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【この結婚が終わる時】外伝 木蓮の花が咲く頃に  作者: ねここ


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 ミコトの口元が動いた。

 

 その声は直接脳に届くような不思議な響きと感覚。ジョルジュはミコトを見つめたまま聞いた。

 

「ドラゴンの名前……柊」


 するとドラゴンはジョルジュの手を離しミコトを見てジョルジュを見た。


「柊、意味はわからないが、いい響きだな。そうか、お前は柊、そしてミコト、私はジョルジュだ」


 ジョルジュはもう一度ミコトに言った。


 ミコトは唇を結び顔をあげジョルジュを見た。ジョルジュは優しい眼差しをミコトに向けている。


 透き通るような肌に光を浴びた湖のような瞳、長いまつ毛にスッと通った鼻筋。見たことのないほど美形の男性。目の前にいるこの人が大魔法使い、この国の王になるジョルジュ・ジュベール。


 ミコトの顔が赤くなる。

 

(ど、どうしよう、こんな綺麗な人、こんな私が、相手など……)

 

 ミコトは緊張と恥ずかしさで唇を結び俯いた。胸の中にいる柊をギュッと抱きしめ、オズオズと後退りし始める。

 ジョルジュはミコトの行動に驚きつつも、優しい笑顔を浮かべミコトに話しかける。

 

「ミコト、私達にはやらねばならぬことがある。互いにその使命を全うする責任がある。だが、異世界から来たミコトに受け入れてもらえるようになるにはそれなりの時間は必要だろう。それは承知している、が、十日後に契りを行わねばならない。だから、お互いを知ろうではないか」


 ジョルジュは顔を赤くしこちらを見つめるミコトを見て内心ため息を吐いた。女性からここまであからさまに避けられたことがない。女性の扱いには自信もあった。


(だが一筋縄に行かない雰囲気を纏うミコトと契りを結べるのだろうか? )


 ジョルジュは再びミコトに声をかける。

 

「ミコト、戸惑うのもわかる。だが……」

 

「は、はい。申し訳ありません。与えられた使命は全う致します。時間を、少しだけ時間を下さい」

 

 ミコトは緊張に声を震わせながらジョルジュに頭を下げた。


「うむ。まず、互いを知るために朝食を一緒に食べよう。ここではなく、城に行こうか」


(え、今!?)

 

 ミコトは顔をあげジョルジュを見る。

 

 ジョルジュはミコトに近づき手を差し伸べる。エスコートしようとしているのだ。

 だがミコトはそれがどんな意味があるのかわからない。それに初めてあった人と手を繋ぐなど無理な話だ。そして何よりジョルジュが輝いて見える。

 

(こんなに綺麗な男性と手を繋いで歩くなど、パニックになりそう)

 

 だが、断るのも失礼だ。ミコトはゆっくりと息を吐き、恐る恐る、目の前に出されたジョルジュの手に柊の手を乗せた。

 

「!? なんだこれは?」

 

 ジョルジュは目を丸くし柊の手を握る。柊はミコトを見る。ミコトは小さな声でジョルジュに言った。

 

「で、出会ったばかりでまだ、あの、ごめんなさい」

 

 ジョルジュはその言葉に口角をあげた。

 

「気にすることはない。このままミコトが柊を抱き、私が柊の手を取り歩けば良い」

 

 こうしてジョルジュはミコトと共に城に戻った。


   *

 

 (どうしよう、食べ方がわからないし、緊張しすぎて……)

 

 ミコトは目の前に並べられた豪華な朝食に戸惑う。テーブルにはフォークとナイフが置かれている。だが、パンや皮付きのフルーツはどう食べて良いのか検討もつかない。

 

 ジョルジュは目の前の料理に戸惑うミコトを見て、モーリスが言った言葉を思い出した。

 

 『手で召し上がって……』


 異世界から来て作法がわからないのは当たり前だ。ジョルジュは笑顔を浮かべミコトに言った。

 

「ミコト、好きに食べて良い。こうして手で取っても構わない。君は異世界から来た人だから俺たちと同じではないから」

 

 ジョルジュはそう言いながらリンゴを齧った。


 ミコトはその言葉に安堵し、少しだけ緊張が和らいだ。

 

(ジョルジュ様は優しい方かもしれない。気取っていないし……)

 

 柊はミコトの膝の上で大人しくしていたが、ジョルジュがリンゴを齧った時、目を見開き山積みにされている苺を目掛け飛び出した。

 

「あ、柊!!」

 

 苺に突っ込む柊を捕まえようとミコトが立ち上がる。だが柊は大きな口を開け山積みの苺をばくんと食べてしまった。が、次の瞬間、柊はブルブルと震え出しミコトは青ざめた。

 

 洞窟から柊を連れ帰る途中、神殿の馬車の中で柊は突然引き付けを起こしたように震え出した。柊の体温がどんどん下がりミコトは慌てて柊を服の中に入れ温めた。その後、体が温まった柊は元気になった。生まれたばかりの柊はドラゴン王になるといえども幼いドラゴンと同じまだか弱い存在なのだ。

 

 ミコトは慌てて柊を抱き上げたが、その体は温かい。それに口はもぐもぐと動いている。

 

「柊は苺が好きなんだな」

 

 ジョルジュは青ざめ柊を抱くミコトを見て目を細め言った。

 

 (え? )

 

 ミコトは柊を見る。柊は口の中を苺だらけにし、きょとんとした顔でミコトを見た。

 

「……ああ、よかったです……」

 

 ミコトは柊を抱きしめ、初めてジョルジュに笑いかけた。

 その笑顔を見たジョルジュの心に光が差す。不思議な感覚に戸惑いつつ、ジョルジュはミコトに言った。

 

「やっと、ミコトの笑顔が見れたな」

 

 ジョルジュはそう言ってミコトに笑いかけ食事を続けた。その笑顔にミコトの心臓が音を立てる。

 

(!? ジョルジュ様の笑顔、本当に眩しくて、綺麗……)

 

 ミコトは目を逸らし柊の手から溢れた苺を一つ口に入れる。自分の心臓の音が聞こえる。目の前の景色が鮮やかに見え、ミコトはその変化に戸惑いながらも、気を紛らわせようともう一つ苺を口にした。

 甘酸っぱく、優しい香りはミコトの心をほのかに色付けた。


 ミコトは目の前で優しく微笑むジョルジュを意識した。


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