第29話 龍を率いる者(ドラゴンズ)
新たに地上に作られた、マシューがいるアルスの隠れ家。
そこでは、いつものように修行が行われていた。おもにマシューが中心で……。
理由は2つある。
まず1つは、マシューが力の扱いに慣れていないからである。
そして、重要なのは2つ目。マシューは力を簡単には扱えない分、強大であるからであった。それがわかったのはつい最近のことだった。だからこそ、アルスのみんなはマシューの修行をメインにしている。
その修行の後の休憩のとき、この隠れ家に新たな客が訪れた。
その者の姿は黒き巨大な翼を広げる龍の悪魔だった。
「マシューという者がこの世界に来たらしいのだが……。お主ら、知らんかね?」
その黒き龍はそう尋ねたのだった。
龍の前には、今は休憩中のマシュー以外のアルスのメンバーがいた。だが、マシュー以外の者はこの龍を知らない。故に、誰も迂闊に返事をすることなどなかった。
そして、再び龍が話し始める。
「別に悪意を持って来ているわけではないのだが……。まあ、警戒するのはわかる。それでも、マシューに会わせてもらえんかね?」
このままずっと返事をしないわけにはいかないようだ。それは、アルスのこの四人全員がわかっていた。
だから、ここはリーダーのベリウスが返事をするべきだ、と他の三人がベリウスに視線を向ける。
「……なぜ、あんたら龍の悪魔がマシューに会いたいんだ?」
質問に質問で返すのはよくない、と思いつつもベリウスは質問で返す。
「……ふむ。理由と言えば、そうだな。マシューには、生きていた頃助けてもらった恩があってな……。それで、この世界には他にもたくさんの悪魔がいる。つまり、再び組んでもらえるとお互いの生存率が上がると思ってな……」
「…………」
ベリウスは腕を組んで黙り込み、頭の中で整理する。
そして、悩んだ末に出した結果は……。
「少し待っててくれ」
そういうとベリウスはマシューの処へ行く……つもりだった。つもりだったわけは、何とマシューがいつの間にか後ろに立っていたからである。
「あんた……サラムなのか?」
少し間があいて龍は答える。
「そうだ」
「ってことは、死んだのか……。いったい、どこの誰にやられたんだ? あいつは殺したから大丈夫だと思ったんだが……」
「アルマではなく、ロットのギルドに負けたんだ……」
「あいつらか……」
「一応言っておくが、ロットたちもこの世界に来ている」
「……」
まさかアルマだけではなく、ロットたちも来ていたとは……。
ひょっとして、死の王も来ているのか?
「なあ、死の王は来ているのか?」
!!!!
俺の質問に周りが恐怖のあまり、固まってしまったのだった。
「おい、お前……、死の王を倒したのか?」
ベリウスが震えを隠しきれず、若干震えていた。
「そう……だけど……。なんで、そんな……」
周りの状況を見ると、俺まで緊張する……。
「死の王はこの世界には来れない。奴は、一度ここにきて生き返っているからな……。つまり、一度生き返った場合は、二度とこの世界には来れず、生き返れない。まあ、そんなことができれば、世界は狂うだろうが……」
サラムの答えには、俺だけしか安堵のため息をつかなかった。
なぜなら、ここにいる者はおそらく死の王には勝てないからだ。
したがって、本当に切り札になるかもしれないマシューだった。
「それで、もう一度我々と組んでもらえるかね? マシュー」
アルスの全員が顔を合わせる……。そして、
「俺としても、そっちの方がうれしいな。よし、また一緒に闘おう!」
こうして、アルスとサラム率いるドラゴンズがチームを組んだのだった。
この二つのチームを合わせて、アルゴンと呼んだ。