タバコを一つ
「まったく。人使いの荒い……」
そう言って、人間より遥かに優れた者は呟いた。
彼は人間によく似ていた。
しかし、決して人間ではなかった。
なにせ、彼は人類の絶滅を命じられたのだから。
「まずは一服、と。」
しかし、人間より遥かに優れているが故に時間の使い方が上手い。
面倒な仕事の前にタバコを一つ、吹かす。
実のところ、彼にとって人類の絶滅など一瞬で済むことであった。
しかし、彼はあえて期間を長めに提出していた。
なにせ、あれやこれやで彼を振り回す『上司』の対応には彼自身少し苛立っていたから。
「まったく。人を導けと言ったり、かと思えば試練を与えろと言ったり……挙句の果てに滅ぼせだ? いい加減にしろよ、まったく」
ぶつくさと文句を言いながら彼はタバコを放る。
その先には原始生物の一群……より正確には後に人類に進化するはずだった一群がいた。
タバコの火がその一群を燃やし尽くす。
これにて人類はもう誕生しない。
――つまり、人類は絶滅した。
彼の仕事はこれで終わりだ。
『最早人類は進化しすぎました。私であっても滅ぼすには時間が必要です。それこそ、過去に戻る必要もあるかもしれません』
先日、上司にそう言った彼は賢明だった。
なにせ、今から本来の時間に戻るまでの間が事実上丸々休みとなったのだから――。
「少し考えりゃこの方法にすぐ気づくだろうに。そんな事も思いつけないから人類を導く事に失敗するんだよ。あのバカ神め」
聞こえないことをいいことに彼は上司の悪態をつく。
タバコ一本で始まった彼の休暇は彼の心を埋めるのに少しでも役に立つだろうか。




