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【この結婚が終わる時】外伝 木蓮の花が咲く頃に  作者: ねここ


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約束とジョルジュの婚約

 ジョルジュは怒りを込めた口調でミコトに言った。


(ジョルジュ様が怒っている。けれど、本心も、この恋心も言えない。だから……)

  

 ミコトは一旦口を開いたが、口籠る。だが、ジョルジュは厳しい表情を浮かべミコトを見ている。何か言わなければジョルジュは納得しそうにない。沈む気持ちを奮い立たせミコトは重い口を開いた。


「ジョルジュ様、使命の重さに、逃げたくなり……ご、ごめんなさい」

 

 ミコトは本心を隠しジョルジュに答えた。その言葉を聞いたジョルジュは眉間に皺を寄せる。

 

「俺は、ミコトと同じ立場で、同じ重積を背負っている、だから分かち合えると思っていた、なのに……」

 

 ミコトはその言葉に喉を締め付けられたような苦しさを感じ、ジョルジュから顔を背けた。真っ直ぐにミコトを見つめるジョルジュの瞳から逃げたい。嘘も見抜きそうなあの瞳に耐えられる気力はない。


(本当は、聖女としてしか見られていない現実が辛くなった、婚約してしまうジョルジュ様と契りを結ばなければならないこの使命が辛くなった。誰も私を人として見てくれない現実が嫌になった。そう、言えたなら……)

 

顔を背けてもジョルジュの視線が突き刺さる。


(だけどジョルジュ様は私を心配して怒ってくれている。一人の人間として見てもらえなくても、それでも心配してくれる現実は、救われる)

 

 ミコトは涙を飲み込み、両手を握りしめジョルジュに言った。

 

「……ジョルジュ様、そうですね。じ、自分のことしか考えていませんでした。同じ重積を背負っているジョルジュ様にこそ、相談すれば、よかったです……ごめんさない」

 

「望みは? ミコトは何を望んでいる? ドラゴン王が誕生した時、頑張ったミコトの望みを叶えてあげたい」

 

 ジョルジュは徐にそんな言葉をミコトに向けた。

 誰一人、ミコトに使命を終えたその後を聞く人がいない中で、ジョルジュが、ジョルジュだけが聞いてくれたのだ。

その気持ちに救われる。今、この瞬間のその言葉で十分だった。

 

「ありがとうございます……望み。そうですね……今は思い浮かびません」

 

「ミコト、ミコトは望みがないのか?」

 

 ジョルジュは聞き返す。ミコトはその言葉を考えた。使命を終えた後のこと。その後に望むこと……

 

「……そんなこと、考えたことがないので……」

 

「ミコト、俺の望みを言っても良いか?」


 ジョルジュは真剣な表情をミコトに向ける。

 

(ジョルジュ様の望み? 聞きたい)

 

 ミコトは頷く。

 

「俺の望みは、ミコトに生きていてほしい。どんな状況でも死ぬことを選ばないでほしい。俺は落ちてゆくミコトを抱き落ちていった。魔法を無効にするミコトを抱え、それから移動魔法を発動するには時間がなかった。だがな、柊が助けてくれた。柊のおかげで私たちは助かったんだ。柊もミコトを失いたくないんだ」

 

 ミコトはその言葉に飛び起きた。

 ジョルジュが身を挺して助けようとしてくれた、柊が二人を助けてくれた。

 その現実に目が覚める。

 

「ああ、どうしよう!! ジョルジュ様、怪我は? 柊……ごめんなさい、二人ともごめんなさい」

 

 ミコトは目の前のジョルジュに何度も頭を下げる。ジョルジュは涙を浮かべ頭を下げ続けるミコトを抱きしめ言った。

 

「ミコト、大丈夫だ。気にするな。だが、もう、こんなことはしないでくれ。辛い気持ちは俺にぶつけてくれ。全て受け止めてやる。だから俺と柊のために、生きてほしい」

 

 ジョルジュはミコトを強く抱きしめた。その言葉に力強い抱擁にミコトは泣き出す。


(自分勝手に行動して、こんな恥ずかしい選択をしてごめんなさい。心配かけてごめんなさい)

 

 ミコトは泣きながら自らの行動を恥じた。同じ使命を背負っているジョルジュはもっと重いものも背負っている。それを、下ろすことのできぬ重積を背負っているジョルジュにミコトまで背負わせることは出来ない。


(ジョルジュ様に心配かけないように強くならなければ!)


 ミコトは涙を拭い顔を上げた。ジョルジュはミコトの顔を見つめる。ミコトは大きく息を吐き、気持ちを整え、ジョルジュに言った。

 

「ジョルジュ様。もう、大丈夫です。ジョルジュ様のそのお気持ちだけで十分です」

 

 ジョルジュは、しっかりした口調で気持ちを伝えてくれたミコトの言葉に心底安心した。


(ミコトはつかみどころのない人だが、いつも誠実でいてくれる。大丈夫と言われその言葉を鵜呑みにするわけではないが、それでも前向きに頑張ろうとするミコトを信じてあげたい、支えてあげたい)

 

 ジョルジュは口角をあげ、ミコトに言った。

 

「ミコト、今はゆっくりと休め」

 ジョルジュは部屋から出て行った。


   *


 それから一週間後、ジョルジュとコレットの婚約式があった。

 ミコトは鳴り響く祝福の鐘の音を聞きながら、エントランスの木蓮を見つめ続けた。


 古より生きてきた木蓮の木。長い歴史を見つめてきた木蓮は知っている。喜びの雨も悲しみの涙も。

 その全てを受け止め、全てを包みこみ、その芳香で人を癒す。


 散ることのないこの世界の木蓮の花。


(この花が散る時は何が起こるのだろう?)


 ミコトは木蓮の花に触れる。ミコトの指先から祝福の力が木蓮に流れ込む。


(もし、私が、この世界からいなくなっても、この木蓮がジョルジュ様を、柊を守ってくれますように)


 祝福の鐘の音にミコトはジョルジュの幸せを祈った。

 


 

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