第28話 死の世界に撒かれる赤
マシューたちがいるところから相当遠いところで妙なことが起きていた。
何もない道路の上で、電流が集中してバチバチと青白く光る。そこから、黒くて丸い穴が発生し、少しずつ広がっていく……。その穴からゆっくりと人が出てきた。その者の名は、シオン・レクータ。自称最強の力を持つ契約者だ。
「ったく、そろそろこっちの世界に骨のある奴は来たかな?」
そんな独り言を言いながら、できた穴を閉じる……。そして、穴を閉じてその場所から立ち去ろうとすると、あの金髪の少女が現れた。
「ああ? 何だ、またあのくそ餓鬼か……。そろそろ学習しろよ。俺には勝てねえんだからよ」
「シンニュウシャ。セイメイアリ。ハイジョシマス」
「俺が生きたままこっちに来てるから、キレてんのか? ちっ、めんどくせえ餓鬼だ」
シオンが地面を強く蹴る。すると、そこの部分のアスファルトがこなごなになり、シオンは信じられない速さで突っ込んでいく……。
一方少女は、剣を抜きシオンの攻撃に備える。
シオンはただの拳で挑む。少女は、その拳に剣の切っ先を向ける。ふつうこのままいけば、シオンの拳に少女の剣が刺さるところだが、シオンの能力の前ではそんなことはまず起きない。つまり、シオンはただの拳で少女の剣をこなごなに砕いたのだった。切っ先を殴ったにもかかわらず……。
「はっ。何ですかその剣は!! 紙きれで作ってんのか? ああ!!」
続いて、シオンの拳が少女の腹を襲う。少女は吹き飛び、あらゆる建物を粉砕していく……。
「やっぱりつまんねえな、お前。全然前と変わってねえじゃねえか」
「シン……ニュウ…………シャ」
「さっさと死ね、くそ餓鬼が!!」
シオンは無理やり顔を踏みつけ、黙らせた。
「なあ、おもしれえこと教えてやろうか?」
少女は返事をしないが、シオンは続ける。
「本来生きている奴が死の世界に来れるはずがねえ。だが、俺はあらゆる世界の間にある空間そのものを操って繋げることができるんだ。人間の世界と悪魔の世界だって一緒だ。それも本来は特定の場所でないと移動できねえんだよな」
それともう一つ、とまた続ける。
「俺の能力は物体を操ることって言ったよな。その分制限があると・・・。その制限を教えてやろうと思ってね。だけど、やっぱりそういうのはさあ、実際にやってみるのが一番だと俺は思うんだよなあ。口で説明するのめんどくせえし……。それで、どうするよ。やってみるか?」
シオンの笑みは想像を絶する恐ろしい笑みになっていた。だが、少女は全く動じない。
「……ちっ。本当につまんねえやろうだぜ。てめえはよお!!!」
シオンは踏みつけていた方の足をどけ、代わりに手で無理やり顔をつかんだ。
「さあて、何が起きるか楽しみだなあ」
シオンの手が白く光る……。すると、少女の体がバラバラに砕け散るのだった。したがって、あたりは血まみれ。シオンの服なども血という液体により、真っ赤に染まる。
「ははははははははははははははははははははは!!」
気が狂ったように笑い出すシオン……。もし、一般人がこの光景を見たらまちがいなく即吐くだろう。それほど恐ろしく、そして気持ち悪いなどという次元をはるかに凌駕しているのだった。
「おもしれえよ! もっと楽しませてくれる奴はいねえのか?」
そう言いながら、シオンはその場を去っていく……。
一方、マシューたちは何の危険もなく、修行を行っていたのだった……。