第二話 犯人は奴
奴はフードを被っているため顔は見えない。
しかし、華奢な体と膨らんだ胸部が女性であることを伝えている。
にしてもあの銃は一体なんなんだ?この世界に銃は存在しない事は既に調査済みだ。ましてや俺は武器商人だぞ?
とにかく逃げられる前に声を掛けておこう。
「あんた、聞きたいことがあるんだけど少し時間いいか?」
冷静に行こう。奴は強い。敵に回さない方がいい。だが俺にも目的がある。それを達成するための交渉をすることにする。
奴は頷き、もといた席に座った。俺もその隣の席に座る。いつの間にか奴の手から銃は消えていた。やはり油断ならないな。
「単刀直入に聞く。俺のい…「あんたの探しているのはこれでしょ?」
また途中でセリフを切られたがそれはいい、奴はそう言いながらローブのポケットから俺のケータイを取り出した。
「やっぱお前が犯人か…俺の要求は二つだ。それの返却と俺の家の修繕費。それだけだ」
伝える事は伝えた。あとは反応を待つだけだ。
さあ、どうする?
「あんたさ、なんか勘違いしてない?ケータイを盗んだのは私だけど家を破壊したのは私じゃないわよ?」
そう言って奴はフードを脱いだ。
そこにはこっちの世界ではあまり見ない日本人のような顔があった。やはり性別は女だった。髪は黒に近い茶髪。顔立ちは普通。なんと言うか、弱点はないが顔を商売道具には出来ないという感じの娘だ。ランクを付けるとAダッシュだろう。AあればAから始まる国民的アイドルグループに入れる。
って、奴の容姿を観察する前に奴の言った事を思い出せ!
「は?なに言ってんだ?お前が謎の槍で家を破壊したっていう目撃情報は掴んでいるんだ。今更そんな事を言って誤魔化そうとしたって無駄だ」
「謎の槍?ああ、RPGの事か…あのねぇ?私が攻撃したのは家じゃなくて真犯人よ!てか、あんたの家破壊して私になんの得があるの⁉︎それにまだ気付かないようだから言わせてもらうけど私もあんたと同じ異世界人!あんたそんなんでよく今までこっちで生きて来られたわね!」
まてまてまて、落ち着け。全く情報の整理が追いつかない。こいつも異世界人?RPG?そういえば、さらっとケータイをケータイって言ってたし。
デザートイーグルやRPGと言った近代兵器を持っていることも踏まえるとこいつが本当にあっちの世界の住人であった可能性が高い。
それと真犯人ってなんだ?RPGで家を破壊した訳じゃないのか?
「二つ聞きたい。真犯人はとはどんな奴だ?どこにいる?それとなんであんたは俺のケータイを盗んだんだ?」
「……分かったわよ。ケータイは返すわ。勝手に盗んだりしてごめんなさい。変な疑いを晴らすためにも全て話すわ」
分かった情報を整理しよう。
こいつの名前は涼風みゆき。17歳。ちなみに俺と同い年。日本人だ。こっちに来た時のいきさつはよく覚えていないらしい。その後この街に来て俺と同じように仕事に就いた。その仕事ってのが冒険者だった。
冒険者って言われて想像するのは洞窟とかダンジョンに入って魔物を倒したり、宝を見つけたりして生計を立てる人と想像しがちだが、この世界では違う。冒険者というのは人生の冒険者と言われるほど安定しない職業だ。
冒険者になるのに難しい手順は必要ない。国公認のギルドに行って冒険者登録をするだけでその日から冒険者を名乗れる。しかし、普通はそんな事はしない。ギルドで冒険者になっても回ってくる依頼はペット探しとか、街の外壁付近の魔物の駆除とか面倒な割には金にならない仕事ばかりである。
冒険者として食っていくには私営ギルドに登録し所属するのが普通だ。私営だから裏ルートで依頼が入ってくる。依頼は幅広く。強力な魔物の討伐や暗殺や盗みなど裏の仕事も持つことがある。
まあ、なんでも屋と言ったほうが似つかわしい仕事なのだ。
涼風は私営ギルドに所属する冒険者だそうだ。
