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転生者の侍女と私と『おとめげーむ』

作者: 春日野 梛
掲載日:2026/07/19

10,000字ちょっとです。

少し長くなってしまいました。

よろしくお願いします。

私はザクソン侯爵家の次女ノワール。私は両親とは似ても似つかぬ色合いで生まれた為、父と母から疎まれていた。


両親と姉は金色の髪に青い瞳。それなのに私だけ黒髪に金目。


母は父から不貞を疑われたけれど、私の顔が父に似ていたので母の疑いは晴れたらしい。


でも黒髪と金目は両親が嫌う厳格であった祖母と同じで、それもあって両親に関心を持たれず姉からはいないものとして扱われて育ってきた。


でも、私はそれを不幸だとは思っていない。私を育ててくれたのは侍女のミラ。彼女は両親以上に私に愛情を持って接してくれた。だからミラは私の母と呼んでもいい人だ。


彼女は少し変わっていて自分を『てんせいしゃ』だと言っていた。前世の記憶を持ったまま生まれてきた人の事だそうで。


ミラはピンクブロンドの髪で空色の瞳をした綺麗な人だ。ミラ曰く『おとめげーむ』の『ヒロイン』の容姿のそれで、子供の時に『ピンクブロンドの髪って事は、この世界はおとめげーむの世界?私はヒロイン?』と狂喜乱舞したそうだ。


『おとめげーむ』とは劇のような物で『ヒロイン』とは主人公の事だと教えてくれた。


だけど、この世界でピンクブロンドの髪はままある色で、ミラは成長するうちに『ヒロインじゃなかった…』と悟ったらしい。


何事も無く貴族学院を卒業した子爵家の三女だったミラは、侯爵家の侍女になり私付きになった。


私の境遇を知ったミラは『お嬢様がきっとヒロインよ!両親と姉に虐げられ、学院でヒーローと出会い救われるのだわ。そして両親達をざまぁするのよ』と言っていた。


私には何を言っているのか理解できなかったけれど。



そして時が経ち私も学院に通う年齢になった。姉は既に学院を卒業しており、婿を取って侯爵家を継ぐために領主教育を受けていた。姉と学院で会わないで済む事にホッとしている。


ザクソン侯爵家の領地は王都から離れているので、学院の寮に入る事になる。勿論、ミラも付いて来てくれる事になった。


ミラは二十八才になっていて『ミラは結婚しないの?』と聞いたら『前世では一生独身でしたから、別に一人でもいいかなと思っています。ノワール様のお側に一生お仕えさせて下さい』と言っていた。


私としてはミラがずっと側にいてくれる事は嬉しかったけれど、ミラ自身の幸せはどこにあるのだろうと思う。私はミラにも幸せになって欲しいのだけど…。



王都にある学院に立つ日の見送りは仲の良かった使用人が数人だけ。準備はミラが全てやってくれた。彼女がいなければ学院にも行けなかったかもしれないと思うと感謝してもしきれない。


道中、何事もなく馬車は王都に入り学院に到着した。寮に荷物を運ぶのを手伝おうとしたらミラに『これは私の仕事です。ノワール様は学院の散策でもしてきて下さい』と追い出されてしまった。


