第十六話 ケルミス山脈突破作戦(中編)
前方の方で銃声がなり始めた。どうやら始まったらしい。
「アルファチーム!右翼から回り込んで!傾斜を生かしつつ敵を山道に抑え込むの!
ブラボーは左翼に展開。前に出過ぎないようにポイントを維持!正面の敵は私が掃討するわ!
チャーリーは一斉射の後デルタと合流。後方の警戒に当たって!
デルタはそのまま待機。引き続き後方警戒!」
その後、荒々しい銃声のみが通信石から聞こえてくる。銃の名前まではわからないがおそらく彼女は機関銃を使っている。高い連射性と破壊力。それにどこで学んだのかわからない優れた指揮能力も。彼女も本気なのだろう。こちらもしくじる訳にはいかない。
「ティナ、大丈夫か?」
「うん。こういうの慣れてるから……」
「慣れてる?」
「ううん。なんでもない!!それよりみゆき姉大丈夫かな?」
「あいつは結構強いから大丈夫だろ?」
「そうなんだ。かず兄とみゆき姉って付き合い長いの?」
「いや、会ってまだ一週間も経っていないよ」
「それなのにそんなに信頼してるんだ」
「まあ色々あったからな。さて、世間話もそこまでにしておこう。来たぞ」
山賊達が追いついて来た。もうすぐ上り坂に差し掛かる。
「準備はいいよね!?かず兄!」
「もちろんだ!」
山賊の一団が上り坂に入った。
「いまだよ!」
「はあ!!」
剣で馬と荷車を繋ぐ接続部を破壊する。
支えを失った荷車は坂道を勢いよく落ちていく。
山賊は逃げることもなく左右に避ける構えだ。荷車が山賊の横を通る直前。
"火砲"
ティナが火魔術を荷車に向けて放つ。彼女の放った火球は荷車に直撃し、直後、火のついた荷車は耳をつんざくような爆音を立てて爆発した。近くにいた山賊達は爆発に呑まれてそのほとんどが焼死している。奇跡的に生き残っている奴らもおそらく長くは持たないだろう。
あの荷車の積荷は大量の魔結晶だ。魔結晶は受けた魔力の威力を倍増させる効果がある。それを利用した涼風の策だ。
使用済みになった魔結晶が虹色の粉となり宙を舞っている。辺りは焼け野原だ。
「終わったな」
「うん……」
ティナの目からは涙が流れていた。
「ティナ…」
「いいんだよ。あたしの手はもうとっくに汚れているから。やっぱりあたしには楽しい毎日は似合わないんだよ」
「……山城君!そちらが片付いたならそこはチャーリーとデルタに任せて早くこっちにきて!!このままじゃっ!!」
「っ涼風!!ティナはデルタチームと合流しろ!」
そう言い残し隊列前方に向け走る。
「っ!!!」
ティナが何か言っていたが焦っていた俺の耳には届かなかった。
俺が辿り着いた時には酷い惨状だった。
状況は完全に混戦状態。山道は剣と剣がぶつかり合う音が鳴り響く。ここは死と血で溢れている。こちらの数は4人まで減り、先頭の馬車後方まで追い詰められている。だが敵の数はさっき爆破で倒した数よりも多い。
涼風は無事だった。カニマさんや傭兵達と共に銃で必死に応戦している。涼風が乗っていた馬車は弓の矢が大量に刺さっていた。彼女達はその馬車に隠れて応戦している。
「っ!氷刃!」
射撃中の涼風に弓を構えていた山賊を無力化する。
「遅れてすまない!」
「そっちは?うまくいったの?」
「ああ、なんとかな」
「こちらの方はこんな有様だ。優秀な傭兵達を4人も亡くしてしまった」
身体中傷だらけのカニマさんがそう告げる。
「カニマさん。それが傭兵ですよ。あなたに罪はありません」
そうカニマさんに言ったのは傭兵のリーダーっぽい人。時間稼ぎをした時に礼を言ってきた人だ。確かガルティナードと言っていた。
「涼風さん。この後の策はなにかお有りですか?」
「ごめんなさい」
涼風は申し訳なさそうに俯く。
「構わない。しかしこのままでは全滅だ。家族のためにと戦った商人だっている。私はその意志をはたさなくてはいけない。この商団のリーダーとして必ず!」
カニマさんの決意は固いようだ。カニマさんは
「わかりました。ここは俺に任せてくれません?」
みんなの視線が一気に俺に集中する。
「どういうこと?」
涼風が詰め寄ってきてそう俺に問いかける。
「俺の力は知ってるだろ?俺なら1人でもこの戦況を打開できると思うんだよね〜」
「無理よ」
「無茶な事だとは思うけど、それは今更だろ?」
俺の飄々(ひょうひょう)とした態度に怒ったのか、涼風は険しい表情で顔を近づけてこう言った。
「私達は確かにこの数日間、無茶を押し通してきたしこれからもたくさん無茶をすると思う。でも無茶と無謀は違うの。あなたがいまやろうとしているのは無謀なの。わかってる?」
「……知らねえよ」
涼風の高圧的な態度にイラっときてしまった。
「えっ?」
「知らねえよ!んなこと!!」
俺は怒鳴り声を上げた。それと同時に氷刃を放ち回り込んでこちらを弓で狙っていた山賊を無力化する。
「こっちだって状況打開するためにできる事をやろうとしてんだよ!お前、自分の作戦は問題なしで俺のは門前払いかよ!!こんな状況にしたのお前じゃねーかよ!」
「……ごめんなさい」
涼風は泣いていた。
俺はアホなのかもしれない。いやアホだ。涼風だって状況をどうにかしようと必死に頑張っていたのだ。それに乗ったのは俺だ。責任は俺にもある。それを全ては涼風が悪いとでも言うかのようなことまで言ってしまった。
「すまん、今のは俺が悪い」
「いいわよ…」
「それで涼風、改めて頼む。ここは俺に任せてくれないか?俺だって考えなしに突っ込むわけじゃない。気づいたんだ、敵の狙いに」
「え?」
「まあ見てろ」
そう言い残して矢が飛び交う中に飛び出し山賊に特攻を仕掛ける。そして叫んだ。
「私はこの商団の団長!カニマだ!!私は貴様ら山賊のリーダーとの一騎打ちを申し込む!」
少しだけ飛んでくる矢の数が減ったような気がした。
「私が勝てば商団は大人しく貴様らに投降する!!」
飛び交っていた矢は一瞬で途絶えた。




