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【この結婚が終わる時】外伝 木蓮の花が咲く頃に  作者: ねここ


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それでも

 それでも……

 

 ミコトはジョルジュの腕の中で太陽が沈んだばかりの夜空を見つめた。まだうっすらと暖色が残る紺色。そこに光る一番星。混ざり合う色彩と光。その光は金色、愛する柊の瞳、そしてジョルジュの髪の色だ。


(……それでも、いい。愛されなくても、それでも、この夕焼けの空のような目眩く感情を与えてもらえた思い出を胸に生きていける。私は今、生きているのだから)


 ミコトは涙を拭い顔をあげる。


(この気持ちもいつか優しい思い出に変わるように、そうなるように生きる選択が私にあるのだから)


 ミコトはジョルジュを見つめ言った。


「ジョルジュ様、お話くださってありがとうございます……()()()()私は、ここで、新しい人生を始めます」


 ジョルジュはその言葉を聞き、ミコトの額に自分の額を当て言った。


「ありがとう、ミコト、この世界を選んでくれて、ありがとう」


 ジョルジュはミコトの言葉を聞き、心からの喜びを感じた。ジョルジュにとってミコトは一体なんなのか、ジョルジュ自身よくわからない。ただ、ミコト泣けば胸を締め付けられ、喜べば嬉しい。そしていなくなると考えるだけでどうにかしてでも引き止めたい。


 ただ、その感情の意味がわからない。

 


「ジョルジュ様、あの星、見えますか?」


 ミコトは一番星を指差した。


「ああ、太陽が沈み一番に現れる金色の星」


 ジョルジュはミコトの指の先に光る星を見つめる。


「あの星の色、柊とジョルジュ様の色。二人に似ています。とても綺麗でこの世界の人々にとっての光」


 ミコトは顔にかかるジョルジュの髪に触れ言った。ジョルジュは髪に触れるその指先にキスをし、そのままミコトの唇にキスをした。


 突然のキスにミコトの心臓は高鳴る。目の前のジョルジュは目を細めミコトを見つめる。ミコトも同じように目を細めジョルジュを見つめた。


「それなら、ミコト、この夜空はミコトの髪。私達はミコトがいるから輝けるんだ」


 ジョルジュの言葉にミコトは吹き出す。


「プッ、ジョルジュ様、ずっと前から思っていました。ジョルジュ様は本当に軽い男です」


 その言葉にジョルジュは首を傾ける。


「軽い男? どんな意味?」


 ミコトはジョルジュの腕からするりと抜け出し、走り出す。


「それは、秘密です!!」


 そのまま丘を駆け下り草むらをかき分け、月が照らす緩やかな坂でジョルジュに捕まった。


「逃げても、捕まえる。ミコト覚えてる?」


 ジョルジュはあの時と同じようにミコトを後ろから抱きしめ、耳元で言った。

 ミコトは何も答えず、首に巻きつくジョルジュの腕を両手で握り、この瞬間、この幸せを噛み締めた。


(捕まえると言った言葉に意味がなくとも、それでも、私はこの瞬間を大切にしたい)


 ジョルジュはミコトを抱き上げ、そのまま移動魔法を使いジョルジュの隠れ家に移動した。

 二人はそこで最後の契りを交わした。


 契りが終わってもジョルジュはミコトを抱きしめ離さない。いつもなら起き上がり着替えるジョルジュが、ベッドで横になり、ミコトを抱きしめ続ける。

 ミコトはその夢のような時間が一秒でも長く続くことを祈った。


「ミコト、何か、俺にして欲しいこと、無い?」


 ジョルジュは突然そんなことを口にした。


 ミコトはジョルジュの顔を見る。心を掴んで離さないジョルジュの青い瞳は優しく輝き、肌をくすぐるジョルジュの髪はしなやかに揺れる。惜別の時間。今は切なさよりも満ち足りたこの時間を感じていたい。

 

 ミコトはジョルジュのその言葉に、前々から思っていたことが頭に浮かんだ。


(最後の我儘を言って断られてもいい。言わない勇気よりも言う勇気を使いたい。許されるならジョルジュ様の日常を見てみたい。この先も、私が絶対に行けそうにない場所、そこをみてみたい)


 ミコトは勇気を出しその思いを口に出した。

 