言われた通り学院を散策していたら、樹にもたれて眠っている男の子がいた。年は私と同じくらいだろうか。


気持ち良さそうに眠る彼の膝の上には丸くなった猫も気持ち良さそうに眠っている。つい、猫を触ってみたくて近づくと男の子が目を覚ました。


「…あんた誰だ?」

「ご、ごめんなさい。猫を触ってみたくて。お昼寝の邪魔しちゃったわね」

「いいよ。猫を触りたいんだろ?こいつは大人しいから、ゆっくり撫でてやれば大丈夫だよ」


そう言ってくれたから近くに座って、そっと触ってゆっくり撫でた。


「可愛い…ふわふわ」


猫は撫でたのが気持ち良かったのか、喉をグルグル鳴らし始めた。


「あっ、あの。私ノワールって言うの。貴方の名前を聞いてもいい?」

「俺はエリックだ」

「エリック様ね」

「様とか止めてくれよ。俺はあんたの事をノワールって呼ぶからさ」

「じゃあ、エリックさん?」

「さんって…ま、いいか。あんた綺麗な黒髪だな。だから名前がノワールなのか?」


「私の髪、綺麗?ミラ以外に初めて言われたわ」

「ミラって?」

「私の侍女なの」

「侍女付きって、あんた高位貴族なのか?」

「一応、ザクソン侯爵家…の次女よ」


「なんで一応なんだ?」

「……」

「言いたくなきゃいいよ。あんたの姉の噂は色々知ってるから大体の予想は付く」


お姉様の噂って、どんな噂なんだろう?


「あの、お姉様の噂って…」

「あんまり良くない事だけは確かだな。この学院に入るなら気を付けろよ」


お姉様は何をしたんだろう?お姉様と殆ど関わった事がないから、どんな人かも分からないのよね。


「お姉様は何をしたの?」

「あんた妹だろ。家族なのに知らないのか?」

「…私は家族じゃないもの。家では私はいないものとして扱われてきたから…」

「そっか、あの女は家でもそうなのか」

「家でも、って?」


「あんたの姉……あの女でいいか。あの女は自分より身分が下で、気に入らない者は徹底的に虐め、優秀な者は道具の様に使った。だから、あの女の在学中の宿題やレポートは全て、ある子爵家の子息がやった物だ」 

