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【この結婚が終わる時】外伝 木蓮の花が咲く頃に  作者: ねここ


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最終話 木蓮の花が咲く頃に

 ジョルジュはその場から動けないでいた。残酷な現実に時間だけが過ぎてゆく。


 一体これからどうしたら良いのだろうか?

 どんな選択をすればいいのか?


 この状態のミコトを連れ戻る選択もある。ミコトの心情を知ったジョルジュにミコトをこのままにしておくことは出来ない。だったらこの状況のミコトを連れ帰る。その選択が一番現実的なのだ。

 

(この状況でもあの世界に戻れば、ミコトの意識が戻るかもしれない。再び起き上がりあの笑顔を見せてくれるかもしれない)

 


 ジョルジュの心に光がさす。

 

(諦めるのはまだ早い。ミコトの現状を嘆くよりも、この状況でもミコトを連れ帰る選択、あの世界には柊もいる。この世界のミコトがあの世界に戻った時、奇跡が起こるかもしれない。少しでも可能性があるのなら諦める選択などしたくない)

 

 ジョルジュはミコトを連れ戻す決意をした。


 これまでを後悔するよりも、この先を考えたい。一分の望みがあるのならそれに全てを賭けたい。

 

「ミコト!! 帰ろう!! 柊の待つあの世界に!!」

 

 帰ろうと決めたジョルジュがミコトに触れた時、部屋の中が光に溢れ、神の声が聞こえた。

 

『ジョルジュ、お前に一つ教えてやろう。ミコトを連れ元の世界に戻ってもミコトは目覚めない。それでもお前はミコトを連れ帰るのか? それがミコトの望み? そして、私の意思に反しても?』


 その言葉と共に目の前にメシエの神剣が現れた。ミコトの心臓を刺した剣。その剣はミコトと共にこの世界に移転していた。


  *

 

『……追いかけても、捕まらないかもしれません。捕まえても、意味がない、いえ、後悔する』

   

『…………私もそんな私を見せたくないです。でも、もしそんな私を見つけたら、殺してください。それが希望です』 


 

 脳裏に蘇るミコトの言葉。ジョルジュにこの姿を見られることを一番嫌がったミコトの気持ち。

 

 目の前に横たわるミコトを見てジョルジュは目を瞑った。


 目の端から涙が溢れる。

 


 ドラゴン王が誕生したらミコトの希望を叶えたい。


 その希望はジョルジュ(愛する人)から与えられる死。

 

 

「ミコト、もっと早く気がついていたら、ミコトをもっともっと大切にできたのに、もっと沢山話をして、もっと思い出を作って、愛しあえたのに。ミコトの願い……叶えよう。私の手でその願いを叶えるから、どうか私も一緒に連れて行ってくれ」

 

 この後に及んで後悔ばかりが押し寄せる。なぜ素直にミコトに愛していると言えなかったのだと、津波のように襲い掛かる後悔の波はジョルジュを飲み込んでゆく。


 けれどどれほど後悔してもその時には戻れない。

 

 ジョルジュはミコトの額にキスをした。

 ミコトの顔にジョルジュの涙が落ちる。それでもミコトはピクリとも動かない。


 ジョルジュは目を閉じ深呼吸した。


 ミコトを殺す。愛する人の願いを叶えるため。


 

 ジョルジュは神剣に手をかけた。

 その時だった。

 

「オギャーオギャー」

 

 静寂を切り裂くような赤子の声にジョルジュは目を開ける。

 泣き続ける赤子の声、そのオーラ、ジョルジュは目を見開き赤子に歩み寄り絶句した。

 

 そこには自分そっくりな赤子がいる。

 

「まさか……」

 

 泣き続ける赤子の手に触れた。赤子から流れる魔力を感じる。その魔力は自分と同じ。その子の髪は金色、瞳は深い黒に近いブルー。

 

「私と……ミコトの……子供……」

 

 大粒の涙が頬を濡らす。手を伸ばしその子を抱き上げる。赤子から記憶が流れ込んできた。

 

 この世界に帰ってきたミコトはジョルジュの子をお腹に宿していた。

 十ヶ月が過ぎた頃ミコトはこの子を産んだ。


 あの世界の一ヶ月はこの世界の一年。


 誰も入れない特別なこの部屋。起き上がれないミコトが出産するなど想像もできない現実に周囲はパニックを起こした。

 しかも髪は金色で瞳は黒に近いブルー。


 徹底的に調べたがなぜミコトが妊娠したのか一切わからなかった。


 だが間違いなくミコトの子、この男の子はアンジュと名前がつけられていた。

 

 ジョルジュは我が子を抱き上げ涙を流しその頬にキスをした。

 

「私とミコトの子、お前はアンジュ・ジュベール」


 アンジュはジョルジュを見てピタッと泣き止み、ジョルジュの頬に小さな手を当て笑いかける。


ジョルジュは迷う。この幼い子を残しミコト共に死を選ぶことが正しいのか。だが、三人一緒に移転できる魔力はない。ミコトを残しアンジュと共に去ることは……出来ない。 


 ジョルジュはその小さな手に愛おしそうにキスをし言った。

 

