必ず捕まえる。
(コレットも……)
ジョルジュのその言葉はミコトの気持ちを急激に冷やす。
『ジョルジュはミコトを好きなわけではない』
それを遠回しに言われたような気がしミコトは泣きそうになる。
黙ってしまったミコトにジョルジュは焦ったように話しかける。
「だから、迷うなら、ここに……」
取り繕うように言うジョルジュにミコトは腹が立った。
ジョルジュは何もわかっていない。ミコトの喜びも悲しみも、そして堪えていた気持ちに火をつける嫉妬の言葉も。
「……迷ってなどいません。私は今、私の使命を果たすことで精一杯です!」
ミコトはそう言って走り出した。こんな顔見せたくない。
(ジョルジュ様は何もわかっていない、私の気持ちなど何一つ!!)
こんな嫉妬にまみれた顔を絶対に見せたくない。
「待て、ミコト!」
ジョルジュも慌てて走り出しミコトを後ろから捕まえる。
ミコトは突然ジョルジュからバックハグをされ心臓が飛び出すほどときめいた。
(ああ、ジョルジュ様は私の気持ちを一瞬で覆してしまう!)
ジョルジュは後ろからミコト抱きしめながら耳元で話しかける。
「ミコト、俺たちはいつも追いかけっこしているな。いつも、ミコトが逃げて、俺が捕まえる」
耳元で話すジョルジュの声にミコトの体は力が抜けそうになる。先ほど下がった気持ちはどこかに吹き飛び、喜びに胸が高鳴った。
(ああ、ジェットコースターのような気持ちの乱高下。それほどまでに私はジョルジュ様が好きなんだ)
低い声で名前を呼ばれるたびに、ミコトの心は喜びで震え、眩暈がしそうなほどこの世界が輝いて見える。ジョルジュにはきっとわからない。ミコトがどれほど幸せを感じているか。
「……確かに、そうですね。うふふ、いつも私が逃げ、ジョルジュ様が追いかける」
「ミコト、この先ミコトが逃げても、俺は必ず追いかけ捕まえる」
「必ず!? それは、不可能だと、思います」
「……不可能でも、俺は必ずそうする」
「……追いかけても、捕まらないかもしれません。捕まえても、意味がない、いえ、後悔する」
「……捕まえなかった後悔より良い。だから、逃げないでくれ」
*
四度目の契りが終わり、ジョルジュは眠っているミコトにマントをかけ去っていった。
ミコトは朝目覚め、かけてあったマントを見て胸が苦しくなった。裸で眠るミコトを見て寒そうだと思ったのかわからないが、そんな何気ない行動に泣きたくなるほどの切なさと喜びを感じている。
『俺は必ず追いかけ捕まえる』
ミコトは昨夜のジョルジュの言葉を何度も思い出しながら、そんな日が来ないことを祈った。
神殿に帰る支度を終えたミコトは、ジョルジュのマントも一緒に持って帰ることにした。ここにおいていけば良いかもしれないが、必要なものかもしれないと思ったからだ。
(このマントをモーリスさんからジョルジュ様に渡して貰えばいい)
そう思いながら、ジョルジュのマントを抱きしめながら、帰りの馬車の中でミコトは再びジョルジュのことを考えた。
(四回目の契りも、ジョルジュ様は優しかった。いつも、いつでもジョルジュ様は優しい)
あと一回で全てが終わる。五回目の契りはいつ行うのだろうか? 五回目が終わったらどうするか選ばなくてはいけない。
残るのか、帰るのか。
五回目の契りが終わったらすぐに選択しなければならないのか、それとも引き続き平穏に生活している中、突然メシエがその選択を迫るのだろうか?それもわからない。
(五回目の契り。できるならば月末にしたい。どんな選択をしようとも、少しでもジョルジュ様のそばにいたい。ジョルジュ様に必要だと思われている聖女としての期間が長ければ、こんな私でも必要とされていると思えるから)
今のミコトの切実なる願いはそれだけだ。
*
神殿に戻ったミコトは柊にその力を移転した。柊の体は黄金に輝き、瞳は完全に金色に変わる。見た目から既にドラゴン王だ。だがあと一回魔力の移転と祝福がある。
(全てを終えた柊はどんな柊に変わるのだろう?)
