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白い黒猫のタンゴ(短編集)

おでん鍋の湯気には、多分マイナスイオンが含まれている

作者: 白い黒猫

山内 詠さんの「おうちでごはん」の企画に参加させて頂きました。

 本来なら零距離恋愛の一遍として入る物語ですが、企画参加作品ということで独立した形で発表させて頂きました。

 コチラは近距離恋愛シリーズのヒロインの新婚風景ですが、ある夫婦がただご飯食べて喋っているだけの内容なので本編知らなくてもまったく問題はありません。

挿絵(By みてみん)


 今日は夕方上がる色校(印刷物の仕上がりをチェックするための物で色校正の略)を営業の代わりに私が動き、お客様の所に届ける事になった。無事任務を終え建物から外にでると四時三十五分と微妙な時間。久しぶりにその会社の人とお会いしただけに話し込んでしまったのが不味かったようだ。しかも私がいる場所は会社より家の方が近い状況である。そして会社に戻るだけで五時を確実に越える。今日せねばならぬ作業もない。上司と電話で相談した所『明日出来る事は明日やればいいからもう帰れ!』と言われ、直帰させてもらう事になった。


 自由になり歩きだした私の頬に当たる風が、少し冷たくて気持ち良い。先週まで意味不明なくらい暑く、なんとも悩ましい状態であったが、季節はようやく秋を思い出したようだ。ジャケット姿でも、苦もなく活動出来るようになったのは嬉しい。

 定時前に仕事から解放された事で、私のテンションも上がる。通りがかった商店街で美味しそうな練り物屋さんがあった。そこで買い物をした段階で今夜のメニューは決定した。

『今夜は、お・で・ん ですよ~♪』

 帰りの電車の中で夫である渚くんに予告メールを送信。スーパーで大根に蒟蒻にはんぺんに挽肉とキャベツを買って家へと急ぐ。

 お米を研いで電気釜にセットしてスイッチを入れる。卵を四つお尻にヒビを入れてから鍋で茹で、別の鍋でキャベツもバラして茹でてざるにあげその鍋で輪切りにして隠し包丁を入れた大根を下ゆでする。タマネギを刻んで挽肉と一緒に捏ねて丸めて、茹で上がったキャベツにくるんで干瓢で縛る。茹で上がった卵をツルンと剥く。鍋にダシ汁を入れ練り物と意外の材料を土鍋に入れて一気に煮る。

 豆腐とほうれん草があったので白和えを作っていると、おでんの鍋から良い香りが漂い、大根も良い感じに煮えてきたので火を一旦止める。そのタイミングで渚くんからカエルコールがある。おでんという事で電話の向こうでのテンションもなんか高い。そこで練り物を土鍋に投入し再び点火。


 冷蔵庫にある野菜を適当に切って盛りつけ、ジャコを散らして本当の意味での『気まぐれサラダ』を仕上げ、ついでに日曜日に多めに作っておいたきんぴらゴボウを出してテーブルに並べていたら、玄関のドアが開く音がした。家中に漂っているおでんの香りを嬉しそうに嗅ぎながら渚くんは部屋に入ってくる。結婚して一ヶ月経ったけれど鍋は初めて。先週まで暑くてとてもじゃないけれど鍋にする気も起きなかった事もあるが、こうして一つの鍋を夫婦で突くのってなんか楽しいかもしれない。


 二人で席につき、テーブルの上の土鍋の蓋をあけるとダシの香りのついた湯気がボワンと上がる。蒸気で若干潤った肌に見える渚くんは鍋の中を見て『アレ?』という顔をした。

「なんで、ロールキャベツが入ってるの?」

 渚くんの言葉に私は首を傾げる。

「え? 入れない? 家はいつもそうだったよ」

 『フーン』といいつつ、渚くんは、お箸でロールキャベツを取り出し面白そうに見つめながらお皿にのせる。

「でも、美味しそうだからいいのでは? コレも手作り? 凄いね」

 嬉しそうに渚くんはさらに、大根、卵、ゴボウ天などを次々お皿に入れていく。

 そしてまずロールキャベツから食べる事にしたようだ。キャベツを引っ張ったことで、脱げて挽肉の塊が回転しながらお皿に転がる。キャベツを先に食べてからその後肉を食べて『旨い!』と言って笑った。

