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13/16

山裾へ向かう 揺らめく宿 下

昨夜、あれだけ怒鳴ったのに、翌朝もやっぱり隣で寝てる奴に起こされた。吐く息は酒臭いし、手足でがっしり押さえつけられてて…道理で一晩中悪夢を見てたわけだ。


やっとの思いで抜け出して、こいつが気持ち良さそうに寝てるのを見たらむしゃくしゃしてきて、すぐさま平手打ちをくらわせた。


「起きろ!」


と言った。


すると彼女は少し動いただけで、すぐまた寝入ってしまった。


こんなんでも起きないなんて、昨晩また何時まで起きてたんだか。まあいい、ほっといてやれ。


ベッドから降りて気持ちよく背伸びをし、まずは洗面所で歯を磨きに行くことにした。隣のベッドのそばを通ると、優一ゆういちって奴が半分体をベッドからはみ出して寝てる。もう少しで頭から落ちそうな勢いだ。恨みはあるが、万が一落ちでもしたら大変なので、彼女をベッドの中に引き戻しておいた。落ちないように。


いったいどう寝てるんだ?美穂みほに似たのか、もともとそうなのか、彼女を落ち着かせてから、ようやく洗面に向かった。


全部済ませてから時間を確認しようと思い出した。


「起きるのが早すぎた!」


さっきまでどうして目覚ましが鳴らないんだろうと思ってたけど、どうやら起きるのが早すぎたようだ。


この時間じゃ、あの二人は絶対に起こせない。仕方ない、他のことをして時間をつぶそう。


ベッドから枕をひとつひっぱり出し、それから伊咲いさきの携帯を奪い取って、畳の上に座り、またゲームを始めた。


彼女の目覚ましを止めようと思ったら、この奴、そもそもセットしてなかった…


ゲームに飽きるくらいまで遊んでから起こすことにした。


ところが、すぐに疲れてちょっと横になり、そのままYouTubeでも見ようかと思ったら、また寝入ってしまった。


「お兄ちゃん、起きて。」


優一が私を揺さぶりながら言った。


ぼんやりと目を開けると、彼女があくびをしているのが見えた。


「何時?」


彼女が聞いた。


驚いて飛び起きた。彼女に起こされるなんて、時間がだいぶ遅くなってるに違いない。


体をひねって携帯の時間を見ると、午後1時だった!まだ何もしてないのに、もう半日が過ぎようとしてる。


急いでベッドによじ登り、伊咲に連続平手打ちを喰らわせた。


「起きろー!午後だぞ!」


彼女に叫んだ。


「え?もう飲めない!」


彼女は半分夢うつつの状態で言った。


「飲むわけないだろ!」


この方法が効いたようだったので、平手打ちを続けた。


「もう叩かないで、あと少し寝かせて!頭が痛いよ!」


何発か追加で叩かれて、ようやく彼女は辛うじて目を覚ました。体をひねり、起きる気はなさそうだった。


「出かけないと、今日も終わっちゃうぞ!」


そう言いながら布団を引っ張ったが、彼女がぎゅっと掴んで離そうとしない。当然、私が力で勝てるわけがない。


「水、水、水をちょうだい。」


彼女は小さな声で言った。


「めんどくさい!」


二日酔いの奴は本当に手に負えない。文句を言いながらも、まずは彼女の要求を満たさないと、またベッドでゴロゴロし続けるかもしれない。


仕方なくベッドから降り、部屋に備え付けのミネラルウォーターを探した。幸い、まだ一本残っていた。それから、床に転がっている空きビール瓶をよけ、ベッドの前に戻った。


「ほら!」


そう言ってペットボトルの水を差し出した。するとこの奴、片手を伸ばしてしばらく探り回り、しぶしぶ目を開けてようやく水を受け取った。


布団の中に引っ込んだら、また動かなくなった。


「おい!もう寝るなよ!」


仕方なくベッドの反対側によじ登り、彼女の背中を蹴りながら言った。


「5分、静かに5分だけ寝かせて。」

彼女は布団の中に頭まで潜り込み、小声で言った。


「早く起きろよ。」


問答無用で、私は彼女の上に覆いかぶさり、また寝入ってしまうのを阻止しようとした。5分だけ寝かせるなんて言葉、誰が信じるか。


「うっ!」


この奴は痛がって声を上げた。そしてまた動かなくなった。死んだふりを始めたようだ。


その後、私がどんなにいじっても、彼女は完全に無視した。


