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【この結婚が終わる時】外伝 木蓮の花が咲く頃に  作者: ねここ


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真の姿

 ジョルジュは痕跡を辿り異世界に辿り着いた。


(ここにミコトがいる!!)


 ジョルジュが立っている場所は薄暗い部屋の中だった。その部屋は広く、一見すると豪華な部屋だが、どことなく無機質な雰囲気がある。

 目に映る全てが初めて見るものだが、慧眼を宿したジョルジュにはその全てがわかる。だがあの世界で感じていたミコトの気配がない。


『柊ミコトという一人の人間』


 柊の言葉を思い出す。

 

(聖女ではない一人の人間だからだろうか? 本当にここにミコトがいるのだろうか?)


 この部屋に漂う無機質さにジョルジュが首を傾げた時、突然部屋の中が明るくなった。

 大きな窓から強い光が差し込み、薄暗かった部屋を明るく照らし出す。

 その眩しさに目を細ると 視線の先に大きなベッドが見えた。そのベッドは窓際に設置されている。

 

(誰かが寝ているのか? )

 

そのベットに近づく。ただ、ジョルジュの胸にミコトだという期待感はない。なぜならベットの上のシルエットは小さく、子供のような大きさだったからだ。


(子供?)


 ジョルジュはベッドに近づく。ミコトの中の痕跡を辿りここまで来たジョルジュが場所を間違えるはずはない。想像と違う現状に微かな不安が胸をよぎる。

 だが、ミコトがここにいることは確かで、席を外しているかもしれない。

 そう思いながらその枕元に立ち、そこに横たわっている人を見た。


 青白い顔に、乾いた唇。真っ黒な髪は艶もなく頬のこけたその顔は死んでいると言ってもおかしくないほど生気がない。だが、その人の面影は初めてあった日のミコトと重なる。


(まさか!? いや、ミコトじゃない、ミコトは、こんな、こんな姿じゃ……)


 頭では否定しても、ジョルジュの瞳はそれがミコトだと分かった。

 一気に体温が下がったように手足が冷たくなり、ジョルジュは小刻みに震え出す。


 目の前の現実を認めたくないと思いながらも、姿が変わってもミコトという人間の面影に溢れんばかりの愛情がジョルジュを襲う。


 その愛情は温かいものではない。まるで凶器のようにジョルジュの心を突き刺すのだ。

 

「……ミ、ミコト……」


 ジョルジュは絞り出すようにその名を口にする。だがミコトはぴくりとも動かない。

 信じたくないその姿にジョルジュの呼吸が止まる。

 

(なぜこんな姿に? 一体何があった?)


 目の前にいるミコトは眠っている。浅い呼吸、それを補助するような道具が付けられている。

 

「何があったんだ!! なぜ? 何が……あの世界で怪我をした事が……原因なのか」


 ジョルジュは息をのみ震える指先でミコトの顔に触れる。その時、ミコトの全てがジョルジュに流れ込んできた。


   *

 

 柊ミコトは幼い頃から病気がちな弱い子供だった。ミコトが三歳を超えた頃にはほぼ起き上がれなくなり、十八歳を迎えた時、ミコトは昏睡状態に陥った。そしてそれ以来目を覚まさなくなった。


 

 ミコトを死なせたくない柊家は命を維持する方法を選んだ。もう二度と起きることはないと知っていても、ミコトの心臓が動いている限りミコトが存在するからだ。


  *

 

 『帰ってもただ生きているだけの生活、意味がないと思ったり』


 ミコトの言葉を思い出す。

 

『家族は、両、両親がいます。私の年齢は、十……、二十三歳です』


 正気のない瞳? 青白い顔? 今のミコトを、今日まで生きてきた、いや違う、生かされてきたミコトに私は何を思った?


 何一つ知らないで、笑わない暗い女だと……そんなことを……


『四日間眠っていました。それから立ち上がりましたが倒れ…………手で食事を……半日ほど神殿を歩き回り椅子に腰掛けフォークを使って食べ始めました』


 あの世界にきて、自分が動けるとは思っていなかったミコト、三歳からほぼ起き上がれなかったミコトがあの日見せた行動の意味……


  *

 

 ジョルジュは立っていられなくなり、床に崩れ落ちる。

 

「ミコト、あなたはいつからこのままだったんだ? 動かない、指一本動かせない中で、ミコトの心だけは深い闇の中で誰にも気づかれることなく生き続けていた。私は、そんなミコトに何を思い何を言ったんだ?」

  


 あの日ミコトに家族のことを聞いた時、ミコトは口籠った。その理由、ミコトは自分の両親に愛着が持てるほど接していない。そして年齢。ミコトは自分の年齢が昏睡状態になった時のまま止まっていた。


 ミコトは、人との接触になれていない。だから戸惑い、契りに恐怖を感じ逃げた。そして、人との交流、友達、誰かを好きになる、愛する感情その全てが初めてだったのだ。


 そんな中でも懸命に学び、生き、今まで経験できなかった人生をあの五ヶ月で経験した。そんなミコトにジョルジュが言った言葉。


『もっと人とコミニケーションをとった方がいい。人は一人で生きられない。そんなミコトを見て人は魅力的に感じない』


 絶望に近い後悔、ミコトの背景を知ろうともせず、心に抱える苦痛を見ようともしなかった自分自身の傲慢さに打ちのめされる。


 あの無神経な言葉の後、ミコトは涙を流し、部屋を出ていった。


 目が眩むような後悔、目の前の物言わぬミコトに泣いて詫びを入れたとしても取り戻せない言葉。


「ミコト、ミコト、なぜこんな俺のためにこの世界に戻ったんだ! 俺にはそんな価値などない。ミコトに愛される価値など何一つない!」

 


 ジョルジュはミコトの手を握り怒りに近い気持ちを口にする。

 

「ミコト!何か言ってくれ!! こんな俺を罵倒する言葉でもいい!何か、何かを言って欲しい!! ミコト! お願いだ!!」


 縋り付くようにジョルジュはミコトを揺らす。だがミコトは物体のようにジョルジュの振動に合わせ揺れるだけだ。そこに微塵の意思も感じない。


(ずっとマグノリアを見ていたあの人形のような姿、虚な瞳、お前は何を思っていたんだ?)

 

 ジョルジュはベットから見える窓を見て涙が止まらなくなった。そこにはマグノリアの木があった。

 寝たままのミコトが見える狭い世界で唯一、命を感じさせる有機的な存在。


 それが木蓮の木だった。

  

 ジョルジュは震える手を伸ばしミコトの頭に触れた。その暖かさに胸が締めつけられる。

 

 苦しい、息ができないほど苦しい。でもミコトの苦痛を考えたら私の苦しさなどなんでもないことだ。


 自分の意思で何一つできない暗闇にいるミコト。


 生きる選択も死ぬ選択もできないミコト、ミコトはあの世界で人生を取り戻そうとあの世界で生きることを選んだ。


 そしてミコトはあの時、死ぬという選択も出来た。

 


 ここでは出来ない死ぬという選択が。


 

 それなのに…


この結婚が終わる時 外伝 【木蓮の花が咲く頃に】を読んでくださっている読者様。


次話をもちまして、この物語は完結いたします。


後一話お付き合いいただければ幸いです。


そして誤字脱字のご報告!心より感謝申し上げます!


外伝、本編、今後ともよろしくお願いいたします!


感謝を込めて


ねここ

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