第65話 奇襲
「私を生贄にしたらどうだ?」
唐突な質問。
だが、マシューはもちろんこう答えた。
「おい、ふざけんなよ。俺がそんな内容に賛成するとでも思ってるのか? もし、罠として生贄を捧げるふりをするなら、俺がやる」
そう。もちろん、ミラは罠としてこの案を提案したのだ。
悪魔を誘き出し、倒す為に。
だが、マシューはそれを認めなかった。いや、認めるはずがない。普通の者なら、簡単に仲間を罠のために利用するはずがないのだ。
マシューもその一人。
それに対して、ミラの方は、
「実験経験の少ない者にやらせる方が愚かだ。それではお前だけでなく、下手をすれば他の仲間もやられてしまう」
「確かにそうかもしれない。でも、俺はそんなことをさせたくないんだ」
「そんなものはただの感情論だ。民間人を危険に晒さないようにするには、どうしようもない時がある」
「…………」
マシューは血が出るくらい噛みしめていた。
「わかってくれたのか?」
「……全然、わかんねえよ」
「?」
マシューの口調が微妙に変化していたことに気付いたミラは、ほんの少しだけ不安を覚えた。
「だってよ、俺があんたよりも強けりゃいいんだろ?」
そのとき、ホテルの窓のガラスが突然割れた。ここは結構地面から高いところなのだが。
そして、そこから聞こえる声。
「エクソシストか。これはまた、随分といい獲物にありつけたな」
たった一人の悪魔。
その姿は金色の髪を長くのばし、青い尻尾のある悪魔だった。
「作戦不要か……」
ミラは少し苦笑していた。
それは、たった一人でエクソシスト二人に挑む悪魔に対してだった。
だが、その悪魔は表情を全く変えなかった。
「私は地の悪魔、マーク。貴様らの魂をいただきに来た」
「上の命令かい?」
「……言う必要はあるまい」
「確かにね」
そのとき、二つの剣が火花を散らす。
「マシュー! 周囲にいる民間人を早急にこの場から離れさせろ!」
「ミラは……」
「私の心配などするな。こんな奴相手に負けなど、私の中にはない」
「聞き捨てならんな。お主、私を少しばかり舐めておらぬか?」
「いいから、行け!!」
マシューはミラに背を向けて、走り出す。
ミラのためにも。民間人のためにも。