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【この結婚が終わる時】外伝 木蓮の花が咲く頃に  作者: ねここ


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ミコト

「ミコト様、入れ違いに入ってきた馬車から降りてきた方、あの方がジョルジュ様でございます」


 若い神官が馬車のカーテンを開け神殿のエントランスに降りてきた男性に視線を向け言った。


(あの人がジョルジュ・ジュベール、私の相手となる人……)


 ミコトはドラゴンの谷に出発する馬車の中から、ジョルジュの姿を見て息を呑んだ。

 

(想像以上に、綺麗な男性……)


 その姿を見たミコトは言いようのない不安が胸に広がり、颯爽と歩くジョルジュから目を逸らした。

 

 モーリスと共に神殿に入って行ったジョルジュは多くの若い神官に囲まれ、羨望の眼差しを向けられている。

 そんな彼らに気さくに声かける姿を見て、ジョルジュ・ジュベールがこの世界でどれほど愛され尊敬されているのかミコトにも伝わって来た。

 

(……そんな人が、この、私の相手……)

 

 ミコトは、自分と対極にあるようなジョルジュをの姿見て、プレッシャーに気持ちが落ち込んでいった。


 異世界の聖女としてこの世界に来た時から、神官達の好奇な視線、想像と違ったという陰口、異質な人間として扱われていることにミコトは内心傷ついていた。


 けれど、仕方がない。彼らの言っている言葉は事実だからと受け止めている。慣れない生活、慣れない視線、ただ、若い神官を束ねるモーリスだけはそんなミコトを受け入れ丁寧に対応してくれていた。


 モーリスはミコトがどうあっても聖女として尊重し、聖女としての使命を果たすように導く立場を随行している真面目な人間だ。

 だからミコトはモーリスの言うことは素直に受け入れることが出来る。今もモーリスの指示を受け、ミコトはドラゴンの谷に向かっているのだ。


 ミコトは先ほどのジョルジュの姿を頭から追い払い、目を閉じこの世界に来た時のことを思い出していた。


 

 異世界からこの世界にやってきた時、頭の中に神の声が聞こえ、この世界でやるべきこと、担う責務を全て理解した。

 

 この世界に転生した異世界の娘は、聖女として覚醒した後、大魔法使いと呼ばれる人間と契りを交わし、その魔力を体に取り込む。そして取り込んだその魔力をドラゴン王になる幼いドラゴンに渡し、それと同時に聖女だけが持つ能力、祝福の力も一緒に渡す。それを月に一度、五回繰り返すとドラゴン王が誕生する。

 

 その結果人間とドラゴンは互いに尊重し合い世界が安定する。その期間は寿命の長いドラゴン王が死ぬまで保つことができ、ドラゴン王がいなくなれば新たなドラゴン王を誕生させるため再び異世界から娘が転生し、大魔法使いもこの世界に現れる。

 

 これが創造の神メシエが下したこの世界の新たな法則であり、神聖なるドラゴンを攻撃した人間への神罰だ。

 

 

 

 この世界に来てから不思議なもので、なんとなく草や木の気持ちが伝わってくる。それだけでなく、この世界の小さな命の声が聞こえるようになった。これが聖女の力。ただ、それが何を意味するかわからない。


 そして、相手となる大魔法使いジョルジュ・ジュベール。メシエが認めた人間。


 ドラゴン達との戦いに終止符を打った特別な人。


 ただ、毎晩違う女性と過ごしていると神殿の若い神官達が話していた。


(そんな人が私の初めての相手になる)


 これは使命だとわかっているが、男性に慣れてないミコトには複雑な思いもある。


 金色の髪に青い瞳、明るく笑う笑顔と自信に満ち溢れるジョルジュの姿を思い出す。

 

(綺麗な顔をした男性。ううん、綺麗な顔だけじゃない、あの瞳は嘘がない美しい瞳。だけど……何も知らない私を馬鹿にするかもしれないし、それ以前に綺麗じゃないこの容姿にがっかりするかもしれない)


 再びジョルジュのことを思い出し、ミコトの気持ちが下がった。


(本当は逃げ出したい。このまま逃げることができたら、そんなことを考えてしまう)


 

 悶々としたまま馬車に揺られ一週間。ミコトはようやくドラゴンの谷についた。

 

 一緒に来た神官はドラゴンの谷を見て震え出し、馬車から降りることができなかった。

 どうやらドラゴンの放つ魔力のプレッシャーがこの世界の人間には恐怖として植え付けられているようだ。だが、魔力のないミコトには何も感じない。


 ただ、目の前に立ちはだかる岩でできた大きな洞窟の入り口は来るものを拒む雰囲がある。なんとなく圧倒されるが、ミコトは目を閉じメシエの言葉を思い出した。

 

