第73話 罠
「何が噂に聞く力だぁ? 図に乗ってんじゃねえよ、クソったれが!!」
シオンは黒い雷を纏い、右拳を突き出す。
常識も非常識をも超えた破壊力を誇る、その拳を。
その拳とアックの槍が交わった時、爆風が周囲を襲った。アリスやレーラは、かろうじて飛ばされていない、といった様子だった。
だが、シオンは気にせず次の攻撃をしかける。
それは大気による攻撃だった。
周囲の大気を操り、剣のようなものを形成する。シオンは無数のそれを、アックに向けて攻撃する。
当然かもしれないが、アックは槍一本のため、防ぐことは不可能だった。それ故、彼は回避行動に移る。
だが、シオンの攻撃はそれを許さなかった。
大気に斬り裂かれ、膝をつくアック。
「てめえ、俺がいつ本気出してねえなんて言った? 罠なんだよ! てめえの闘いたいという意欲を掻き立てるためのな!」
どうやら、彼の初撃は本気ではなかったようだ。だから、アックはそれを受け止めれたらしい。
「く……そ……」
死。
彼の頭に急に浮かんできたその単語。それと同時に彼は理解した。自分はこの怪物には勝てない。圧倒的な差が、壁がある。そして、彼女らを助けられないと知る。
ただ、最後の内容だけは信じたくなかった。偶然、遭遇した彼女らだけは助けたかった。
彼らエクソシストも……。
「……このままじゃあ、終わりだな……」
「……何を言ってやがる?」
シオンはその言葉が少し気になった。アックの様子が不自然だったため。
「…………」
思わず無言になってしまう。
そして、アックは立ち上がった。
「やっぱ、お前には勝てないらしいな。それじゃ、逃げるとするか」
「何?」
「逃げるのは得意だぞ。俺は」
「逃げられるわけねえだろうが!」
「ふっ……。何を言っているんだ? お前は。既に俺は逃げきっているというのに」
「――!!」
シオンは重大な事実を目の当たりにする。
それは瞬きをした瞬間、アック、アリス、レーラの三人がいなくなっていたのだ。
「なっ……!!」
そして、地面にはこんなことが水で書かれていた。
罠にかかったのはお前だ。今までのことは全て、水で作り上げた幻。いずれ、またどこかで遭うだろう。その時まで、じゃあな。契約者。
「クソったれが……!!」
彼は怒りのあまり、破壊衝動に駆られそうになった。
「絶対、ぶち殺す!!!!」
そして、最後に妙なことを呟いた。
「それでも、あいつらには邪魔はさせねえ……」