ドラゴン王誕生
部屋に戻ったミコトはベッドに倒れ込み声をあげ泣いた。
もう二度と触れることが出来ない人。ジョルジュ。
どれだけ涙を流してもミコトの心の空洞は埋まらない。泣いて泣いて泣き疲れたミコトはいつの間にか眠ってしまった。
目が覚めた時、お昼近くだった。
(魔力の移転を行わなければ)
ミコトは起き上がり、約束通り木蓮の木の下に行った。木蓮はミコトに応えるように芳香を漂わせる。ミコトは木蓮の木に触れ今から柊をドラゴン王に覚醒させると伝えた。木蓮もそれに応えるように優しく花を揺らす。
静かな昼下がり、快晴の空。
いつもなら結婚式の準備で忙しい神殿は珍しく静かだ。
(静かだわ。お祈りの時間かしら?)
神殿の静けさを不思議に思いながらミコトは柊を呼んだ。
柊はどこからともなく現れる。だが、何とも言い難い憂いを含む表情を浮かべミコトの前に立った。
「柊、どうしたの? 悲しいことでもあった?」
ミコトを悲しげに見つめる柊に声をかける。柊は何かを伝えたいような表情を浮かべるがミコトにはわからない。植物や命の囁きが聞こえても、柊の言葉はわからない。
だが、今日は柊がドラゴン王になる日、ミコトとの別れを惜しんでいるのかもしれない。
目の前の柊は立派なドラゴンに成長した。見上げても顔が見えないほど大きく育った。
ミコトは万感の思いを胸に、両手を空に向ける。柊がミコトの両手に顔をつけた。
「大きくなったね。柊。最後の移転を始めるね」
ミコトは背伸びし、柊の額に自分の額をつけジョルジュからの魔力を与える。
体から何かが抜けてゆく感覚。
『ミコトの中のジョルジュが消えた』
ふとそんなことを考えた瞬間、ミコトの瞳から涙が溢れる。
めでたい日に涙はダメだとハンカチを取り出しそれを拭う。
次は祝福だ。
ジョルジュの魔力移転を終えた柊に変化はない。ミコトはそのまま両手を掲げ祝福を与える。
その瞬間、世界が黄金色に輝き歓喜の雨が降り注いだ。木蓮の木は大輪の花を咲かせ、その雨の中、柊は真っ黒なドラゴンに変わった。
【ダークネスドラゴン!!】
大魔法使いの唯一無二の召喚獣が誕生した。
ミコトは禍々しいドラゴンに驚く。だが黄金の瞳は柊だ。
「柊? なの?」
ミコトが名前を呼ぶと柊は黄金のドラゴンに変化し頭をミコトに擦り付ける。
(柊は真っ黒なドラゴンにも変化できるようになったのね。でもどんな柊でも私の可愛い柊だわ)
ミコトも柊を撫で、抱きしめながらその額にキスをし、ドラゴン王になった柊を祝福した。だが、その凄まじい威圧感は魔力のないミコトでも後退りする圧がある。だがそれも柊。ミコトは愛すべきドラゴン柊の覚醒を喜んだ。
「柊、立派な王様になったね。これからもジョルジュ様を助けてあげてね。」
柊はその言葉に頷く。するとどこからか、あの洞窟で会ったドラゴン達が飛来し、ミコトと柊の頭上をくるくると旋回し始めた。
王となった柊を迎えに来たのだ。
「柊、行っておいで」
ミコトは柊に話しかける。柊はコクンと頷き大空に飛び立った。力強い羽ばたきは台風のような風を起こし周りのものを吹き飛ばす。荒々しくも美しいドラゴン王。ミコトはその後ろ姿を見つめ息をついた。
(ようやく全てが終わった。後はジョルジュ様の即位と結婚式……あ、そうだ! モーリスさんに報告に行かなきゃ)
ミコトは神殿に入った。が、いつもなら人がいるはずの神殿はとても静かだ。
どこか様子がおかしいと思いながらもモーリスを探していると結婚式をする予定の会場から呻き声が聞こえる。その声は神殿という場所に似つかわしくない苦しそうな、苦痛を伴ううめき声だ。
(一体何が?)
不審に思いながらミコトはそのドアを開ける。
そこには床に浮かび上がる魔法陣の中心に縛り付けられ、血だらけのマクシミリアンの姿があった。
「キャー!!! 一体、何!? マクシミリアンさん!?」
ミコトは目を見開きマクシミリアンに走り寄る。するとマクシミリアンを縛り付けていた魔法陣が弾け消えた。
!?
(この感覚、この神殿を浄化した時のあの感覚!?)
ミコトが息絶え絶えのマクシミリアンに近づいた時、部屋に飛び込んできた人物を見て目を見開いた。
「セザール、さん?」
憤怒の形相でミコトを睨むセザールの様子はどこかおかしい。一体何が起きたかわからぬミコトはマクシミリアンに触れる。マクシミリアンは目を見開きミコトを見る。もう聖女で無くなったことにマクシミリアンは気がつきミ息絶え絶えに口を開いた。
「ミ、ミコト様、すぐに……お逃げ、ください!!」
ミコトは訳がわからない。一体何が起こっているのか、先ほどの魔法陣、その覚えある感触。
そもそも、なぜ神殿に人がいないのかさえ、全くわからない。
「アーハハハ!! 魔法陣が消えたと思い来てみれば、あなただったか! ふむ。元聖女様のその表情。フハハハ!! 聖女様も知らなかったのですか!? 今日ジョルジュ様の即位と結婚式が行われていることに!!」
「!? 嘘……そんなはずは……」
ミコトはその言葉に息がつまる。
(聞いていない。そんなこと、聞いていない)




