第72話 アック
(何だ? こいつの自信は……)
シオンは彼を見てすぐに、そう思った。
かつて、マシューを試した水使いの男。そしてなぜ、その男がこんな場所にいるのか。一体、何の目的があるのか。
それは……、
「まあ、お前に構っている暇はないのだが……」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味さ。そこの者たちと、残り二名の負傷者を回収しなくちゃならんのでね」
仲間の救出。
ただそれだけだった。
ただし、シオンにとっては別の意味も含まれていた。
「それは、俺の獲物を奪う、ってことなんだよな?」
「そうとも言う」
「……ちっ。めんどくせえなあ、てめえ。つまり、俺と闘いてえんだろ?」
「……どう解釈してもらっても構わん」
挑発に挑発。
当然、シオンは我慢などできなかった。
「くっ……ははははははははははははははは!! 最高だぁ! 笑いが止まんねえよ! なぁ!!」
直後、彼はもうそこにはいなかった。
既に回り込んでいたのだ。その男の後ろに。
だが、
「遅い」
「何!?」
シオンの蹴りはあっさり止められる。その男の持つ槍によって。
「そう言えば、まだ名乗ってなかったな。あの少年にも」
「…………」
シオンは無言だが、その男は気にしない様子で名乗った。
「俺の名は、アック。この槍の名は、アクラス。そして、」
より強調して、アックは言った。
「エクソシストの中で優れた能力を有する者が集まる、特攻部隊副隊長、アックだ」
一瞬だけ、シオンは硬直していた。が、それもすぐに元に戻る。
それは、強者と出会えた喜びからだろうか。
「へえ……。副隊長か……。ってことは、中々に強いってことだよなぁ。こりゃあ、おもしれえことになりそうだ」
ひとまず、距離をとる両者。
そして、今ここに新たな闘いが幕を上げた。
「とりあえず、てめえみてえな強者は全員俺の敵だ!!」
そして、アックも、
「噂に聞くその力、この俺に見せてみろ!!」
本来の目的は棚に上げて、シオンとの闘いを始めることにしたのだった。
こうして、水のエクソシストと物体を操作する悪魔との闘いが、今始まる――。