「そんな…お姉様が?」


「本当の事だ。当時の生徒は卒業しちまってるが、その弟妹が在学しているからな。ここに入学するなら気を付けろって言うのはそういう意味だ」

「でも、それ程の事をしたのに大事にならなかったのは何故?」


「親が揉み消しちまったからだろ」

「…そうなのね…ごめんなさい」


「お前がやった事じゃないだろ?」

「そうだけど…」

「もし何かあったら俺んとこへ来いよ。何とかしてやれるかもしれない」

「ありがとう」


猫はいつしか私の膝に乗って眠っていた。沈黙が流れる。



「ノワール様〜」


遠くでミラの声がした。


「迎えが来たみたい。今日はありがとう。会えて良かったわ」

「ああ。また学院でな」

「ええ!またねエリックさん。猫さんも」


そっと膝から猫を降ろし、エリックさんに手を振ってミラの声が聞こえる方に向かった。


「こっちよ!ミラ」


ミラが私を見付け駆け寄って来る。


「ノワール様、こちらにいらしたんですか。寮は片付きましたよ。戻りましょう」

「ええ、ありがとうミラ」


「何か良い事、ありました?」

「どうして?」

「ノワール様の頬が緩んでますよ」

「えっ、そう?…お友達が出来たのよ」


「良かったですね」

「ええ」


お姉様のした事で学院生活に不安はあるけど、エリックさんが友達ならきっと大丈夫な気がする。


寮に戻り早目に夕食を取って休む事にした。




今日は入学式だ。ミラと共に式が行われる講堂に向かって歩いていると私達を走って追い越していく女生徒がいた。


長いピンクブロンドの髪を揺らしながら走る女生徒は、とある男子生徒の前で転んだ。足元には転ぶ要素は何も無かったのに。


そして、その男子生徒に助け起こされていた。


「大丈夫?ケガはない?」

「は、はい。大丈夫ですぅ」

「じゃあ私は行くから気を付けるんだよ」

「ありがとうございました〜!」


男子生徒が立ち去った後、ピンクブロンドの女生徒は拳を握りしめて叫んでいた。


「よっしゃー!出会いイベント成功!」



するとミラが呟いた。


「…乙女ゲームなの?あの子がヒロイン?」

「ミラ?今のが『おとめげーむ』なの?」

「あー、今のは乙女ゲームの出会いイベントの定番なんです。あの子がヒロインかも知れませんが私の知らないゲームみたいです。でも、私達は関係ないと思うのですが…」

「そうだといいけど…」


「ノワール様、急ぎませんと入学式に遅れてしまいます」

「それはいけないわ。急ぎましょう」


慌てて講堂に向かった。


講堂の中は既に生徒や、その家族が席に着いていて、私は空いている席に座ると隣には昨日出会ったエリックさんがいた。


「よう、昨日ぶりだなノワール」

「こんにちは、エリックさん。貴方も新入生だったのね。学院に詳しいから上級生だと思っていたわ」


「まあ、俺は兄貴達が学院にいる頃から入り浸っていたからな」

「まあ、お兄様方もこの学院に?」

「兄貴達はとっくに卒業しちまってるよ。俺は年の離れた弟なんでな」

「そうでしたのね」


「ほら、前を向いていないと式が始まるぞ」

「はい」



入学式が始まり、壇上に挨拶に上がったのは生徒会長で第二王子のフリード殿下だった。


あれ?あの人、さっきピンクブロンドの女生徒を助けていた人だわ。フリード殿下がミラの言う『こうりゃくたいしょうしゃ』って事ね。


だとすると、フリード殿下の婚約者が悪役令嬢になるのかしら?本当にミラの言う『おとめげーむ』が始まるとしても私は関係ないわよね。


そんな事を考えているうちに入学式が終わった。



掲示板に貼られたクラス分け表に従って教室に入る。エリックさんと同じ一組で席も隣に座った。


ピンクブロンドの彼女は三組だったみたいで『何でぇ私が三組なのよぉ〜!』と憤っていた。


クラス分けは入学前に受けたテストの成績順だから、私はまずまずの成績を取れていたようだ。


一組にはフリード殿下の婚約者のオルガ・ツィータ公爵令嬢もいた。綺麗で優しそうな人なのに彼女が悪役令嬢になるのだろうか?


そう言えば、エリックさんのお家の爵位を聞かなかったけど爵位なんてどうでもいいわ。お友達だもの。




翌日から授業が始まった。ミラが勉強も教えてくれていたから難なく授業についていけた。 


ミラがお弁当を持たせてくれたので、お昼休みにエリックさんを誘う。


「エリックさん、お弁当があるの。一緒に食べない?」

「いいのか?」

「ええ、ミラがお友達と食べて下さいって沢山作ってくれたの」

「そうか。ならあの猫のいる所に行くか」

「私もまたあの子に会いたいわ」

「なら、早く行こう」


教室を出て猫のいる樹に行く。樹の所に着くと上から声がする。


「ほらぁ、猫ちゃ〜ん。こっちおいでぇ。私が降ろしてあげるからぁ」


上を見るとピンクブロンドの彼女が樹に登って猫に声を掛けていた。猫は彼女に威嚇をして、差し出された手に猫パンチをしていた。


そして猫は樹から飛び降りると私の胸に飛び込んで来て、にゃあ〜と鳴いた。


「こんにちは、猫さん」


猫を撫でていると、ピンクブロンドの彼女が樹から降りて私に向かって来る。


「あんた、猫を取らないでよ!イベントを起こせないじゃない!」

「イベント?」


「何だお前は」


エリックさんが彼女に声を掛けると満面の笑みでエリックさんの方を向いた。


「猫が樹に登って降りられなくなってたから、助けてあげたんですぅ」

「猫は自分から降りてきたみたいだが?」

「そうですかぁ?猫が無事で良かったわ」

「そうか、用がないなら、どこかへ行け。俺たちはここで昼食を取るんだ」


ピンクブロンドさんは心底ビックリしたような顔をした。


「あ〜私ぃ、猫を助ける時に手をケガしちゃった〜。痛いなあ〜」

「だったら医務室は向こうだ。早く行くがいい」

「あの〜、私ぃ〜心細いので一緒に行ってくれませんかぁ?」


「何で俺がお前と医務室に行かなきゃいけないんだ?」

「だってぇ、私ヒロインのアーシア・ナロンですよぉ。一緒に行かなきゃいけないんですぅ」


エリックさんは盛大な溜息を吐いた。


「ヒロインだか何だか知らんが俺は行かん。ノワールと昼食なんだ。さっさと立ち去れ!」


怒気を含ませたエリックさんの言葉にアーシアさんは渋々立ち去った。去り際に思いっ切り睨まれたけれど、私がなにか悪い事をしたのかしら?