「あの、叶うなら、ジョルジュ様の、お城の部屋を見てみたいです」


 その言葉を聞いたジョルジュは突然起き上がり、裸のミコトをシーツで包み抱き上げ、そのまま部屋のバルコニーに出て飛び降りた。


 移動魔法だ。


「ミコト、ここが俺の部屋だ」


 ジョルジュはゆっくりとミコトを下ろす。

 ミコトはジョルジュの行動に思考がついてゆかない。口に出した瞬間にその思いを叶えてくれた夢のような現実。

 眩暈がするほどの喜びに立ちくらみがし、体に巻いていたシーツを落としそうになった。


 慌ててシーツを体に巻き直し、ジョルジュの部屋を眺める。


 ランプに照らされた薄暗い部屋、揺れる二人の影。その影はぼんやりと優しい輪郭をしている。

 その有機的な雰囲気にミコトは少しホッとした。

 

 忙しいジョルジュを癒すことができそうなそうなこの部屋の空気。

 見るからに重厚で高そうな木で作られた家具。煌びやかな装飾がないところにこの空間の温かさがあるのだとミコトは思った。


 整頓された部屋、大きな机の上に置かれていた一枚の絵が目に飛び込んできた。


 ミコトはその絵をみて呟く。

 

「この絵、真っ黒なベースに、これは柊の葉? 緑、それに黄金の……ドラゴンと、この白は木蓮の木? この星は……魔法陣? 不思議な絵……」


 

「ミコト、これは絵ではない、これはジュベール公爵家の新しい家紋だ」


 ジョルジュはミコトの隣に移動し一緒にその絵を見て言った。


「ジュベール公爵家? ジュベールはジョルジュ様の家門、でもジョルジュ様は王様になるから、これは親戚の方のものですか?」


「ミコト、私の家門の人間は皆ドラゴンとの戦いで死んだ。私は目の前で大切な人が死んでいく姿を……何度もみて……心が、壊れそうになった」


 ミコトは顔を歪め悲しそうに話すジョルジュを見てたまらなくなった。


「ごめんなさい、辛いことを思い出させてしまって……」


「違う、違うんだミコト、聞いてほしい。……私は、もう二度と大切な人が目の前で死んでゆく姿を見たくない。その冷たくなった体を抱きしめ涙を流すことを二度としたくないんだ。だから強くなりたい、大切な人を守れる人間になりたいと、そう思い大魔法使いになった。そのお陰で無力を感じるような死を見ないで良くなった。だけど、」


 ジョルジュは天井を見つめ瞼を閉じ唇を結んだ。そしてフーッと息を吐き、また話し出す。


「だけど、ミコトは魔法が効かない。頼むから危険なことをしないでくれ、私はあの日ミコトを失うかもしれないと……」


 そう言ってジョルジュは黙った。

 

 ミコトはジョルジュの抱える痛みを知り、愕然とする。

 どれほどの悲しみを乗り越えてきたのだろう。大切な人が目の前で死んでゆく、それを見続けた、ジョルジュの歩んできた人生を想像するだけで胸が張り裂けそうになる。


(その痛みを和らげたい。そして、心配もかけたくない)

 

 心配してもらったことに喜びと申し訳なさが入り混じる。だが、目の前のジョルジュの表情に申し訳なさが勝った。


「ジョルジュ様、あの時はごめんなさい。これからは気をつけます。ジョルジュ様を悲しませたりしません」

 

(悲しいと思ってくれるだけで、それだけで私の気持ちは報われる)


 ミコトの言葉にジョルジュは悲しげに微笑む。

 その悲しげな微笑みを見てミコトはもう一度、ジョルジュを安心させるよう力強く言った。


「約束します。絶対にそんな姿を見せないと、ジョルジュ様に誓います」


 ジョルジュはミコトの力強い言葉に頷いた。その表情から悲しみは消え、口元に柔らかな笑みが見える。

 ミコトは表情が柔らかくなったジョルジュに安心し、息をすっと吸い込んだ。柔らかな空気が肺に広がり全身に血液が行き渡る。


 生きているだけで誰かを幸せにする。

 でもそれは意思を持って生きているからこそ、人を幸せにできるのだ。


(この命を、大切にしよう)


 そんな当たり前を気が付かせてくれたこの世界。それを教えてくれたジョルジュ。

 ミコトは目の前のジョルジュに心からの笑顔を向けた。

 

(この笑顔が見たかった!!)

 

 ジョルジュは目を細め答える。


 何も言わなくとも互いを思っているのだと感じられた瞬間。この五ヶ月を終え、ようやく心を溶かすような瞬間に魂が揺れるほどの喜びを感じた。


 *


 「それで……ミコト。話を戻すが、これはジュベール公爵家の新しい家紋。私は王になるから、このジュベール公爵家の当主はミコトだ」


 !?


「え……私、ジュベール……公爵」


 

 

 

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