第六話 荒ぶる魔獣(後編)
さて、ケルベロスはさっきのように突進こそしなくなったものの、今だにピンピンしている。それでも突進しなくなったのはやはり、俺の地味な攻撃と、涼風のRPGが奴にそれなりのダメージを与えられたからだろう。
尻尾も切ったしな。
しかし、どうやってこいつを倒すかな。
いや、実際奴を一撃で倒す必殺技はある。奴が突進しなくなった今なら成功する確率はある。
しかし、涼風の援護がない今、必殺技の発動は危険だ。
もし失敗すれば間違いなく俺の敗北は確定する。そのまま人生終了。ケルベロスの胃袋で消化されるの待ち…
ん?そこで素朴な疑問が生まれる。
こいつ人を食べるのかな?
死神と契約を交わせば殺された時に殺した相手を襲ってくれる。自分の魂を引き換えに。現世的に考えれば保険みたいなものか。
誰でも入れる死神保険!お亡くなりの際に殺した相手に復讐することが出来ます!しかも、手数料はお亡くなりになられたあとで簡単支払い可能です!みたいな?
ごめん、俺、17歳過ぎても保険とかお世話になってないから詳しくわかんない。保険で例えたのは失敗だったな。
でも、そう考えると人を喰べるのは死神という事になるのか。呪いの犠牲になった者の魂も喰べるかはわからんが…
しかし、俺が負けて俺が死ぬのはいいが涼風も死ぬことになってしまう。そんな事はさせない。
アイス・カイザーのあってないような誇りにかけて。
「やってやるぜ!!」
一人言で気合を入れるのは中二病の特権だ。現世の方でもよくやってたしな。気合を入れるにはやっぱ独り言だよな。
俺は再び剣を握り、ケルベロスに接近する。
突進をしなくなったので奴の攻撃は爪か牙による噛みつきだけになった。足で踏みつけてくるか。鋭利な爪で猫みたいに引っかき攻撃をしてくるか。
予備動作がわかりやすいので確実に避けられる。そこを接近して斬撃を加えていく。
正面に立たないのがコツだ。
なんか、こうやってケルベロスと戦っていると現世でやった某ハンティングゲームを思い出す。PSPの時は楽しかったんだけど、3DSになってからは操作慣れしなくてやらなくなったりしたな〜
なんて考えてる余裕ができたということは、俺なりにケルベロスの攻撃パターンを体で理解出来ているということか。それともこっちの世界に来てから命懸けの戦いというものに慣れて来てしまっているのか。なんにせよ、これはいい傾向だろうか。
みたいな感じにうまくいくとすぐ調子に乗りやすいのが俺の弱点なんだろうな。
調子に乗るとすぐにそれは油断につながる。
完全に油断した俺はケルベロスのさっきまでとは違う予備動作に気付けなかった。
「グォォォーーーーー!!!!!」
大きく息を吸い込んだケルベロスは直後、とんでもない音量の咆哮を上げた。
「うっ!」
あまりの音量に耳を抑えてしまった。
そこ隙を狙って奴は噛みつこうとしてくる。なんとか剣でガードしたので致命傷には至らなかったが、左腕に傷を負った。
「うおおお!!氷刃!!」
飛んでいった氷刃はケルベロスの右目に刺さった。
「ギャーーー!!!」
叫び声を上げてケルベロスがわずかに後退する。俺も一旦後退する。
「痛えなクソ野郎!!殺す気かよ!」
あ、こいつは俺の事殺す気満々でした。激痛で忘れてしまいました。てへぺろ。
しかしまずい事になった。奴の目を潰すことはできたものの、こちらも傷を負ってしまった。傷口からは血が出ている。
この世界の魔力というものは血に混じり体内を巡っている。出血すればそれだけで魔力を失う。戦いが長引けば魔術が打てなくなる。
そうなると俺の勝てる可能性が少なくなる。
とにかく早く決着をつけなくては。
某ハンティングゲームなら捕獲とかしていたのだが、残念な事にこれはゲームではない。
ん?捕獲?そうだ!
戦法を変えよう。
奴の鋭利な爪を利用する。
俺は再び剣を構えケルベロスに接近する。攻撃を避け斬撃を加える。
しかし、今回は無理に接近せず逆にバックステップを基本に後方に下がっていく。それを繰り返した結果、背後にあった建物まで追い込まれた。
背中に老朽化した建物の壁があたる。
ケルベロスは勝利を確信したのか、勢いよく飛びかかってきた。
おそらくケルベロちゃんは自分の体を最大限利用して踏みつけるつもりだったのだ。四つ足動物らしい持ち前の脚力。確かに速い。図体のデカさと両足攻撃という事も加わり、一瞬で横に逃げるのはいくら俺でも不可能だ。威力もかなりのものになるな。俺の背後には建物の壁があるが、それの破壊も容易なほどに。
そう思ってこいつはこんな思い切った攻撃をしてきたんだ。
とても、とてもありがたい…
「勝利だ」
俺はケルベロスの懐に飛び込み転がりながら奴の股を抜け、背後に回りこみ、奴の背中に飛び乗る。
ちょっと考えればわかる。後ろも横も無理なら前がある。ただの憎しみから生まれた犬にはわからない事のようだ。
ケルベロスの攻撃は壁に当たり、その直後、奴の腕が壁ごと凍っていく。
作戦成功。さっき壁の中に氷結界を発動しておいた。俺の戦略勝ちだ。これで奴の動きは止まった。
「うおおおおお!!!!!」
俺は背中に斬撃を浴びせつつ、奴の頭を目掛けて走っていく。
「氷魔槍!!」
ケルベロスの頭に乗った瞬間魔術を発動。俺の手の中で氷の槍が形成されていく。それもただの槍ではない。
かつて魔神と呼ばれたブリューナク。
彼の使用した最強の武器。
見た者を恐怖させるような禍々しい形をしており。その槍につけられた傷は傷口から凍りつき二度と癒えることはないと言われている。
それがこの氷魔槍ブリューナク。
俺にも魔神のほどじゃないがこの槍を発動させることが出来る。
「うおおおお!!!」
叫び声と共に氷魔槍をケルベロスの頭に突き刺す。
「ギャアアアアア!!!!」
ケルベロスが叫び声をあげ、その拍子に氷結界が破られる。ケルベロスは暴れて俺を振り落とそうとするがもう遅い。
「絶零!!」
槍が刺さっている部分からケルベロスの体が頭から首、胴体、足へと順に凍っていく。
絶零は俺の魔術の中でも最高の威力を誇る魔術で、技が決まれば敵を一撃で氷像にすることが出来る。まさしく一撃必殺の技。しかし、この技にはいくつかの条件がある。
まず、敵の内部に触れていること。これは俺の氷でもかまわない。今のように氷魔槍で突き刺して使うのが基本だ。とにかく内部に接していなくてはいけない。
また、大量の魔力を消費する。
いまの俺の魔力の総量の何割かを使う事になる。半分は使わないと思うが、消費量は他の魔術とは比にならない。
まあリスクの大きい技だが条件さえ揃えば確実に敵を仕留められるというのは強い。
絶零を受けたケルベロスは完全に氷像になり最後は砕け散った。
「終わった」
なんとか勝つことは出来た。しかし、楽な戦いではなかった。反省もしなくてはいけないな。なにはともあれ、俺は勝ったんだ。素直に喜ぶか。
さて、涼風に合流しよう。
大変遅れて申し訳ございませんm(_ _)m
活動再開させていただきます。
今後もよろしくお願いします。