「アンジュ、父上と母上は深く愛し合っていたんだ。だから、お前が生まれた。アンジュ、心から愛している。お前を置いて逝く私たちを許してくれ。どうか愛しい柊よ。この子を守りたまえ、神よ祝福を与えたまえ」

 

 ジョルジュは意を決し、我が子に移転魔法をかけた。

 アンジュの周りに光が集まる。強烈な光がアンジュを包みそのままジョルジュの世界に移転された。


 

 ジョルジュはアンジュのいなくなったベッドを見つめ唇を結んだ。


 (一緒に生きてあげられない父を恨んでいい。でもどうか、どうか幸せな人生を歩んでほしい)

 

 ジョルジュはミコトを見つめる。その瞳には深い愛が見える。


 ベッドの脇に腰を掛け呼吸器を外し、ミコトの唇にキスをした。


 最後のそのキスは、深い暗闇に沈むミコトの心に届くような深い深い愛があった。

 

「ミコト、約束どうりあなたの願いを叶えるよ。俺も一緒だ。願わくば……あなたの生まれ変わったその場所に行けますように」

 

 ジョルジュはミコトを抱きしめるように抱き上げ、そのままメシエの神剣で二人の心臓を貫いた。

 

 ジョルジュは薄れる意識の中ミコトを見つめる。ミコトの瞳から一筋の涙が流れた。


  * 


 モーリスはマグノリアの下に強烈な光と共に突然現れた赤子を見て絶句した。

 ジョルジュとミコトの姿はない。赤子だけ異世界から戻ってきたのだ。


 震える手で赤子を抱きしめる。


 柊も現れ、その赤子を見て涙を流し始める。


 モーリスは目を閉じ赤子にかけられた魔法を読む。 

 ジョルジュがモーリスに託した思いが伝わる。

 

 柊は天を仰ぎ、再びアンジュを見てその額に祝福のキスをした。そしてスヤスヤと眠るその顔に頭を擦り付け泣き続ける。

 

 全てを知ったモーリスも涙が枯れ果てるまで泣いた。

 その涙がアンジュの頬に落ちるとアンジュは目を覚ましモーリスを見つめる。

 金色の柔らかい髪に、黒に近いブルーの瞳。その面影に二人を思い出す。


 ジョルジュとミコトの子、二代目ジュベール公爵アンジュ・ジュベール。


 愛する二人の子供。



 モーリスは涙を拭いジュベール公爵家のエントランスにあるマグノリアを見上げ願った。

 

この先、大魔法使いと異世界の娘が現れた時、どうかこのような悲劇が二度と起きないように。新たなドラゴン王が生まれる時、全ての人が幸せでありますように。


  

 そしてモーリスはこの先の大魔法使いと異世界の娘のためにこの一連の儀式を書き残した。

 

 大魔法使いと聖女は五ヶ月間の婚姻を義務付ける。

 

 それがあったのならばミコトとジョルジュは離れることはなかった。

 

 五ヶ月が過ぎた時、互いの気持ちを重視し、婚姻継続、離婚、聖女の帰還を決める。

 それを神殿の絶対的な意向として後世に伝えた。


 そしてモーリスは自らに二種類の魔法をかけた。ジョルジュ・ジュベールが生まれ変わっても常にその魂のそばにいられるように不変の服従魔法をかけた。そして、セザールの恨みを買いこの悲劇を起こしてしまった自らを呪う魔法も。


 マクシミリアンはコレットと結婚しなかった。コレットはアンジュ・ジュベールを 育て、支え、独身を貫きその生涯をアンジュに捧げた。

 


 ある晴れた朝、モーリスはアンジュを抱き、エントランス前のマグノリアを眺めていた。

 柊も毎朝アンジュの成長を見守るようにやってくる。


 三人で穏やかな陽射しのもとマグノリアを眺めていると、アンジュが突然マグノリアを指差した。


 柊とモーリスはアンジュの指した方向を見て何かに気がついたように涙をこぼす。


 マグノリアは枯れていなかった。まだ生きていると言うように、小さな緑が芽吹いている。




 木蓮の白い花が再び咲く頃に、二人は再会を果たす。


 遠い未来のその日を待つように、木蓮の木も命を繋いだ。





 

この結婚が終わる時 外伝【木蓮の花が咲く頃に】を読んでくださった皆様へ。


この拙い話を読んでくださって心よりお礼を申し上げます。


なんだかんだで七万文字になってしまいました。


このお話はバッドエンドですが、ここまでお付き合いくださってありがとうございました。

途中、相当悩みましたが、やはり決めた通りの終わり方を選びました。

お許しください。


***


この物語が【この結婚が終わる時】のベースとなっております。


この物語の主人公はおそらく本編を読んでいただいた読者様にはお分かりになるかと思います。

この先は本編に散りばめられたジョルジュとミコトの痕跡を感じていただければ嬉しく思います。


ここからまた本編再開いたします。


次話「ジョルジュ・ジュベール」はこの物語を読んだ方々にとって、その後を垣間見られるように書きました。

よかったら読んでください。


沢山の感謝を込めて。


ねここ

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