「変なやつだったな。さあ昼食にしよう。腹がペコペコだ」

「ええ、沢山あるから一杯食べてね」


二人で楽しく昼食を取り、猫にはミラ特製のささ身ご飯をあげた。



寮に帰ってからミラに今日の事を話すと。


「ノワール様、しっかり巻き込まれてるじゃないですか!お友達のエリック様は攻略対象者の可能性が高いです。近づいちゃ駄目ですよ」

「だって…エリックさんはたった一人のお友達なのに…」


ミラは少し考えて、息を一つ吐いた。


「分かりました。折角出来たお友達ですから離れろとは申しません。でも何かありましたら必ず言って下さいね」

「分かったわ」


「では、明日も二人分の昼食をご用意致しますね」

「彼、ミラの『たまごやき』が気に入ったみたいよ」

「そうですか。では少し多めにお入れします」

「ええ、ありがとう」



それからも毎日あの樹の下でエリックさんと昼食を取った。相変わらず、クラスでは友達は出来なかったけれどエリックさんがいるから大丈夫。


時折、アーシアさんから睨まれたりする事はあったけれど、ミラからのアドバイスで一人にならない様に気を付けていたら、それ以上の事は起きなかった。


反対にエリックさんがアーシアさんに絡まれて大変だったようだ。手作りクッキーを渡されたり(食べないで捨てた)、町に出掛けようと誘われたり(勿論行かない)、学院内で行く先々に出没して話しかけられたり。



エリックさんには袖にされ続けていたが、気がつけばアーシアさんの回りには沢山の男子生徒が侍っていて婚約者のいる子息もいた。


アーシアさんに侍っている男子生徒の中には宰相子息、騎士団団長子息、フリード殿下と隣国からの留学生の王子もいる。


ツィータ公爵令嬢はアーシアさんに苦言を呈していたようだが、アーシアさんはそれを虐めと捉え、フリード殿下に泣き付いていた。


そして、何故か私もアーシアさんを虐めていると噂になっている。殆ど近づいた事もないのに。


噂はエリックさんの耳にも届いた様で心配されてしまった。


「お前、あの頭のオカシな令嬢に絡まれてるみたいだな。大丈夫か?」

「絡まれてると言っても睨まれたりするくらいだし大丈夫よ」


「それよりエリックさんの方が大変みたいじゃない」

「俺は大丈夫だ。上手く躱してるからな。それにノワールの侍女のミラからもアドバイスを貰ったしな」


「あら、いつの間にミラとお知り合いに?」

「手紙を貰ったんだよ。それで全部知った。俺が『こうりゃくたいしょうしゃ』かも知れないって事も」


「ミラの言葉を信じてくれたの?」

「ノワールが信頼してる侍女だろ。信用するさ」

「ありがとう」


「だから俺は大丈夫だ。それよりノワールに何かあったら本当に俺に言えよ。約束だからな」

「うん、約束」


この頃には、お互いに好意を持っている事は分かっていて、エリックさんは私を守れる立場になりたいと婚約を申し込んでくれた。


エリックさんは王弟殿下の末息子だった。王弟子息からの婚約打診にお父様は喜んだらしいが、王弟殿下から『エリックとノワール嬢が結婚してもザクソン侯爵家とは付き合いを遠慮させて貰う』と言われ消沈したらしい。


