第36話 揺れ動く思いと後悔
ベリウスVSエリー。体の大きさからすると、圧倒的にベリウスの方が巨大だから有利かと思えるが、実際は違う。
相手よりも遥かに小さい場合、その相手にとって攻撃を当てるということは、相当難しいのだ。ただし、その攻撃を当てればおそらく耐えられないだろう。
逆に、小さい方からすると、攻撃を当てることは容易いが、ダメージを与えるのが難しいものだ。
つまり、大小関係は有利不利には関係ないのだ。
そして、互いに睨みあう怪物……。
この怪物同士の闘い、いったいどちらが勝つのだろうとはマシューは思わなかった。
マシューは決して勝敗が決まらない気がしたのだ。
そんなことを思っていると、ベリウスとエリーが激しく剣と槍をぶつけ合う。
あれ……? 何かがおかしい……。そう、マシューは思った。
……そうだ! なぜ、エリーがベリウスと同等の力を出すことができるのだ?
普通、大小関係のせいでベリウスの方が圧倒的に力が強いはず……。なのになぜ……?
「ほほう……。中々力があるじゃあないか」
「私の力をあまく見ないことね。後悔するわよ、絶対に……」
「それはそれで、楽しみだ。……だが、そのセリフ、そのまま貴様に返そう」
爆発。
炎の攻撃ではなく、あれは爆発だった。
エリーの槍と交えた剣からすさまじい爆発が発生したのだ。そして、そのままエリーを叩き潰すように剣を地面に振り下ろす。
「ぐはっ……!」
「これが……俺と貴様の力の差だ」
「何で……こんなに……あっさりと……。信じられない……」
だが、エリーはまだ諦めない。
「だけど……、私は……死んでも……勝たなくちゃ……ならない……のよ……。絶対に……あんたら全員……潰してやる!!」
槍を支えに、何とか立ち上がるエリー。だが……。
「悪いな。貴様は敵だ。今すぐ死んでもらおうか」
エリーに剣を振り下ろすベリウス。その時、
「何?」
「何が今すぐ死んでもらうだ? ふざけんじゃねえ!」
マシュー。
まるでエリーを守るように、ベリウスの剣を受け止めたのだった。悪魔の姿になって……。その鎌で……。
「こいつは敵だが、闘えねえ奴を攻撃するなんざ、俺は反対だ。それにこいつは何か恨みがあって俺たちを殺そうとしてるんじゃなくて、上に命令されてんだろ? それなのに……。ベリウス、お前はどう思っていやがる?」
「どう思うか……。そんな善人みたいなセリフは捨てろ。たとえ、てめえ自身が善人だと思っていてもだ。そんなことを考えていたら、いずれは足をすくわれるぞ。敵に勝つには、悪になるのが一番なんだよ」
「そうかい……。俺も結構悪魔を殺してきたから、言えた義理じゃねえけどよ……、こいつは殺さないでほしいんだ」
「ふっ……、バカバカしい」
「とにかく、こいつは殺すな。殺すなら、俺も殺せ」
ベリウスとマシューが睨みあう。そして……。
「よかろう……。ただし、わかっているだろうがそいつはもう用済みだ。デサーズの者もただでは済まさんだろう。つまり、そいつは一人でこの世界を切り抜けるなりしなければならん」
「ああ……。ありがとう……」
「礼には及ばん……」
ベリウスは普段の姿に戻る。
「く……、お前に情けを懸けられるとはな……。恥だ」
「まあそういうなよ。お前は俺たちを恨んでないとすれば、殺したいなんてこと思わないはずだ」
「馬鹿なやつだ……。確かに恨んでいるわけではないが、恨んでいるとすれば、それはベリウスの方だ」
「え?」
どういうことだ?
「私は……、ベリウスが最も愛した悪魔をこの手で殺したのだ……」
衝撃的な事実。
馬鹿野郎。その言葉が、マシューの心の中で自分自身に向けて繰り返される。
「奴はおそらく、お前たちの知らないところで私を殺すだろう。まあ、その方がこっちとしても清々しいくらいだがな。だから、私は決して助けてほしいわけではなかった。これだけはお前に伝えておこう」
「…………」
マシューは全く言葉を返せなかった。
そして、エリーはこの場を去ったのだった。