第76話 忘れられし友
(悪魔なのになぜ助けてくれたのかな……)
マシューの脳裏にどうしてもそういう疑問が浮かんでしまう。
それでも、なんとか彼は頭の中から振り払い、これからどうするかを模索した。
とはいえ、最善の行動など彼が思いつけるはずがない。記憶がないため、知識も乏しいのだから。
故に彼は、傍にいるミラに頼るしかなかった。
いや――、はずだった。
なぜ、はずだったのか。理由は、
「大丈夫か? ミラ。酷くやられたみたいだな」
その声の正体のせいだった。彼の名は、アック。先ほどまでシオンと戦闘していた者だ。
今はまだ、そのことを知らないマシューだが。
「なぜお前が……?」
「そうだな……。リーダーに頼まれてな。この町にいる奴らが結構厄介なうえに、しようとしていることまでもが恐ろしいことだと聞いてな」
「そうか……」
「で、あんたらとチームを組めってことになったんだよ」
「だろうな。先ほど闘っていたが、実力は確かに相当なものだった」
「ま、自慢みたいなもんだが、俺はあいつと闘って来たんだぜ」
マシューは記憶がないためか、あいつというのが誰なのか気になっていた。
「あいつ?」
ミラも興味をもっていた。
「シオン・レクータ」
その時、確かにその場の雰囲気が凍りついたのを、マシューは確かに感じ取った。
なぜかはもちろんわからないが。
だが、ミラにはそれが嫌というほどわかってしまう。一度だけ、闘ったことがあるが故に。
「シオンが……いるのか……? この……町に……」
震える声でなんとか話すミラを見ていると、その恐ろしさが伝わってくる。
「ああ。最悪なことにな。こいつらもシオンにやられてな。なんとか助けだせたまではいいが……かなりまずい状態だからな」
そう言いながら抱えていた二人を下ろした時、その顔を見てマシューは息が詰まりそうになった。
アリスとレーラ。
二人とも強いことを知っているがために、マシューは驚くことしかできなかった。
「とりあえず、怪我人が休めるところへ移動しようか」
アックのその提案には二人とも賛同するしかなかった。理由は言うまでもないだろう。
そして、移動しながらマシューは記憶に刻んだ。
シオン・レクータという名を。
(絶対、許さねえ)
そう思ったのは、あまりにも酷いと感じたからか。
それとも、仲が悪くてもクラスメイトだからか。
かつての友に、憎悪を抱いていることを知らずに。