第五話 荒ぶる魔獣(前編)
「で?なんなんだこいつは…」
「それは私が聞きたいわよ!なんなのよ、こいつ」
昔はどうだったかは知らないが、いまは私営ギルド赤竜の牙のアジトとなってしまったこの教会。
そこで俺と涼風は赤竜の牙に捕まった涼風の同僚を救出する作戦を展開した。
作戦は上手くいき、ボスはもちろん手下も倒して、全員全部全滅だ!って感じだったのだが…
イレギュラーな事態が起きた。
なんと赤竜の牙ボスのザハルの死体から魔獣が生まれたのだ。
「この人…まさか契約者だったの?」
聞いた事ある単語が出てきた。
「契約者って、あの死神に魂を売って力を得るって奴か?」
「ええ、死神と契約すれば、死後魂を死神に喰わせる代わりに恨みを晴らしてくれると聞いたことがあるわ」
つまり、魂を対価にこんなのを召喚したってわけね。
狼の様な頭と体をしているが色は青紫。少し小さい悪魔のような翼。鋭く長い爪と牙。
大きさは三メートルぐらいかな?
なんか、ケルベロスって名前が似合いそうだ。
「こいつの名前はケルベロスってことでいいかな?」
「名前なんてなんでもいいからどうやって倒すかを考えてよ」
「いやでも名前って結構重要じゃね?」
そんな事を話しているとケルベロスの方から爪による攻撃をしてきた。
俺達はバックステップでそれを回避。
「神のみぞ知る異端の神装…発現せよ」
「……双剣抜刀!」
二人で武器を構え、ケルベロスに相対する。
まだ人質がケルベロスの後ろにいる。
「とにかくここから連れ出すか?このままだと人質が危険だ」
「そうね、隙を作ってみんなを解放するよりここからこいつを遠ざける方がいいわね」
「んじゃそういうことで!」
涼風がデザートイーグルで銃撃を開始した。
俺もやるか。
「氷刃!」
刃となった氷がケルベロスに向かって飛んでいく。
致命傷にはいたらないが涼風の攻撃も俺の攻撃も確実にケルベロスにダメージを与えている。
するとケルベロスは怒ったのか俺達の方に突進を仕掛けてきた。
「よし!逃げるぞ!」
というわけで全力でダッシュ。
教会を出て、涼風が倒した下っぱの死体を通り過ぎ。そんなこんなで俺と涼風が決闘した辺りの所まで来てしまった。
「ゼェゼェ…随分と走ったわね…」
「ゼェゼェ…なんかな……ケルベロスの野郎足速いからな、つい遠くまで来ちまった。
まあ、ここまで来れば大丈夫だろう。ここらで片付けるか」
「ええ、いけない犬には躾が必要よね」
涼風が武器をRPGに換える。しかも二丁。
「大丈夫なのか?」
「余裕よ」
普通、肩が外れるじゃすまないと思うのだが…
ケルベロスの突進が再び始まる。
俺と涼風は二手に分かれケルベロスを挟み込むように後ろに回り込みつつ攻撃を加えていく。
突進を繰り返すケルベロスに回避と攻撃を繰り返す。
「氷刃!」
威力は低いが当てやすい技でダメージを溜めさせる。
しかし、俺のナイスな攻撃も目の前で起こった爆発によって阻まれた。
涼風のRPGだ。
「おまっ!殺す気かよ‼︎」
「ごめんなさい!動きが素早くて上手く当てられないの!」
クソ!俺の氷刃ではいつまで経っても倒せない。火力は涼風のRPGに頼る予定だったのに当たらなくては話にならない。
「俺が動きを止める!今度は当てろよ!」
「了解!」
俺は剣を収めて魔術の発動に集中する。
ケルベロスは動きを止めた俺に向かって突進してくる。
「氷結界!」
俺の前に氷で出来た雪の結晶が現れる。
雪の結晶と言ってもケータイの絵文字とかにある、あの雪マークの形をしているあれだ。あれの大きいやつが氷によって作られる。
ケルベロスが氷結界に構わず突っ込んでくる。
氷結界にぶつかったケルベロスは当たった部分から凍っていく。
氷壁と氷結界はどちらもガードを目的とした魔術だ。しかし、氷結界は氷壁と違い少し攻撃的になっている。見ての通り、結界に触れた物は凍らせることが出来る。氷結界の方が優れていると言ってもいいがまあ、その分魔力の消費は氷結界の方が多い。
頭から首、首から前足。ケルベロスの前半分は凍らせることが出来た。しかし、まだケルベロスは生きているようだ。後ろ足は突進しようと動き続けている。
まあ、このサイズになると氷結界も表面を氷で覆うのが精一杯のようだ。
しかし、動きは止めた。
「今だ!」
「了解!」
涼風がケルベロスの尻にRPGを叩き込む。
とんでもない爆発音を上げながら次々とRPGを撃ち込んでいく。
リロードはせず、撃っては消し、再び発現させるのを繰り返す。
しかし、その攻撃も長くは続かない。
ケルベロスは尻尾を振り回し涼風を吹き飛ばした。
「涼風っ!!」
涼風は近くの廃墟の壁に叩きつけられる。
「涼風!しっかりしろ!」
いくら名前を呼んでも動かない。
「クソが!」
俺は氷結界を発動しつつ後ろに回り込む。
氷結界の効果は離れるほど弱くなるが仕方がない。
「喰らいやがれ!」
変わらず振り回されている尻尾をジャンプ斬りで切断する。尻尾を切られて暴れているケルベロスを尻目にすぐさま涼風に駆け寄る。
「大丈夫か⁉︎」
「ええ、ごめんなさい。油断したわ」
「とりあえず少し休んでな。ケルベロスの躾は俺に任せておけ」
俺は氷結界から解放されたケルベロスに相対した。残りは心もとないが動けるのは俺しかいないなら仕方がない。
こっから先は俺の喧嘩だ。