で、俺の家に盗みに入る仕事を請けた。盗む物までは指定されていなかったらしい。なんでもいいから盗んで来い、とか言う依頼だった。
更にやけに報酬が高いし、盗んだ品は自由にしていいという条件も付いていた。金欠だった涼風は迷う事なく依頼を請け、犯行に及んだ。
家に侵入するのは簡単だった。鍵を銃で破壊するだけ。で、金になりそうな物を物色していると俺のケータイを見つけた。その後、それを持ち帰り依頼完了の報告をするだけのはずだったがそこにイレギュラーが現れた。
「調べてみたんだけど、どうやら他のギルドにもあなたの家に嫌がらせをする依頼が出てたわ。それもみんな楽な割には高報酬。あんた、こっちに来て何かしたの?」
なにか…心当たりはあるが恐らくそいつではない。一体どこのどいつだろう。
「で、その俺に対する恨みを晴らすために高報酬の依頼をバラまいたら二つのギルドが鉢合わせる結果を招いたと…」
「そう。奴らは赤竜の牙って言うギルドで、やばい薬の運搬や人身売買も平気でこなす裏稼業専門のギルドよ。あっちの世界で言うヤクザよヤクザ!そんなのと鉢合わせたからもう大変よ‼︎しかもあっちは三人。
いつも私は一人で行動するから完全に1対3で、しかもあっちには魔法使いまでいたの。
RPG使ってなんとか逃げられたけど、私の所属してたギルドは潰されるし…もう本当に最悪‼︎」
涼風は興奮気味にアップルジュースをがぶ飲みし少し落ち着きを取り戻したあと、また話しを始めた。
「やっぱ世界が変わっても楽して金を稼ぐなんて無理な話なのね。私って本当に馬鹿。
私の事助けてくれたギルドの皆にも迷惑掛けちゃったし、もちろんあんたにもね。本当に申し訳ない事をしたと思っているわ。出来れば弁償したいんだけどそれも出来るか分からない」
「お前、まさか赤竜の牙のアジトにでも乗り込むのか?しかも一人で」
「よく分かったわね…まあ分かるか。そう、ギルドの仲間が奴らに捕まっているって情報を手に入れたわ。アジトの場所はわかってる。今日中に乗り込むわ。
生きて帰れるかは分からないからせめて飲んだことないお酒の味を知ってから死のうと思ってね。いつも通り酒場に来たんだけど、変な騒動のせいでそれどころじゃなくなっちゃった。
でも最後に同じ異世界人のあんたに会えて良かったわ。もしあっちの世界に帰れたら私の親に伝えて欲しいことがあるの。住所は千葉県の…「いやだ」
俺は涼風の言葉を切った。もう我慢出来ない。
他人の愚痴なんて聞くもんじゃないな。
「いいか⁉︎俺はあっちの世界に帰るつもりはない。こっちの方が楽しいからだ。伝えたい事があるなら自分で伝えるんだな。そのための協力ぐらいはしてやる」
「それってどういう意味?」
「俺も行く」
言った!一度は言ってみたかったセリフベスト5には入る一言。いやーこっちの世界来て本当に良かった‼︎
「あ、あんた馬鹿なの?あんたヤクザって知ってる⁉︎ヤクザよヤクザ‼︎捕まったら間違いなく殺されるか売られるのよ⁉︎」
「大丈夫だ。問題ない。いざというとき俺は結構強い。それに俺は奴らに家の修理をするための金を払わせるために行くんだ。勘違いするなよな」
「ふっ」
誰だ笑ったのは!と思ったら隣に座る涼風だった。こいつでも笑うのか。いや笑うだろう。こいつも俺と同じ17歳。あっちでは高校生活を謳歌していたに違いない。クラスではボッチ。昼休みになると一人ノートに破滅の呪文を書き綴っていた俺とは違う。
「仕方ないわね。着いてくるなら条件を出すわ。これから私は街の外れにある奴らのアジトに向かう。その前にあなたと私で模擬戦をする。私に勝ったら一緒に来ていいわよ。ただし負けたらあっちに帰って私の親に伝言をお願い。そういう条件でいい?」
ありきたりな条件だが、妥当だろう。
「分かった。それで行こう」
俺と涼風は酒場を出た。
第二話です。