第十四話 奇襲
「山城君?大丈夫?なにかされなかった?」
心配そうに駆け寄ってくる涼風。
「大丈夫だよ。相手は商人だぞ?お客様に手を掛けたりはしないさ」
「それなら良かったけど…なんの話しだったかは後で教えてね?
それと買い物の方は済ませておいたわ。行商人だから品揃えが完璧というわけにはいかなかったけど、欲しかったものは買えたわ。品物の質も値段の割にはいい物が揃ってた」
「それなら良かった。じゃあ用も済んだし、カニマさんに挨拶してくるよ」
「それなら私もいくわ」
「おーい!みゆき姉!かず兄!買い物は終わった?」
相変わらず元気なティナ。
「ええ、ティナのおかげでいい買い物ができたわ」
「えへへ〜」
頭を撫でられて喜んでいる。本当にまだ幼い少女にしか見えないというのに彼女には何か秘密があるというのだ。
しかしこれ以上の詮索はよくないな。
「ティナ。この後のことなんだが…」
「キャーーー!!!!」
女性の悲鳴が聞こえた。
「なんだ!」
「あっちの方よ!行きましょう!」
「あたしも!」
3人で悲鳴の聞こえた方へ行くとそこには商団の護衛についていた傭兵3人、そのうち1人は肩に重傷を負って倒れている。そしてその3人を半包囲するようにざっと20人くらいの賊がいた。
「こいつら!」
「山賊だよ!1人1人はそんな強くないけど囲まれたら危ないから気をつけて!」
ティナが忠告を促すが、前方の傭兵3人はまさしく包囲されつつある。
「山城君!私が援護するからあの3人を下げさせて!」
「了解!」
「ティナは私の後ろに!」
「あたしも戦えるよ!」
「駄目よ!ここは任せて!
山城君!敵総数は21!増援の可能性もあるから気をつけて!」
「イエス!マム!」
双剣抜刀。
まずはあの傭兵の救出だ。
こちらの動きに気付いた山賊2人が俺の動きを妨害しようと攻撃を仕掛けてきた。
短刀による単調な攻撃をかわし、一撃で急所を突く。1人。
俺の動きに怯んだ山賊Bも容赦なく斬り捨てる。2人。
こいつら、どうやら動きは素人だ。訓練をしているわけでもない。
つまりは雑魚だ。
「ここは俺たちに任せて後退するんだ!」
「すまない!」
怪我をしたやつを抱え、後退を開始する。
山賊もそうやすやすと後退を許してはくれない。
追撃が来る。
「はあああ!!!」
迫ってくる山賊を次々と斬り捨てる。
3、4、5人目!
山賊は俺を包囲するつもりなのか左右に展開し始めた。しかし、両翼に展開しようとするやつらから涼風が銃で撃ち殺していく。
山賊は涼風の攻撃を脅威に感じたのか距離を置き始めた。
だが、近代兵器の射程は伊達じゃない。
後退する山賊を次々と撃ち減らしていく涼風。
山賊達は後退も意味がないことを悟ったようだ。
しかし、撤退はしてくれなかった。
今度は俺やそこら辺に生い茂る木々を盾にしながら散開し始めた。
「こいつら!」
統率がとれている。
しかも相手の指揮はかなり優秀かもしれない。なんせ、涼風の武器の特徴をこの短時間で掴んだ上、対策法を部下に徹底させている。
「山城君!いっかい下がって!!」
「了解!!」
しかし素直に下がらせてはくれない。
追撃が来る。
「クソ!」
俺を盾に見立てて攻撃をしてくるので涼風の援護が受けられない。
魔術を使えば楽勝なのだがここで氷魔術を使うと商団の人に見られて、要らぬパニックを引き起こす可能性がある。
「はあああ!!!」
背後に回りこんで来ていた山賊Fが吹き飛んでいく。振り返るとそこにはおそらく蹴りを入れた後だと思われるポーズで、ティナがいた。
「かず兄!いまだよ!」
2人で全速力で後退する。
涼風は俺たちが射線に入らないよう移動しつつ援護してくれている。おかげでうまく後退できた。
山賊共はティナの参戦に意表を突かれたのか少し様子を見ている。
今の内に作戦会議だ。
「ティナ。まずあなたはカニマさんに大至急移動する準備をしてくれと伝えて来て」
「わかった!」
ティナが商団の中心の方へ走っていく。商団には女性やまだ幼い子供も連れているせいかまだ混乱が治りきっていない。
「大丈夫か!?」
商団に雇われている傭兵達が増援に来てくれた。
さっき後退を手伝った2人もいる。全部で7人だ。
「すまない。本当は俺たちの仕事だというのに」
「構いません。それより傭兵の皆さんは商団の方に付いていて下さい。まだ敵の増援がいる可能性もあります」
「了解した」
涼風の指示は相変わらず的確だ。こんな状況でも先を読んで作戦を練っているようだ。
「それとさっきティナをカニマさんへ伝言に出したのですが、商団はこのままでは危険です。しかし、村にまで行ければ青龍騎士団がいます。山賊も無闇には近づけないでしょう」
「なるほど」
「そこで商団を連れて山賊を強行突破してもらいます」
「「は!?」」
俺は予想はしていたが、傭兵の皆さんはとても驚いた様子だった。
とりあえず、傭兵達には商団の方へ戻ってもらった。
「私たちは変わらずここで敵の数減らしと時間稼ぎよ」
「涼風。今回の突破作戦も囮作戦になるんだろ?」
「え?なんでわかったの?」
「そりゃね。状況的にね…」
「私たちは青龍騎士団とは会いたくない。しかし、商団は騎士団がいる村に行きたい。間には山賊の壁。おそらく一度通るのが限界。なら、私たちに出来ることと言えば商団が通る道を切り開いて、そこを維持するため囮をやることくらいしか思いつかなかったわ」
「十分だ」
「ティナには商団と一緒に行ってもらいましょう」
「そうだな。それがいい」
そうこうしている内にまた山賊が動き出した。
木々に隠れて移動し商団ごと包囲するつもりだ。
「やっぱり完璧な統率ね」
「ああ、だが、これならリーダーさえ潰せばこっちの勝ちだ!」
「ええ!」
山賊の攻撃が再び始まる。