ミコトは羽を広げ飛び立ってゆく柊を見送り部屋に戻ろうとした時、マクシミリアンと笑いながら話しているモーリスの瞳を見て気がついた。
(モーリスさんはジョルジュ様が好きなんだ……)
ミコトはモーリス瞳の違いに気がついたのだ。熱のこもった視線の先にはいつもジョルジュがいる。マクシミリアンを見る瞳とは全く違う瞳。そんなモーリスの気持ちに気がついたミコトは切なさで胸が一杯になった。
(モーリスさんと私は同じような気持ちを抱いている。なぜ気がつかなかったのだろう? モーリスさんが男性だから? 同性であっても人を愛する気持ちは変わらない。モーリスさんは心からジョルジュ様が好きなんだ)
ミコトは自分と同じように気持ちを隠すモーリスに親近感を抱いた。モーリスの視線の先には常にジョルジュがいる。叶うことない思い。ミコトにはその気持ちは痛いほどわかる。
ミコトは部屋に戻り、戻ってきた柊を懐に入れジョルジュのマントを持ってモーリスの部屋を訪ねた。
「あの、これジョルジュ様に渡していただけませんか?」
ミコトはモーリスにマントを手渡す。
「ああ、これはジョルジュ様のマントですね。お忘れになったのでしょうか?」
「はい、だからモーリスさんから渡してもらおうと思って……」
「ご自分で渡さないのですか?」
その言葉にミコトは口籠る。それが出来るならどれほど良いか。今までミコトからジョルジュに会いにいったことは一度もない。
「あ、……私は自分からジョルジュ様にお会いできる立場ではありません」
そう言ってミコトは視線を下げた。
「ああ、失礼しました。そうでした、ね。わかりました」
ミコトはまた自分の立場を思い知らされる。自分からジョルジュに会うことができないこの事実をモーリスさえも気が付かなかった。それほどまでにミコトは聖女として、月に一度の契りの相手としてしか見られていない現実。月に一度ジョルジュに会えばそれ以外必要ない、と言われているようなものだ。それを再び思い知らされたのだ。
そして、聖女の立場であってもそうならば、聖女ではなくなった時、ジョルジュの姿など一目見ることもできないかもしれない。
複雑な心境、ショックに震える心。ミコトは唇を結び、モーリスに頭を下げ部屋を出た。
ドアを閉めたあと、モヤモヤする気持ちが溢れ出る。
(こんな気持ちでいたら、柊が心配しちゃう……)
ミコトは懐にいる柊を見る。
!?
柊がいない。
ミコトは閉めたドアを再び開ける。
目の前にジョルジュのマントを抱きしめるモーリスがいた。
「ミ、ミコト様……」
その顔は呆然とし、取り繕うようにマントをテーブルに置き話しかける。
「ど、どうされました? 何か忘れ物でも?」
「あ、柊が、」
ミコトは窓辺にいた柊を抱き上げ気まずそうに部屋を出ようとした。
(モーリスさんも行き場のない気持ちを抱いている……)
「……モーリスさん、大丈夫です。言いません。信じてください」
ミコトはそれだけ言って部屋を出た。
木蓮の花が咲く頃に、作者のねここです。
【木蓮の花が咲く頃に】は【この結婚が終わる時】の外伝的お話です。
外伝と言いつつも、本当はこれが土台となる作品と言っても過言ではないかと思っています。
ジゼル編の何気ないシーンの答え合わせ、今後のロラン編に繋がるストーリー
(この物語を読まなくても繋がります)
主人公ジョルジュの正体、薄々と気がついていらっしゃる読者様もいらっしゃるかもしれません。
次話から佳境に入ります。
五回目の契り、ジョルジュの結婚、そしてミコトの選択。
それがロランの時代まで続くジョルジュとミコトの生きた証となるでしょう。
サイドストーリーで時間稼ぎしつつ、本編の執筆頑張っています。
どうぞ、隙間時間のお供に読んでいただければ幸いです。
そして、変わらずひどい誤字脱字、ご報告くださる皆様、心よりお礼申し上げます。
引き続き拙い文章、誤字脱字、ご報告いただければ嬉しいです。
(後書きにも誤字脱字が多いことが致命的ですが)
感謝を込めて
ねここ