「あのさ、せっかく巻いたんだから、一緒に食べてよ。お代官に手込めにされる村娘じゃないんだから、脱がさないでよ!」

 大根にハフハフ言いながら齧り付いていた渚くんは、こっちをチラリと見る。

「いいじゃん、食べたら一緒だし。ロールキャベツって食べにくくない? 齧り付いたら中身だけが後ろからデロンと飛び出してきたり、キャベツが切れなかったり」

 言っている事は分かるけれど、一生懸命巻いてつくった身としてはなんか悲しい。しかし『美味しいねコレも』と満面の笑みでパクパク食べてくれるのは嬉しくて、そんな食べ方でもツイ許してしまうのは、おでんのあるホクホクな空間だからかもしれない。

「あれ? 鶏肉は入ってないの? あと『ちくわぶ』は?」

 渚くんはお玉で鍋の中を探りながら聞いてくる。

「鶏肉! それに『ちくわぶ』って?」


 私が住んでいた福岡県では、おでんに牛すじを入れる場合があるのは知っていたが、鶏肉もおでんの具になるとは驚きである。そして『ちくわぶ』がイマイチ何なのかよく分からなかった。

「おでんといったら、『ちくわぶ』は入るでしょう」

 二十数年生きてきたけれど、世の中にはまだまだ知らない事が多いようだ。

 私の想定では、今日作ったおでんは四人分程度の分量だったと思う。実際大きめの鍋に山盛り状態だった。しかし気が付けばその中身は見る見るうちに渚くんの胃袋に消えていった。

 鍋に入ったおでんをあらかた食べ尽くした渚くんは、改めて隣にあった小皿に目を向ける。そこにはほうれん草の白和えが盛り付けられている。何故か眉をよせ困ったような顔でそれに手を伸ばす。

「あのさ、ずっと思っていたんだけど、白和えって、豆腐入れなくても良くない? その方が美味しいし、豆腐は豆腐として単体で喰った方が旨いよ!」

 唖然としている私の前で、渚くんは白和えを二口位で平らげてた後、同意を求めて笑ってくる。

「その方が手間掛からないし、一品増えるし。一石二鳥だよね! 今度から白和え作る時はソレで良いよ!」

『……白和えから豆腐抜いたら単なるお浸しじゃん!』

 そう、ツッこむべきだったのだろう。 しかし唖然とし過ぎて出来なかった。

 かくして、我が家のおでんは全国共通レギュラーメンバーに加え、ちくわぶと鶏肉とキャベツが具材として入った肉団子アンロールキャベツが入るようになり。存在意義を全否定された白和えは我が家の食卓から姿を消した。

 ロールキャベツは最近コンビニおでんにも登場しメジャーになってきましたが、私が最初作ったときは主人に驚かれてしまいました。

 でもロールキャベツって和のダシが結構にあって食べてみると美味しいですよ!お薦めです。


 あと『ちくわぶ』ですが、実は西日本の人は知らない食材だったりします。最近は全国区になっているのかもしれませんが、少なくとも私は関東にくるまで、その存在を知りませんでした。皆さんはご存じなのでしょうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 日常から、題材をえて、こういった表現ができることをうらやましく思います。 [一言] おでんは地方によって具材が違うとはよく聞きますね。 自分は埼玉生まれなのでちくわぶはあって当たり前でした…
[一言] 私はちくわぶ好き!!でも家族は嫌い。 私はつみれでジンマシンが出るので、おでんは今は食べません(でも作る) ロールキャベツはお好みでしょうね。亡くなった母は無理!!と言ってましたが、それ以外…
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