「人を起こす程度のこともできないの?」


顔を洗って出てきた優一が、少し皮肉っぽく言った。


「他に何かいい方法あるのか?」


ベッドに座りながら聞いた。


「普段のあなたみたいにすれば?」


彼女はあっさりと言った。


「ダメだ、ここにはエアコンの効いた場所に隠れるところなんてないし…」


私はすぐにその提案を却下した。


しかし彼女は私に拒否権を与えるつもりはなく、椅子を押してエアコンの電源を切った。


「少しの間エアコンを止めたって死にはしないでしょ。次はバルコニーのドアも開けてきて。」

彼女は続けて言った。


「ひどすぎる!」


私は非常に不本意ながらベッドから降り、バルコニーのガラス戸を開けに行った。


ところが、ほんの少し隙間を開けただけで、室内に比べて高温の外気が押し寄せ、すぐに私の受動防御スキルが発動し、パシッとまたドアを閉めてしまった。


「うーん…」


彼女は呆れた顔で私を見た。そして大股で近づき、私を押しのけると、自分でドアを開けた。


「死ぬ!死ぬってば!」


彼女がドアを開けるやいなや、私は畳の上に倒れ込み、転がりながら、今にも死にそうなふりをしてわめいた。


彼女は私のそばに来て、私の足を軽く蹴った。


「面白い?」


そして、本来の年齢らしい様子で私を見下ろしながら言った。


「現代人は夏、エアコンというバフなしでは生き抜くのは難しいんだ!」


私もわざと当然のことを言っているような口調で言った。


「はあ、外に出ておいで。こっちのほうが街中よりずっと涼しいよ。」


彼女はため息をつき、言った。そして独りでバルコニーに出ていった。


私はその後もしばらく横になっていたが、結局起き上がって彼女の後を追った。


普段ならこの時間、外気温は一晩中の日差しで30度近くまで上がっていて、外は長時間いられる場所ではない。


しかし、どうやらこの場所が山中にあり、周囲が森林で植物が多く、下には渓流もあるおかげで、都市部のヒートアイランド現象のように熱が蓄積されにくく、気温は実際にはまだ許容できる程度に保たれていた。


暑いけど、死ぬほどではない程度だ。風があればむしろ少し涼しいくらい。


私は手すりにもたれて外の山の景色を見た。昨日行った、渓谷の両側に架かっている橋も見える。対岸の谷底には、渓流に沿った遊歩道も見えた。


「ここ、市内よりずっと涼しいでしょ?」


優一の奴はバルコニーの椅子に登り、背もたれにもたれながら言った。


「暑いよ。でも、まあ、我慢できるレベル。」


私は強がって答えた。


私たち二人が山の自然のそよ風を楽しんでいる間、布団にぐるぐる巻きになったあの奴はついに耐えきれなくなった。


「どこの馬鹿が私のエアコンを切って、ドアまで開けてんだよ!現代人にエアコンがなかったら生きていけないって知ってるのか!」


彼女は起き上がると、恨めしそうに私たちを見て、怒って言った。


ただ、このセリフ、どこかで聞いたような…


彼女はそう言うと、ペットボトルの水を開け、そこに座ってガブガブ飲み始めた。そしてぼんやりし始めた。かなり経ってから、ようやく彼女がベッドから降りるときに、投げっぱなしの空き缶を蹴飛ばす音が聞こえた。


「暑い、シャワー浴びてくる。」


伊咲が言った。


振り返ると、彼女がバスローブを脱ぎ、そばの椅子に適当に放り投げているのが見えた。そこで、私は見落としていたことに気づいた。


この奴、昨晩お風呂上りにバスローブ一枚のまま、外で一時間以上も飲んでたけど、その間中完全にノーブラだったんじゃないか?他の人に酒乱をぶつけてなかっただけマシだ。さもなければ変質者として連行されるところだった…


いや、外出した時は正気だったから、変質者扱いされても仕方ないか。


よく考えれば、彼女は普段もよくこんな格好で買い物に出かけている。この奴、何か特殊な嗜好があるんじゃないかと疑うし、それなりに楽しんでるようにも見える…


まあいい、他人の嗜好はあまり詮索するな。


私たち二人は、彼女がだらだら終わるのをバルコニーで風に当たりながら待つことにした。


ところが、あの奴はシャワーを浴びて出てくると、こっそりバルコニーに忍び寄り、私たち二人が気づいていない隙に、サッとドアを閉めて鍵をかけ、エアコンをつけると、またベッドにもぐりこんだ。