お父様は婚約を渋ったらしいが、お姉様のやらかしを罪に問うと言うと、あっさり婚約を認めてくれた。


エリックさんから私の育った境遇を聞いて、王弟殿下は大層憤慨されたらしい。


『ノワール嬢。我が家に嫁いできたら本来、君が受け取るはずだった両親の愛情というものを溺れるほどに味わって貰うからね』


そう言って下さった。


勿論、ミラも一緒に来てくれる事になっているが、それは叶わないかも知れない。


私の知らない間にミラに恋人が出来たらしい。寂しいけれどミラには幸せになって欲しいから我慢する。



エリックさんと婚約して半年が過ぎた頃、三年生の卒業式があり式の後の卒業パーティーに参加する事になった。


エリックさんと一緒に入場するとアーシアさんが来て。


「エリック様ぁ!貴方は騙されているんですぅ。この女は私を虐めるような根性の悪い女なんですよぅ。こんな女と一緒にいてはいけませんわぁ。私と一緒に来て下さぁ〜い」


「何だ、またお前か」

「ええ、アーシアですよぉ。さあ一緒にあちらへ行きましょう」


「だから、何で俺がお前と行かなきゃならないんだ?」

「だってぇ、私の事好きですよねぇ」

「どうしてそうなる?」


「私がぁ、渡したクッキーを食べてくれましたよねぇ?」

「誰があんな気味の悪いもん食うか」


アーシアさんが私を指差す。


「この女の弁当は食べてたじゃないですかぁ!だったら私のクッキーだって食べてくれても良いんじゃないですかぁ?」

「意味が分からん」


「じゃあ、今からでも良いですぅ。食べて下さぁ〜い!」


アーシアさんはどこから出したのか、クッキーの包みをエリックさんに差し出した。


エリックさんは、クッキーの包みをひょいっと摘み、近くにいた給仕に渡して言った。


「これに何か薬物が入っている可能性がある。至急調べてくれ」

「かしこまりました」


給仕の人は包みを受け取ると急いで会場を出ていった。


「なっ何すんのよぉ!」

「あれには俺がお前に好意を持つように仕向ける何かが入ってるんだろ?」


アーシアさんはもう一つクッキーを持っていたようで、包みから一つを取り出すと自分で食べた。


「ほらぁ!変な物は入ってないですよぉ!食べてよぉ私のクッキー!」

「食べるわけないだろ…俺達は行くから付いてくんな」


エリックさんは私を連れて、この場を後にした。


「変なヤツもここに極まれりだな」

「でも良かった。エリックさんがあのクッキーを食べてなくて」

「食わねえよ」

「ふふっ。私の差し出したお弁当を食べてくれて、ありがとう」

「ミラの『たまごやき』は美味いからな」


二人で笑い合っているとフリード殿下の大声が聞こえてきた。


パーティーの最中に、フリード殿下とツィータ公爵令嬢の婚約破棄騒動が起こった。


「ツィータ公爵令嬢!貴様はこのアーシア嬢を虐め、悲しませた。そんな女とは結婚出来ん。この時をもって婚約を破棄する!そしてアーシア嬢と婚約を結ぶ」


これもミラから聞いていた『ざまぁ』と言うものだとは分かっていたが、実際に目の前で起こるとは思わなかった。


「本気で仰ってますの?殿下」


「ああ、本気だとも。お前のような性悪女とは結婚したくない」

「…婚約破棄承りました。本日までありがとうございました」


ツィータ公爵令嬢はカーテシーをして、この場を辞そうとした時に聞き慣れた声がパーティー会場に響いた。


「あらあら、王命で決まった婚約を破棄するだなんて国家反逆罪ね」 


ドレスを纏い、エリックさんのお父様によく似た方にエスコートされたミラが、会場をヒールの音も高らかに歩いてくる。


「ミラ!」

「ノワール様、ご無事ですか?」

「私は大丈夫。ミラはどうしてここに?」


「ノワール嬢ですね。私はこの学院の学院長を務めております、オランドと申します」

「はじめまして学院長様」


「叔父…じゃなくて学院長!」

「おーエリックじゃないか。元気かい?」

「何してるんですか!こんな所で」

「いやね、ミラから卒業パーティーで馬鹿な事をしでかす奴らがいるって聞いたからさ。止めようと来たんだけど少し遅かったみたいだね」


エリックさん達の会話に割り込む声があった。


「叔父上、何故ここに?」

「こらフリード、ここでは学院長と呼びなさい」

「…学院長、どうして…?」


「さて、フリード。こんな場で婚約破棄をしてただで済むとでも?」

「それは、ツィータ公爵令嬢が悪いのです!アーシア嬢を虐めるから」


「その虐めとやらは、淑女としての常識を説いただけだと聞いているが?」

「他にも色々と嫌がらせを…」

「それは全てアーシア嬢の自作自演だと報告が上がっているよ」


「そんな馬鹿な…」


「それからアーシア嬢、君が手作りだと言って皆に渡していたクッキーには、精神に干渉する禁止薬物が練り込まれていた。王族に対する薬物使用で拘束させてもらうよ」

「そんな!違うわ。あれは好感度を上げる薬で!」


「薬を使った事を認めたね。連れて行って下さい」


学院長の指示で会場にいた教師の一人がアーシアさんを連れて会場を出ていく。アーシアさんはいつまでも『違うって!』とか『私はヒロインなの!』とか叫んでいたが、いつしか聞こえなくなった。


