第9話
その女の人は眠っている愛心に近寄り
「愛心ちゃん、大丈夫??」
そう言って、愛心の手を握った。
僕は、なんて言ったらいいのか・・・。
その女の人は僕に気づき、近寄ってきた。
「あなたは?」
「あの、僕は、愛心さんと同じ高校で・・・その・・・」
「太陽くん?」
「え・・・そうですけど・・・。」
「愛心ちゃんに聞いたことあるのよ。
本当にいい青年ね。
愛心ちゃんとお付き合いしているんでしょう?」
「はい・・・。僕がいながら、こんなことになってしまいすいませんでした。」
僕は、頭を下げた。
「いいえ。ありがとうございました。
愛心はインフルエンザにかかって、脳症を起こしかけてたみたいなの。
もし、もう少し遅かったら危なかったみたいなのよ。
本当にありがとう。
愛心ちゃんは、小さい頃両親を亡くして、もみじ学園で育ったのよ。
両親がいないことで、寂しい思いもしたんだろうけど、真っ直ぐで優しく育ってくれた。
愛心ちゃんは私のことを本当に母親だと思ってくれて、太陽くんのことをよく聞いていたわ。」
僕は、初めて知った愛心の過去に驚きを隠せなかった。
でも、不思議にかわいそうなどと思わなかった。
僕が、今度は幸せにしたいと強く思ったんだ。
「太陽・・・・?」
「愛心!!!」
僕は、愛心に近寄り、手を握った。
「ごめんね・・・。迷惑かけて・・・。」
「いや、大丈夫だよ。
ほら、愛心の母さんが来てるよ。」
「先生・・・。」
「愛心ちゃん、大丈夫?
もう、心配しなくていいからね。」
そう言って、しばらく僕たちは話し込んだ。
そして、園長先生は帰っていった。
「太陽・・・学園のこと黙っててごめんなさい。」
「びっくりしたけど、大丈夫だよ。
これからは、話してほしいけど。」
「太陽・・。ありがとう・・・。」
愛心は泣いていた。
「バーカ。すぐ泣くんじゃけん。」
それから、一週間経ったとき、
「太陽、大学はどんな?
獣医って、やっぱり大変なの?」
「まぁね。解剖からわけわかんない。」
「もし、太陽が獣医じゃなくって医者になったら、こんなインフルエンザなんてすぐ治してもらえたのに。」
「なに言ってんだよ。インフルエンザには特効薬があるだろ。
もうすぐ退院だから、体力つけとけよ。」
「そうだよね!!!もうすっかりいいし!!」
そう言って、愛心は笑っていた。
こんな何気ない一言がこの先、僕の人生を大きく変えるとは、このときの僕は
わからずにいたんだ。




