#2 「星天十二機神・アリエウス」
星天十二機神。それは人族が魔械技術で造り上げた十二柱の武装少女。星座と呼ばれる特別な印をコアに宿し、十二機それぞれが全く異なる特性を持つ。
人族にとってそれは全てを照らす希望であり、魔族にとっては絶望そのもの。しかし、それはひとたび反転してしまえば同じことだった。
魔王という存在が消えた今、兵器は次なる脅威になる。人族にとってもまた、脅威となれば救いなき絶望となる。
故に討伐が決定された。人族の手で造られし十二柱の武装少女は、同じく人族の手で造られし武装少女アマツによって葬られる。
「……理解してもらえただろうか、アマツ特務団員」
「皮肉だね。私の後継機を殺すために、私を使うなんて」
王都郊外、臨時指揮所。第一の機神、アリエウス討伐を目的とした者たちが集まるその場所に、私も討伐に参加する者として訪れた。
現騎士団長、ブレイヴィア・スーレイブは私のことを特別に歓迎してくれた。わざわざ指揮所内のテントに案内して、騎士団長自ら今回の作戦の全容を共有してくれた。
討伐隊による防御結界の破壊、大魔法の消費と時間稼ぎをした後に、騎士団長ブレイヴィアと武装少女アマツが短期決戦を仕掛ける。
「既に作戦は始まっている。後は合図を――」
「……上がりましたね、行きましょうか」
「こうなったか……仕方ない、聖剣を使う」
作戦についての話が終わり後は合図を待つだけとなったその時、何かが弾けるような音と共に強い光が周囲を赤く染めた。
騎士団が用意した閃光は三つで、そのうち赤い光は最終段階であるアマツ投入の合図。作戦開始から間もないというのに、その閃光が上がった。
それが意味するのはただ一つ、作戦で何かが起こったということだけ。それを確かめるために私たちは席を立ち、武器を構えてテントの外に出る。
臨時指揮所の中心に展開されたポータルを通り、その先に広がっていたのは全ての戦いが終わったあとの静かな戦場だった。
「ああ、やはりこれでしたか。指揮官が持っているものが一番大事な物だと思ったのですが、どうやら正解だったようですね」
戦場の中心、死体の山の前で閃光弾専用銃を持つ少女の姿。人の顔に魔械の体と巨大な機装、彼女こそが星天十二機神アリエウス。
かつて、私と同じように人族のために戦った武装少女。数多の戦いを重ねて尚その体に傷はなく、誰も彼女の結界を破れていない証拠。
「王立騎士団騎士団長、ブレイヴィア。あなたに問います。人族は私たちを滅ぼすのですか?」
「ああ、そうだ。お前たちは危険だと判断された」
「……そうですか。王都はそこまでして全てを葬りたいのですね」
無意味な言葉を交わし、お互いに武器を構える。破壊する以外の選択は無く、相容れない者たちが静かな戦場で向かい合う。
機装を起動して全身に装着するアリエウス。それと向かい合い聖剣を構える騎士団長に続き、私も自分の得物を構える。
聖装神剣ゴッデス。祝福を授かっただけの聖剣とは異なり、聖剣の中でも唯一女神の名を冠し、ありとあらゆる敵を斬る。
「私が結界を破壊するので、そうしたら聖剣解放をお願いします」
「ああ、合わせよう」
「……話し合いは終わりましたか? では、さようなら皆さん」
話が終わると同時に駆け出す。アリエウスが両腕を構えると同時に大量の弾丸とミサイルが放たれ、二人で防御結界を展開しながら進む。
防御結界の裏でゴッデスを構え、輝く剣を素早く振るう。刃から幾つもの魔力刃が放たれ、弾丸とミサイルを切り刻みながら突き進む。
「魔力刃を使ったところで、防御結界には無力なことを教えてあげます!」
「弾幕を打ち破るには十分。ブレイヴィアはここで待機して」
「心得た」
「別れた……いえ、その接近は読めています!」
「ただ近づくだけだと思っているの?」
通常兵器である弾幕を破るには十分、でも結界を壊すには至らない。それがお互いに分かっているからこそ読み合いが始まる。
聖剣ほどの威力がなければ結界は壊せず、聖剣が威力を発揮するためには近づかなければならない。だからこそ私は読み合いの中で、大切なはずの聖剣を思い切り投げつけた。
結界を破壊するための聖剣を手離す。その行動が理解出来ないのか、ほんの少し動きが固まった後に回避行動と迎撃行動を同時に取るアリエウス。
後退しながらありとあらゆる武装を使い、聖剣を撃ち落とそうとする中、私は聖剣が落ちるよりも先に前に出て強く踏み込む。
「っ!? 生身で来たところで――」
「生身の人間じゃないなら、どう?」
聖剣ほどの威力があれば、星天十二機神の防御結界は破壊できる。それ即ち、聖剣でなくとも十分な威力さえあれば破壊できるということ。
右手を強く握りしめ、魔力を纏わせた拳を前に突き出す。慌てて下がろうとしているが、間に合うはずもなく。拳が結界に触れ、魔力の過剰供給によって結界が崩れ去る。
「なっ――」
「ごめんなさい、さようなら」
予想だにしない出来事に、驚きを隠せないアリエウス。そんな彼女を横目に聖剣を手元へ引き寄せ、そして彼女の胸に深々と突き刺す。
星天十二機神はアマツの後継作であり、同じく人族の少女を素体としている。違う点は二つ。望んでそうなったわけではないこと、元はただの人族であること。
心臓はコアと置き換えられ、首から下は全て魔工機械に置き換えられ、魔法による精神への影響から完全な記憶消去が施されている。
戦争を盾に造られた悲しい兵器。魔力によって永久に動き続ける悲しい兵器。そんな彼女の心臓であるコアを剣が貫いた。
コアを貫かれた彼女はやがて全ての力が抜け、私の肩に体を預けて永遠の眠りについた。その体は酷く冷たく、まるで最初から生きていなかったようだった。
「……解放する必要も無かったか」
「元からその必要は無かった。手を出して欲しくなかったけど、そこで見届けて欲しかったから」
「……言われずとも、本作戦の最後を見届けることは騎士団長の責務だ」
戦いが終わり、待機していたブレイヴィアにアリエウスを預ける。重い体を難なく持ち上げる彼に後のことを任せ、積み上がった死体の山に近づく。
酷い匂いに臆せず近づき、女神としての力を使って魔法を掛ける。暖かい風が彼らを優しく包み込み、やがて全てが花びらとなり散っていった。
こんな戦いで、多くの人が亡くなった。けど、王都はこの事件すらプロパガンダにするだろう。全ては兵器根絶のために。
この戦いは終わらない。全ての兵器が滅びるその日まで…………
――星天十二機神アリエウス・討伐完了




