第61話 多種多様な悪
「さて、仕置きの時間だ」
ヴェインはたった一人、巨大な剣を持って銀行の中にいた。その剣は四メートルぐらいある、西洋風の大剣だった。剣全体が銀色の大剣。
そして、銀行強盗はざっと七、八人くらい。
それに対して、人質は三十人前後くらいだった。
(ったく……。何て様だ。これだけいて、一人も反抗しないのかよ)
そんなことを思っていたヴェイン。
そのとき、再び話し始める。
「わかってると思うが、俺はただの人間じゃねえぞ。死にたくないなら、全員でかかってこい。ま、どの道助かりゃせんだろうがな!」
そう、彼は対悪魔用能力を持つ、能力者の一人。さきほどの轟音は彼の攻撃が原因だったのだ。誰もいないところに放った威嚇攻撃だが。
そして、彼の能力は極めて特殊だった。その能力は、
「ほれ、さっさとかかってこんかい!」
見えない斬撃を放つこと。
ただの銀行強盗相手なら、十分すぎる能力だった。
その斬撃を放つたびに、建物に亀裂が入る。
「少しは抵抗して、楽しませてくれよ。なぁ!!」
「――っ!!」
銀行強盗全員が息をのむ。
それは恐怖からだけではない。殺しを楽しむヴェインに驚いているのだ。
彼らとて、銀行強盗をやりたくてやっているわけではないのだ。金銭問題で困った者が集い、このようなことをしなければ生きていけなかった。だからこそ、仕方なくやっただけのこと。
だが、ヴェインは違う。彼には理由など全くない。ただ純粋に、殺しを楽しんでいるだけだ。
いくら相手が悪人とはいえ、これはさすがに理解ができなかった。
決して、自分たちの悪行を誤魔化そうとしているわけではない。ただ、彼が犯罪を犯さない悪だ、と確信をしていたのだ。
だが、そんなことがわかったところで、事態は変化しないのが現実。
彼ら銀行強盗を守る人などいるわけがなかった。もっと言うならば、人質など動くはずがない。
たとえ、ヴェインが真の悪だとしても……。
したがって、助かるには一つしかない。
逃げるしか。
「さあてと、そろそろ貴様らに切り傷を入れていきますか」
そのとき、銀行強盗の中の一人が背を向けて逃げようとする。
だが、それを許さないのがヴェインだった。
「誰が逃げていいって言った? ふざけんじゃねえぞ、三下が!」
彼の能力、見えない斬撃がその銀行強盗を襲ったのだ。
当たり前だが、そんなものをくらった銀行強盗は一瞬で息絶えていた。
「ちっ……。やっぱ、普通の野郎を殺してもつまんねえわ!」
残りの銀行強盗を薙ぎ払う見えない斬撃。
そして、
「もう安心だろ? さっさとこの建物から出て、警察のところへ行け」
三十人前後いる人質へ話しかけるヴェイン。
「……」
人質は何も言わず、そして全員が彼に頭を下げる。
助けてもらった礼として。
「ったく。ほんと、くそったれな野郎だぜ。俺は……」
一人になったヴェインは、そう呟いていた。