#1 「終戦へ導いた兵器」
魔械戦争。それは科学技術の発展阻止を目論む魔王の宣戦布告から始まった、アナザーアース最大規模の大戦争である。
魔法を使う魔族を中心とした魔王軍と、科学で戦う人族を中心とした連合軍。この戦いは多くの悲劇を生み出し、アナザーアース全土を炎の海が飲み込んだ。
そんな中、連合軍によって作られた兵器が全てを変えた。ひとたびその力を振るえば多くの魔族が命を散らし、数多の戦場で多くの命を救った。
兵器の名は武装少女。元勇者の父と元女神の母を持つ少女が自ら志願し、魔械技術によって魔工機械の体を手に入れた姿。
勇者として立ち向かい、女神として人々を救い、兵器として悉くを蹂躙する。その姿はあらゆる種族から称えられ、それと同時に恐れられていた。
戦いの情勢が傾いてからというもの、争いは一方的な物へ変わった。武装少女の参戦によって、全てのパワーバランスが崩れたのだった。
そして、長い戦いの果てに武装少女は魔王と対峙し、勇者として聖剣で魔王を斬った。魔王の計画は終わりを迎え、世界に平和が訪れた。
さて、平和になった世界には不要になる物がある。そう、戦争のために造られた兵器は平和な世界にはもはや必要が無かった。
居場所を失った武装少女は今、どうなっているのかと言うと……
「これだけ、ですか……?」
「悪いな、うちも余裕が無いんだ」
「……そう、ですか」
王都東区、イスターイ通りにあるとある大きな倉庫の中。魔械でも使わなければ到底不可能な荷運びの労働が終わり、その対価として割に合わない硬貨を受け取る少女。
少女の名はアマツ。何でも屋アマツとして王都で働く彼女こそ、先の大戦を終戦へと導いた英雄、武装少女アマツである。
――#1 「終戦へ導いた兵器」――
「はあ……これで今月は何とか……」
貰った硬貨を握りしめ、残高を思い出しながら今月の予定を組み立てる。正直、これでも全く足りてないけど、これでどうにかするしかない。
兵器としての仕事はもうこの世界には存在しない。この力もこの体も、もう必要とする場所も理由もこの世界のどこにもない。
眩しいほどに煌びやかな街の中、街並みに似合わないボロボロの服装で俯きながら歩いているのは、きっと私ぐらいだ。
最初はそれでも良かった。この世界に平和を取り戻せたことが、兵器としての役目が終わったことが、何よりも嬉しかったから。
けど、そのせいで私という新たな驚異への風当たりは強まり、今では元冒険者として身を潜めて生きることしか出来なくなった。
「平和になった世界で、どうしたら……」
そんなことを考えながら裏路地に入り、路地の最奥に構えている小さな建物、何でも屋と書かれている店の扉を開ける。
すっかり慣れてしまった扉が軋む音、思わず目を細めてしまうような暗さの店内、そのどれもが今では私の生活に欠かせない要素となっている。
カウンターまで行って照明をつけたその時、カウンターの上に何かが置かれていることに気がついた。
「"赤い依頼書"……もしかして……」
真っ赤な封筒。その中に入っている物について考えながら、恐る恐る封を開けて中の手紙を取り出す。
差出人は王立騎士団騎士団長。内容は星天十二機神の討伐作戦への招集命令。確かにこの要件なら極秘作戦を示す赤封筒に相応しい。
……いつか、こうなることは分かっていた。けど実際に現実を突きつけられると、これまでよりも感覚が確かなものになっていくのを感じる。
「本当に、兵器はもう必要ないんだ……」
改めて強く思わされる。この平和になったこの世界には、次に魔王と並ぶほどの脅威となりうる物は必要ないのだと。
そして、それを処分するのもまた同じく世界を滅ぼすことが出来る兵器なのだということを。結局は私がやらなければいけないのだと。
……それなら、私はいつ誰によって倒されるのだろうか。女神と勇者の力を持っている私を、一体誰なら殺してくれるのだろうか。
「……弱音なんて、らしくない」
このところ生きる意味について考えていたせいかネガティブな感情が押し寄せてくる。けど、それを何とか振り切って手紙を封筒に戻す。
今はそんなことを考えても仕方ない。物事には必ず終わりが来るものだから、私には私の終わりがあるというだけのこと。
なら、その終わりが来るまで私は私として生きていくだけ。たとえそれが、アマツ・ユウキとしての人生ではなく武装少女アマツという兵器しての人生だったとしても。
「行こう、アマツ。目標は星天十二機神、必ず全て仕留めてみせる」




