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霊幻彼氏・季節限定番外編 クリスマスプレゼントpart2

作者: 南 晶

「あれから一年経ったんだね」


 私はコタツに半身を入れて冬眠前の熊の如く、みかんを貪っていた。

 狭苦しい6畳一間の私の部屋には学生時代から使っているシングルベッド。

 今だにブラウン管の小さなテレビ。

 地デジ化してない旧式のテレビには安っぽいチューナーの線が巻き付いている。

 そして。

 旧態依然とした所帯染みた部屋に髪をチョンマゲにしてハンテンを羽織った私。

 35歳にして既に女を捨てちゃってるのは自覚している。


「そーだな。まあ、お前は全く成長してねーけどな」


 私の横で同じくコタツに入ってた孝之が、横目で私をチラ見して溜息をついた。

 口が悪くて、性格は頑固。

 融通が利かなくて自虐的で、なのに無駄にイケてるこの男は私の元カレだ。


 陸上部で鍛えたスラリとした体型に、柔らかいウェーブのかかった天然茶髪。

 真っ白な顔色に色素の薄い琥珀色の瞳。

 端正なお顔立ちのお陰で女には困らないだろうと思いきや、意外に一途で、私と別れた後もこうやって付き合ってくれている。

 まあ、今となっては、こいつには私しか頼れる人間はいないんだけど。


「明日ってクリスマスイブじゃん?お前、何か生きてるヤツと予定とかないワケ?みかん食ってる場合じゃねーだろ」

「何よ、その言い方は・・・どーせ、私には生きてる友達なんていませんからね。大体、日本人は節操無さ過ぎんのよ。クリスマス祝った後、大晦日は寺で除夜の鐘聞いて、その後、ハシゴで神社に行って初詣じゃん?何、その宗教行事のつまみ食い。クリスマス祝ったならお墓にも十字架立てとけって話だわ」


 みかんの皮を毟り取りながら、私は毒づく。

 クリスチャンでもないのに、彼氏と性夜を過ごす輩が私は許せない。

 いや、ホントは羨ましい。

 孝之は呆れた顔で私を見た。


「お前、ホントに性格歪んでるな。グダグダ言わずに、もっと純粋にクリスマスを楽しめばいいじゃん」

「楽しんでたら、去年だって孝之に電話してないよ!会社は倒産するわ、ヘンなトコに就職しちゃうわ、友達はいないわ、あー、もー、なんかクリスマスっていい思い出ないんですけど!」


 そうなのだ。

 去年のイブの夜、誰も遊んでくれなくて、この部屋で一人で酒飲んでクダ巻いてた時、別れた孝之の事を唐突に思い出してケータイから電話したのが、そもそもの再会だったのだ。

 あの時は、電話に出るとは思ってなかったし、出る筈のない彼とこうして一年も一緒にいる羽目になったんだから、人生は分からない。


「でも、俺と会えたのっていい思い出じゃん?」


 柔らかい髪をかき上げながら、孝之は流し目を送ってくる。

 自分の事をカッコいいと思ってるらしいけど、今更、そんな事にドギマギする程、私も乙女ではない。


「そりゃ、ある意味、貴重な体験をしてますよ。孝之と再会して、更にエッチまでしたのは奇跡的な神の所業ですからね」

「そーだよな。でも、どうして恵利っぺとはヤレるんだろ?他の女には触れもしないのにな・・・」

「あ、何それ!?他の女の子に触ろうとした事あるの?」

「そりゃ、あるよ。アスリートとしては自分の可能性を試したいじゃん?」

「何がアスリートよ。カンケーないでしょ!」

「あーりーまーす!俺は常に己の限界を知りたいんだよ。このカラダでどこまで許されてるのかってさ。あーそう言えば、そろそろ市民マラソンの時期だな。出たかったな~。おい、恵利っぺ、また体貸せよ。女子の部くらいなら軽く優勝してやる。県大会の駅伝チームに入れてもらえるかもしれないぞ?」

「何で私が市民マラソンに出なくちゃいけないのよ!?あんた、また酸欠で私を殺す気?」

「バーカ、死なねーよ、そんな事じゃ。でも俺が殺したら、一緒に死んでくれる?」

「何、そのヘンな日本語は・・・」


 最後の言葉に私はギョっとしてゴクリと唾を飲み込んだ。

 白い孝之の顔が心なしか更に透明感を増して、琥珀色の瞳が赤くなって炎のように揺らめく。

 その途端に、パン!という破裂音が部屋に響いて、私の体が硬直した。

 孝之のお得意、というより、今となってはバカの一つ覚えの金縛りだ。

 身動きの取れない私を上目遣いに見据えて、彼はニヤっと笑った。

 

 うわああ、怖い!

 イケメンが怖い顔すると余計に怖い!


 その時突然、強張った顔に握っていたみかんがブシューっ!と音を立てて破裂した。

 オレンジ色の汁が勢い良く顔に飛び散った瞬間、体の硬直が解けて、私はゴロンと仰向けに倒れる。

 アハハ・・・と声を上げて孝之は私をコタツの上から見下ろした。


「恵利っぺ、お前、ホントに面白いな。怖かったか?」

「ばか!無駄なエネルギーをくだらない事に使ってんじゃないわよ!怖いに決まってんでしょ!これってば、あなたの知らない世界で未知との遭遇したようなモンなんだからね!てか、へんな事急に聞かないでよ!」

「何で?俺的には割と切実な問題だけど?」

「そりゃ、そーでしょうけど!」


 仰向けになった私の上に、孝之が覆い被さってくる。

 私を見下ろす琥珀色の瞳が何だか今日はとても優しくて、金縛りは解けてる筈なのに身動きできない。


「なあ、恵利。俺、呼び出されたのにクリスマスプレゼントもまだ貰ってないんだけど?」

「は?いい年して何言ってんのよ?」


 突然の孝之のボケに私は思いっきり嫌な顔をした。

 孝之は低く笑って顔を近づけてくる。

 そして、私の耳の傍に子犬みたいに顔をすり寄せると小さな声で囁いた。


「死んでくれなんて言わないけど・・・来年も一緒にいていいか?」


 少し弱気な声で子供みたいにそう言った孝之が、何だかかわいくて、でも、すごく切なくなって・・・。

 彼が消えてしまわないように、私はギュっと抱き締めた。

 それが返事だと分かったのか、孝之の長い腕もギュっと私を抱き締め返す。

 私達はお互いの顔を見つめ合って、そして小さく笑った。




「ま、しょうがないわね。てか、私だってクリスマスプレゼントもらったことないんですけど?」

「お前にはもうやったじゃん」

「何をあんたがくれたのよ?」

「俺のカラダ」

「・・・言うと思った」



 明日はイブ。

 急に冷えてきた窓の外に白い雪がチラホラと舞い降りていた。


少し早いですが、皆様も良いクリスマスを!

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