第68話 黒き雷
アリスVSシオン。そこにはもう一人、能力者がいた。
不良ではなく、レーラの方だ。
彼女はアリスには手出しはしないよう、言われてはいたが、大事な友達の窮地を目の前に黙っている者などいない。
だからこそ、レーラは大事な友達を助けるために、シオンに向かって大気を纏った拳を放つ。
だが、シオンはそれをハエのように叩き、横腹にすさまじい破壊力を誇る、蹴りを入れた。
「うぐっ……!!」
そのままレーラは数メートル横に吹き飛ばされる。それによって、その方向にある建物が崩れていく。
「てめえは引っ込んでろ!! 俺はこいつに興味があるんだよ」
レーラの方を向き、そう言い放つシオン。
その瞬間。
初めて完全にアリスから目をそらしたその瞬間、アリスはシオンに襲いかかる。
雷の剣。
それは大量の電気を帯びて、シオンを斬りつけた。当たったのだ。初めて、攻撃が。
だが、シオンは臆することはなかった。むしろ、楽しんでいたのだ。自分と闘える相手を見つけたことを。
「いいぜ。やっぱてめえは、最高だ。それでこそ、潰し甲斐があるってもんだぜ、なぁ!!」
雷の剣から発せられ、シオンの体へ流れたはずの電気が、妙な力によって中和される。
「!!」
「ぶち殺す!!」
その時だった。
またしても、シオンが不注意のため攻撃をくらう。しかし、さっきとは違い、攻撃したのはレーラだった。大気を操り、空気砲のようなものでシオンの顔面を攻撃する。
「っ!!」
シオンが少し体制を崩した。その隙をアリスは利用する。雷の剣をシオンへ。
だが、今度ばかりはうまくいかなかった。シオンがアリスの剣を片手で受け止めたのだ。
「……調子に乗るなよ。くそったれが!」
シオンの目つきが一変する。今までのが可愛く思えるくらい恐ろしい目つきに。
「!!」
アリスは一瞬で悟った。
死という言葉を。
「俺が今までずっと本気を出していたと思ったら大間違いだ。俺が本気で闘ったら、」
より強調して、
「一瞬なんだからヨオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
それは咆哮だった。
すさまじい音量で、人のいないこの町に響き渡る。
それと同時に、黒い雷のようなものがシオンの体から発せられていた。
「今度こそ、ゴミ屑に仕上げてやる!!」
二人のか弱き少女に悪寒が走る。だが、そんなことなど関係なかった。彼にとって、これは一つの楽しみであり、そんなことに同情するような者でもない。
ただ、怒りをぶち撒ける怪物。
その彼を、止められる者など存在しないだろう。アリスやレーラも同じだ。
レベル7だろうが何だろうが。
彼の前では、あらゆる法則は無に還る。そういう存在なのだ。
「さて、心の準備はできましたかぁ?」
無謀だった。
逃げた方が賢明だとわかっていた。
弱肉強食という名の世界に立っていると知っていた。
にも拘らず、闘う道を選ぶ二人。愚かなことだと知りながら、その道へ進む。
理由は二つ。
一つ目は、前も言ったように、逃げきることなど不可能に等しいからである。
そして二つ目は、ここで無視すれば、他の獲物へとその牙が剥かれる可能性があるからである。
それは、クラスの誰かかもしれないし、知らない人かもしれないが、そんなことは関係ない。死人が出るのはできるだけ避けるのが当たり前だ。
レベル7なら尚のこと。
だからこそ、恐怖しかなくとも立ち上がるしかない彼女たちは、シオンと闘うのだった。
そうするのが最も賢明だと思ったから。