事五分。
「わかった教える」
バロン様はその間、脂汗を掻き続けた末に降参されました。
お読みくださり有難うございます。




