第一話 異世界に来ました。
俺の名はアイス・カイザー。
またの名を山城智一という。
氷の帝王を名乗りつつ高校生活を送っていた。
つまりこの間まで中二病な学生だった俺だ。
高校3年にもなって進路は心配だし、中二病は治らないし、俺の生活は鬱々真っ盛りだった。
だった。つまりもう過去の話である。なぜ過去形なのかというと、いま俺は商人をしているからである。
就職おめでとう?
すまんがいらないよそんな言葉。
なぜって?それは、めでたく決まった就職先は異世界だったから。
もっと詳しく言うならば剣と魔法と魔物とかが構成するファンタジックな世界だ。
俺を異世界に飛ばしたのか、現世にとっては危険過ぎる俺の力を遠ざけるための組織の陰謀か…
なんて、あっちの世界ならただ痛い視線を浴びるだけだったのに、こっちだと本気になるからな。
なぜ俺がこんな世界に来たのかというと、俺にもよくわからない。
俺はあの日、腹が減ったから近くのコンビニに買い物にいった。
そこで弁当買おうとレジに並んだら弁当じゃなくて俺のことピッってやられた。
なんだこいつって思う間も無く気を失い、起きたらそこは異世界だったというわけだ。
まあ、俺としても?
こういう世界には憧れてたし?別にあっちの普通でつまらない生活に戻る気も無いので?いいのだが。
知っての通り、俺はアイス・カイザー。つまり氷の帝王だ。せっかく魔法が使える世界に来たのだ。
中二病でしかなかったのが俺が本物の魔法使いになれるならとても嬉しい。
しかも氷属性の魔術ならなお嬉しい。
そう思っていた。
がんばって願ったおかげか、その願いはうまいこと叶った。
俺は魔法を、しかも氷魔術を使えたのだ。
しかし、せっかく使えたその魔術にはちょっと、いや…かなり問題があってだな。
まあ、その話はまた後でにしよう。
あれは俺がこちらの世界に来て三ヶ月が経過しようとしていた頃である。
俺は前の世界ではゲームとアニメと妄想が趣味だった。
ドラゴンが特に重要じゃないクエストとか、全然終わりが見えてないファンタジーもやり尽くしている。
また、こういう世界のお決まりはアニメとかである程度以上に把握している。
さらに!俺が主人公だったらというシミュレーション(妄想)はすでにやり尽くしている!
アイス・カイザーに敵はいない‼︎
と、言いたいが。この世界について俺は無知過ぎる。
そもそも敵と呼べるものがいなかったら元も子もない。力の持ち腐れだ。
そんなこんなで、俺はこの世界を知るため、また生活費を稼ぐための仕事として武器商人を始めた。
ここまで来るのに色々あったがそれはまた後ほど話すことにして。俺の平穏な商人生活が脅かされたあの日の事を話そう。
事の発端はあの日、こちらの世界に来てからいつもの日課となっている朝のトレーニングをしていた時である。
こちらの世界は力が全てを占める。腕っ節とか剣の技術とかもちろん魔術や魔法も含まれる。自己鍛錬はこっちの世界では必要不可欠である。というのが俺の見解だ。
あっちでも部活動はやってた。体を動かすのに不自由は感じていなかった。ハッキリ言って俺の運動神経はそんな悪くないと思っていた。
だがそこはやはりファンタジー世界。現世の平均以上は通用しない。
色々調べたが、本気でジャンプをさせたら1メートル以上はみんな跳べる。リンゴを握って砕けない男はいない。
というわけで己の軟弱さを払拭するためトレーニングを始めた訳だ。
トレーニングの内容は腕立てとか腹筋とか、そういう部活でやってた基本的なのに加え、剣の素振り、格闘訓練を加えている。この二つはどちらも我流だがゲームやアニメの知識あってかそれっぽい感じになっている。
近所の公園で訓練を済ませ、もう見慣れてきつつある、いかにもファンタジーって感じのレンガ造りの街並みを眺めながら武器屋を兼ねている家に帰っていた。
今日も天気が良い。
異世界だけど太陽が二つとかはないな〜とかどうでもいいことを考えて歩いていると、段々家に近ずくにつれ人が増えているのに気が付いた。そのタイミングで嫌な予感を感じてはいたがその予感が的中するとはその時は思っていなかった。
家の前には人だかりができていた。人垣を掻き分けてなんとか何が起こっているのかを把握できた。なんと俺んちは爆破され半壊していた。
なぜだ?全くを持って意味がわからない。
なんでよりにもよって俺の家が爆破されているんだ?
あれはおそらく爆破の後だろう。
俺は家に突然爆発するような物は置いていない。魔法か?それともダイナマイトみたいなものがこちらにもあるのか?