(大丈夫、これは女神様が言っていた私の果たすべき使命の一つ、死ぬことはないはずよ)


 ミコトはドラゴンの住む洞窟の前で立ち止まり、大きく深呼吸し、すくむ足を一歩前に進めた。

 

 ミコトは導かれるように谷の奥に進む。


 トンネルのような通路を通りずぎると強烈な光が目に飛び込んできた。


 光り輝く宝石の中に小さな卵が置いてある。

 その卵は黄金に輝き、その周りに真っ黒なドラゴンが取り囲んでいる。

 

(あれが……ドラゴン?)

 

 ミコトは息を呑んだ。

 

 目の前にいる真っ黒なドラゴンを見上げる。羽を広げたらこの洞窟が壊れるほど大きいだろう。

 だがその真っ黒なドラゴンは不思議と怖くない。


 ドラゴンはじっとミコトを見つめていた、が、目が合うと恭しくぺこりと頭を下げた。ミコトもその様子をみて立ち止まり頭を下げる。

 

 するとドラゴンは道を開けるように卵の周りから移動した。


 ミコトはそのまま真っ直ぐに進み黄金に輝く卵の前に立った。

 するとその卵が一層キラキラと輝き、カタカタと動き始める。


 ミコトは首を傾げその卵を見守る。と、表面にヒビが入った。

 

(割れる!?)

 

  ミコトは目を見開き卵を注視していると、パラパラと殻が落ち、中から小さな水色のドラゴンが姿を現した。

 

 まるでミコトが来るのを待っていたかのように羽化したのだ。

 

 そっと手を伸ばすとドラゴンはその手に顔を擦り付ける。

 

「小さくて、温かい 」

 

 ミコトは思わず声を漏らし抱きあげる。


 その瞬間ミコトの額が光った。

 柔らかな風がミコトの体を吹き抜けたような感覚と共に、体の中心から温かな力が湧き上がる。

 

(やるべきことがわかる)

 

 ミコトは片手を上げ掌を上に向ける。その手に柔らかな光が集まる。

 

(この光は生きとし生けるものへの祝福の力)

 

 それにフッと息を吹きかける。その光はそのまま天に昇り光の雨となり洞窟に降り注いだ。

 

 その光に触れた真っ黒なドラゴン達は真っ白なドラゴンに変わり、腕の中の幼いドラゴンもうっすら黄金色に変わった。

 

 ミコトは自分の額に触れる。ほんの少し暖かい。

 

『これが異世界の娘が持つ祝福の力で覚醒の証。これを契りのたびにドラゴンに渡しなさい』

 

 頭の中でメシエの声がした。ミコトはコクンと頷き、抱いている小さなドラゴンを見つめた。

 ドラゴンもミコトを見つめる。

 

(かわいい)

 

 ミコトは光り輝くドラゴンを優しく撫でた。ドラゴンは気持ちよさそうに目を細める。

 

「眠いのかな? ゆっくりおやすみなさい」

 

 ミコトはドラゴンに声をかける。ドラゴンはゆっくりと瞼を閉じた。それと同時に祝福の光が消えてゆく。洞窟内の光が全て消えた頃、小さなドラゴンはミコトの腕の中ですやすやと眠り始めた。


 周りにいるドラゴン達は優しい眼差をミコトに向け、その姿を消した。


 ミコトはドラゴンを抱き、洞窟を後にした。


  *


「ジョルジュ様、世界に祝福の雨が降り注ぎました! ミコト様が覚醒し、ドラゴンを連れ帰ってまいります!」


 ジョルジュは城の一室から光輝く世界を見つめていた。

 

「これが祝福の力、全てが清らかで温かく、心まで救われるような光」

 

 ジョルジュは美しい黄金の光の雨を見つめ呟いた。

 モーリスは両手を組みその光に頭を下げる。ジョルジュも同じように頭を下げた。


「モーリス、ミコトが帰ってきたらすぐに会いに行く、そして契りの準備を始めよう」

 

 ジュルジュは自らの使命を随行するために、事前にミコトに会うことにした。初めて会いすぐに契りを交わすなど、一夜を共にする女達と同じ扱いなどできない。それに、自室などではなく、きちんとした部屋も準備し、誠意を持って対応しなければならない。これがジョルジュなりの誠意なのだ。

 

「はい、ジョルジュ様、それが良いでしょう。ミコト様が戻ってまいりましたらお知らせいたします」

 

 こうしてジョルジュはドラゴン王を誕生させるためミコトを受け入れる準備を始めた。


  

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