アーシアさんに続いて、フリード殿下やアーシアさんに侍っていた子息達も会場から連れ出された。


「会場にお越しの皆様、お騒がせ致しました。無事事件も解決致しましたのでパーティーをお楽しみ下さい。お騒がせしたお詫びを後日贈らせて頂きます。それでは我々はこれにて退場致します」


学院長の言葉に会場から拍手が起こり、私達の退場後にパーティーは滞りなく行われた。



私達とツィータ公爵令嬢も一緒に学院の応接室に集まって事の顛末を話す。


「オランド、貴方の一人舞台だったじゃない。私もざまぁ返ししたかったわ」

「ミラ、ごめん。面白くてつい」


私は訳が分からなくて、ミラが学院長のオランド様といるのも分からなくてミラに問い掛けた。


「ミラ、どうなってるの?」

「卒業パーティーが『ざまぁ』の舞台だって前に話ましたよね」

「ええ」

「何とか婚約破棄を止めたくて、オランドと会場に乗り込んだんだけど、一足遅かったみたいね」


「仕方ないよ。エリックが届けてくれたクッキーの分析に時間が掛かったんだから」

「クッキーに薬が使われてるって分かったから、アーシア嬢を捕まえられたのよ」


「それは分かるんだけど、どうしてミラと学院長様が一緒にいるのかが分からないの」

「私とオランドが付き合ってるからよ」

「ミラと学院長様が?本当に?」


「ええ。私が転生者である事も分かった上で受け入れてくれたの」

「ミラは面白いからね。誰にも渡さないよ」


「そうだったのね」

「黙っていてごめんなさい、ノワール様」

「いいの。ミラが幸せなら」


ソファに座り俯いたままのツィータ公爵令嬢に学院長が声を掛けた。


「さて、ツィータ公爵令嬢」

「は、はい」

「フリードは薬でああなってしまったが、元に戻ったフリードとはどうしたい?」

「…少し考える時間を頂けますか?」

「それは随意に」


薬を使われていたと分かっても、邪険にされた記憶が無くなる訳ではない。ツィータ公爵令嬢はどんな答えを出すのだろう。


「さあ『おとめげーむ』も終わったみたいだし、俺達は帰るわ」


エリックさんに促され応接室を出る。


ツィータ公爵令嬢も屋敷に帰り、両親と話し合ってフリード殿下との婚約をどうするか決めるそうだ。


ミラと学院長様は、国王陛下に今回の事件の報告をする為に王城に向かうとの事。



エリックさんにお茶でもして帰らないか?と誘われ、まだ話もしたかったから町で人気のカフェに寄っていく事にする。


個室に案内されて席に着く。エリックさんが店で一番人気のケーキと紅茶を注文してくれた。


「ショックか?ミラが叔父上と付き合っててさ」

「いつかは来る事だと分かってた。だけど…」

「ミラが叔父上と結婚したら本当の親戚になれるんだぞ。そう考えたら楽にならないか?」

「ミラと本当の親戚に…」


「それに俺もいる。俺の親父や母親もノワールが早く嫁に来てくれるのを待ってるからな」

「ありがとうエリックさん」


「そろそろ、そのエリックさんてのも止めねえか?」

「エリック…?」

「何で疑問形なんだよ」


「ふふっエリック。ありがとう。貴方がいてくれて良かったわ」

「元気になってくれて良かったよ」 


ケーキと紅茶を美味しく頂きながら、卒業パーティーの事やフリード殿下とツィータ公爵令嬢の事を話した…。



エリックに寮まで送って貰って、別れ際に額にキスをされる。


「またな!」


真っ赤な顔の私を置いて、エリックは足早に帰って行った。それをミラに見られていたけれど。


「額なら許しましょう。口にしていたら一発ぶん殴ってやる所でしたが」

「ミ、ミラ。それは駄目よ。婚約者なんだし…額にキスくらい…」


「ふふっ。ノワール様も大人になられましたね」

「もうミラったら、からかわないで」