というより誰にやられた?俺はこっちに来てそんなに時間は経ってない。
恨みを買うようなことは余りやっていないはずだ。それに盗んで売れるほど高価な物も置いていない。
やるとしたら先日の貴族くらいか?だけどあいつは俺に手を出すほど…
とにかく!何がなんだかよくわからんが犯人を見つけて家の修繕費を弁償させないと気が収まらないし、我が家の経済事情もそれを支持している。犯人を捕まえる。で、金、金、金だ。
まずは手掛かりを探す。とにかく野次馬を追い払ってから。散らかった自宅内を探る。
ちなみに警察代わりとして騎士団という組織はあるものの貴族が私有してるようなものだから、公共の福祉のために働かない。
いかにも悪そうな奴らが集まってる組織だ。
まあ奴らが動かないお陰で俺も自由に捜査ができるからいいとしよう。
で、見つけた手掛かりは一つ。
見つけたというより見つからなかったものがあった。それも一つだけ。
俺のケータイだ。
ケータイは俺が現世から持ってこれた服以外の唯一の品だ。財布はレジで落としたっぽい。
そんな大切なものだから俺はちゃんとベッドの下の木箱に入れて置いたのだ。それがなくなっている。爆発で飛ばされたとかではない。
ベッドには土一つ付いていない。
綺麗にケータイだけが持ち出されている。
その後、俺は道行く人にひたすら聞き込みをした。それで分かったことが三つ。
やったのはローブを着た女。他数名。
方法は肩に担ぐ謎の槍。
奴は毎晩南地区にある一番大きな酒場に通っている。
今日中にそいつを捕まえる。
そんなこんなで今はもう昼過ぎだ。朝飯兼昼飯を適当な店で済ませ、自宅で夜の決戦に備え仮眠をとる。
相手は女らしい。だが女と言っても油断はできない。仲間もいるようだし、プロレスラーみたいな奴かもしれないし、魔法とか魔術を使う可能性もある。
それに肩に担ぐ槍という目撃情報も気になる。
考えられる可能性としては噂で聞いた魔道具か…
なんであれ、盗んだケータイと家の修繕費を貰う為には方法は選んでられない。
話が通じなさそうならすぐ強行手段でいく。
その為の準備もしておく。
準備が終わった時にはもうあたりは真っ暗だった。南地区はそれほど遠くない上に行き慣れている。例の酒場にも行ったことがある。
まだ未成年だから酒は飲んでいないが…
この世界の法律では15から成人だから飲めるんだけど、やっぱ多少の罪悪感がね。
酒場は多くの人で賑わっていた。仕事が終わった騎士や冒険者や傭兵。時間の影響も受けてか騒々しい限りだ。
この中から人を探すのは骨が折れそうだ。
と思いきや以外にも早くに奴を見つけることができた。奥にあるカウンターの一番端のほう。
その場に似合わない華奢な体にローブ。フードまで被っている。ここからでは性別はハッキリしないがとにかく話掛けてみることにした。
「おい、そこの…「なんだ〜そこの女みてえな奴〜そこはこのランドス様の指定席って事も知らね〜のか?あぁ⁉︎」
体格のいい飲んだくれのおっさんに例の奴が絡まれた。ランドスとかいうそのオヤジは背中に大剣を背負っている。恐らく冒険者か傭兵だ。
にしても自分を様付けするとか。恥ずかしいとか思わないのかな?まあ、この間まで中二病だった俺が言えたことではないか。
とにかくどうする?二人とも取り押さえるか?
でも、俺にそんなこと出来るのか?だがここであの規模の爆発を起こされたら間違いなく死人が出る。どうする?
悩んでいる間に状況は変化していた。
「んだよてめえ〜返事すら出来ね〜のかよ!まさか俺様にビビって声が出ないとかか⁉︎うひゃひゃひゃひゃ‼︎」
すると奴が急に立ち上がり、手をランドスに向けた。
その手にはこっちには存在するはずの無い物があった。
奴の手には銃が握られていた。
現世のゲームで使ったことがある。確かあれはデザートイーグルだ。
「な、なんだそのおもちゃは!まさか魔道具か⁉︎あぁ⁉︎」
ランドスが大剣を抜き構えた。他の客は驚きこそするものの誰も止めようとはしない。仕方ない。俺は腰に差してある剣に手を伸ばした。
しかし、状況は刻一刻と変化していく。
「………」
奴がボソボソとなにか呟いた。しかし、ランドスは気づいていないようだ。
「痛い目見ないとわからないのか⁉︎五体満足の内にさっさと出て行きな‼︎さもなくば…ふんっ!」
ランドスの大剣が奴に向かって振り下ろされる。直後、酒場に発砲音が響く。それとほぼ同時にランドスの剣が弾かれ床に刺さる。
俺も驚いてはいたが、ランドスに関しては驚愕の度合いが違うようだ。奴にはなにが起きたのかが全く分かっていない。この世界には銃という概念が存在しないので仕方のない事ではあるが。
「て、てめえ!なにしやがった‼︎くそったれが!まさかてめえ魔術師か⁉︎こうなったら絶対生きて帰さねえ‼︎」
ランドスが大剣を床から引き抜き、その勢いのまま奴に振り下ろした。奴はそれを避けながら素早く銃のリロードをし、ランドスに銃口を向け撃った。今度吹っ飛んだのは剣ではなくランドスだった。
撃たれた。床に倒れたランドスは動かない。
俺は急いで倒れたままのランドスに駆け寄る。
「おい!あんた!大丈夫か⁉︎」
「痛てて…くそあの野郎。見たこともねえ魔術を使いやがって」
どうやら生きているようだ。血が出ているようにも見えない。すると近くにゴム弾と思わしき弾丸が転がっているのを発見できた。
さっき奴がリロードしてたのはそういう訳か。
「あんたの負けだ。分かっただろ?」
「ちっ!まあ今回は見逃しておいてやる!」
そう言ってランドスは酒場から出て行った。
さて、ここからが本番かな?
俺は銃を握ったまま立ち尽くしている奴に振り返った。
初投稿です。文章におかしい点があるかもしれませんがご容赦ください。コメント頂ければ幸いですm(_ _)m