第63話 大能力者と能力者と……
アリスは今、見知らぬ不良に絡まれていた。
ただし、その不良はただの不良ではない。対悪魔用能力をその身に宿した者だったのだ。そして、その能力は水を武器とする能力だった。
対して、アリスは電気の能力者。
電気をあまり通さない水とは、相性が悪いのだ。だが、アリスは正真正銘の大能力者、レベル7。たとえ相性が悪くとも、その法則を裏返しにすることが可能かもしれない。
だが、それは相手が弱かった時の話。
今はまだ、アリスはその不良の実力を知らない。自分より弱いかもしれないが、逆に強い可能性もあるのだ。
しかし、レベル7以上の大能力者はそうそういるものではない。
つまり確率で表わすならば、自分よりも強い可能性は一割もないのだ。
そう判断したアリスは、万が一の時のため、警戒しつつ相手の力量を測ってみることにした。
まず、アリスが不良に向かって雷のかまいたちのようなものを放つ。
それを奴は、水のバリアーで防ぐ。
「ちっ」
思わず舌打ちをしたアリス。
「どうした? その程度じゃないだろ? ぶち殺す、ってんならもっと本気でかかってこいよ」
挑発。
だが、アリスは頭にきていても、冷静に判断する。
「挑発、ってのはあんたの専売特許なのね。ほんと、むかつく!」
「そうか。それじゃあ、ちょっとサービス。俺の能力レベルは5だ。余裕の相手だろう?」
「馬鹿じゃないの。そんなんで、引っかかるわけないじゃない。この私が!!」
「ふっ……そうか。君はほんとに……」
「?」
首をかしげるアリス。
対して、その不良は「くっくっく」と、苦笑していた。
「何がおかしい?」
「気付いてないのか? やはり、ガキは無知なこと極まりない……」
「だから、何だって言ってんのよ!!」
声を荒げるアリス。
そのとき、それは正体を露わにした。
「俺はレベル5だと言ったが、それこそが罠。つまり、それにわざわざ警戒してくれたおかげでできた時間を利用し、大技を決める。それこそが、この俺の本当の専売特許だ」
そう。あえて自分の能力を明かし、それに対して警戒をしている隙をつき、一撃で決める大技をしかける。
その大技とは、相手の周囲を水で取り囲み、対象の相手を水圧で押しつぶす、といった非常に強力な技だった。
罠にはまってしまったせいで、回避のしようがないアリスは完全に終止符を打たれてしまった。
だが、そのときアリスの周囲を取り囲んでいた水の大技を、強制的に打ち砕く雷が天から落ちてきたのだ。
水の大技はただの雨のように、周りに降り注ぐ。
その中には、唖然と口を開ける者と、勝ち誇ったような笑みを浮かべる者がいた。
前者は不良。
後者はアリス。
面倒な罠まで施しておいたのにも関わらず、圧倒的な強さを見せつけるレベル7。
「そんじゃあ、あんたの言うとおりぶち殺してあげようか!!」
そのとき、初めて恐怖に染まる不良の面。
もう、彼の瞳には希望というものが全く存在していなかった。
「う、うああああああああああああ!!」
ついに恐怖のあまり、正気を保てなくなってしまった。
そして、レベル7には慈悲というものが欠片もなかった。
「あんたが言ったんだから……。喧嘩を売ってきたのもそっちの方だし。覚悟はできてるよね?」
バチバチ、と雷の音を派手に鳴らすアリス。
そのときだった。
今、誰もが恐れている怪物が現れてしまったのだ。アリスたちの目の前に。銀髪に、青い瞳の少年が……。
「よぉ!! 楽しそうなことやってんじゃねえか!!」
そう。シオン・レクータが。