明日は学院も休みだし、ミラに学院長様との馴れ初めを聞いたり色んな話をして一晩中語り明かした。



卒業パーティーから数日経った日の放課後、エリックと共に学院長室に呼び出されアーシアさんの事を聞いた。


「彼女は転生者で、この世界は『イケメンばっかりで困っちゃう。私のラブラブ学院物語』と言う乙女ゲームの世界だそうだ。勿論、彼女がヒロインでね」

「本当に『おとめげーむ』の世界だったんですね」


「でね、攻略対象者はフリードの他、宰相と騎士団団長の子息、隣国の王子。それからエリック、お前だ」

「俺ぇ?」

「五人が攻略対象者で、逆ハーレムを完成させると隠しキャラとして帝国の皇太子が登場するそうだ。彼女の本当の狙いは皇太子だってさ」


「学院長様が仰った方は確かにアーシアさんに侍っていましたね。その中にエリックがいなくて本当に良かったです」

「そう、そこだよ。エリックはアーシア嬢に好意を持たなかった。何故だと思う?」


私は少し考えて、自惚れかもしれないけれど思い付いた事を口にしてみた。


「私が…いたから?」


「そう!彼女が配っていたクッキーに入っていた薬はね、少しでも好意がないと効かない物でね。好意があると無条件に食べてしまうんだ。食べる度に彼女を好きになっていく」


「じゃあエリックは…」


「アーシア嬢と出会った時には、既に心に住んでいる誰かさんがいたって事だね」

「お、叔父上!」

「こら、エリック。学院長だよ」


「それでアーシアさんはどうなるんですか?」

「危険分子という事で修道院という名の牢獄に一生入る事になるだろうね」

「そうですか…」


「それからフリードとツィータ公爵令嬢は婚約を破棄…いや白紙に戻したそうだ」

「そうですか…」


やはり一度壊れた関係は元には戻せないんだな。


「さあ、乙女ゲームは終わったんだ。君たちは自分達の学院生活を楽しみなさい!」

「はい、ありがとうございます」


学院長室から出て猫の所に行く事になった。歩きながらエリックに聞いてみる。


「エリックはいつから私を好きになってくれてたの?」

「……最初から…」


「最初って、出会った時?」

「そうだよ!悪いか!」

「ありがとう、嬉しい。私もちゃんとエリックの事好きだからね」

「おう」


エリックはまた額にキスをくれた。


「これ以上やるとミラにぶっ飛ばされるからな」

「ふふっ、そうね」


猫のいる樹の下に二人で腰を下ろすと猫が樹から降りてきて私の膝に座った。


「猫さん、あなたが縁結びの神様かもね」

「そうだな」

「ありがとう猫さん。あなたのお陰で私幸せよ」


にゃあ〜と返事をするように猫が鳴く。



アーシアさんは『おとめげーむ』が終わったらどうするつもりだったんだろう。物語が終わった後も人生は続いていくのに。


ミラは『ヒロイン』では無かった事に気付き、ちゃんと自分の人生を歩いている。


アーシアさんにとって、この世界は『おとめげーむ』だったかもしれないが、私はエリックとこの現実世界を生きていく。




Fin


最後まで読んで頂きありがとうございます。


タイトルを付けるのは苦手です。

今回は特に悩みました(笑)

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― 新着の感想 ―
>アーシアさんは『おとめげーむ』が終わったらどうするつもりだったんだろう。物語が終わった後も人生は続いていくのに。 隠しキャラの帝国の皇太子が本命だったみたいだから、彼と結ばれたら他の連中は切るつもり…
5人に惚れられたらどうやって皇子が出てくるようになるんだろう?4人じゃダメなんだろうか?
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