第57話 あいつ
マシューは校長の後をついて行き、自分がこれから使っていく教室にたどり着く。
1-A。
校長は教室のドアをノックし、
「失礼。先生、ちょっといいですかね?」
「あ、はい。皆は、ちょっと待っててね」
その先生はそう言って、教室から出てくる。結構若い女性の先生。
「えー、今日から入るマシュー君だ。私は仕事があるから、後は頼みますね」
「あ、はい。わかりました」
校長はそそくさと去っていく。
「えっと、とりあえずクラスの皆に自己紹介しましょうか」
「はい。宜しくお願いします」
いよいよだ。マシューの初めての学校生活。裏では、悪魔狩りだが……。
まず、先生が先に教室に入る。そして、マシューはその先生に促されてから教室に入る。
「えー、皆。今日からこのクラスで学校生活を送ることになった、マシュー君です」
「宜しく」
「ええと、彼は一応記憶を無くしておられるので、皆はできるだけそういうことを考えて接してあげてくださいね」
「記憶喪失なんだ!」
クラスの中の誰かが言う。
「珍しっ! 俺、初めて見たんだけど」
別の人が言う。
一方では、
「ねえねえ、ちょっとかっこよくない?」
ひそひそ話しているつもりなのだろうが、思いっきり聞こえている。当の本人はまだ知らないが、聞こえる理由は悪魔がすごい聴力を持っているからだ。
「ええっと、君の席はあそこ」
指でさしている方には一つだけ席が空いている。
とりあえず、そこに移動するマシュー。
「私、レーラ。宜しくね」
左隣の女子が話しかけてきた。赤のツインテールの髪といった女子だ。
「宜しく」
そして、ふと右隣を見てみるマシュー。すると、そこには……。
「げっ!!」
電車で遭ったあの女子高生。驚きのあまり、そう言ってしまったマシュー。
「ん?」
今までなぜお互い気付かなかったというと、その女子高生は寝ていたからである。授業の真っ最中だっただろうに……。
そして、この瞬間目覚めてしまったのだ。
「…………」
沈黙。
そして、
「ああっ!!」
「どうしました? アリスさん」
「いや、その……。つか、何でこいつがここに居んのよ!! 全然、意味分かんないんだけど!!」
「お知り合い?」
「知り合いってほどじゃないんだけど……」
「……宜しく」
マシューはこの状況を前にしても、普通に片手を前に出す。
だが、それは簡単に叩かれてしまう。
「あんたも何でそんな平然と話しかけてくんのよ!!」
「いや、別に電車で遭っただけだろ? そんな怒るなよ」
「う……」
何か妙なスタートを切ったような……。そんな気がした。