私たち二人は振り返り、あきれた顔で、パンツ一枚でベッドに横たわり、得意げに横を向いてる奴を見つめた。


すると私はゆっくりと椅子から立ち上がり、テーブルの上の携帯を取って電話をかけるふりをした。彼女は慌ててベッドから飛び起き、あたふたと走ってきてドアを開けた。


「話せばわかる!話せば!」


彼女は慌てて言った。


「わかったか?」


私は怒っているふりをして言った。


「わかった!わかった!」


彼女は恭しく答えた。でも、それだけじゃ足りない。


「わかった気がしないな。」


私は調子に乗って難癖をつけた。でも彼女も私の意図を理解したようだ。


「お嬢様、坊っちゃん!ごめんなさい、次からは間違いません!」

彼女は即座に土下座し、とても誠実に謝罪した。でも、やっぱり口だけは硬い…


「受け取れ。」


私は言うと、携帯を彼女に投げた。


ほぼ全裸の土下座を見せられたんだ、許してやろう。


「このガキめ!」


彼女は携帯を受け取るとすぐに表情を変え、サッとまたドアに鍵をかけた。


私はその場でしばらく呆然として、自分がどれだけバカなことをしたかにようやく気づいた。


「くそ!開けろよ!」


椅子から跳び降り、ドアを叩きながら無駄に怒った。


「自分で先に携帯を返したのが悪いよ。」


優一は傍観しながら冷ややかに言った。


伊咲の奴も明らかに眠くなくなったらしく、ドアの向こうでますます得意げにしている。


もう決めた、これからは絶対にあの二人とどこへも旅行に行かない。心が疲れ切る!


彼女が飽きるまで遊んで、ようやくドアを開けて中に入れてくれた。


「ほら。」


彼女はスーツケースをひっかき回し、適当に服を一枚取り出して私に投げた。


「お前のも。」


彼女は続けてもう一枚の服を優一に投げた。


私が服を手に取ってよく見ると、なんでワンピースなんだ…


「別のにしてくれない?」


手に持ったスカートを見て、困ったように言った。


「弟と交換しろ、お前たちが着られるサイズはだいたい同じだから。」


彼女は探し続けながら、きっぱり断った。


私は望み薄だと優一を振り返って見たが、彼女は私に国際的な友好ジェスチャー(中指)を見せると、その服を着始めた。


「それにせめてパンツくらいよこせよ!」


着たくはないけど、選択肢がない。


私がそう言い終わらないうちに、伊咲は突然スーツケースを閉め、立ち上がった。


「昨日のを履け!」


彼女は昨夜洗った服の山から下着類を選び出した。


彼女の不可解な行動に、私は首をかしげて見つめた。


「もしかして、持ってくるの忘れたんじゃないの?」


後ろにいた優一が核心を突いた。


「うっ…」


伊咲は気まずそうに横を見た。どうやら当たってるようだ。


道理で昨夜はパジャマしかなくて、バスローブ一枚で走り回ってたのか。普段だってその日の服を洗うなんてしないくせに。要するに、洗わなきゃ今日履くものがないからだったのか!


最初から彼女に自分で荷造りさせなきゃよかった…


ようやく身支度が整い、遅い昼(というか午後)食を食べに行った。


もうこんな時間だし、どこかへ行ける時間もあまりないけど、伊咲の奴は事前に考えてあって、行けそうな場所を物色してあると言う。


今は彼女の言うことをとりあえず信じるしかなく、部屋に戻ってバッグを持ち、彼女に連れられて遊歩道を目的地に向かった。


のんびり一時間近く歩いて、ようやく彼女の言う場所に着いた。結果、キャンプ場だった!


「いや、またキャンプ道具もないのに、ここで何するんだ?それとも本当に著作権侵害の訴訟食らいたいのか?」


キャンプ場の看板を見て、私は不思議に思いながら言った。


「いったいどこでそんなこと覚えてきたのか…キャンプ場に来たからって必ずキャンプするわけじゃないでしょ。」


彼女は小声でブツブツ言い、それから続けて言った。


私たち二人も不思議に思いながら彼女について行き、彼女が一体何をしようとしているのか見ることにした。


彼女がキャンプ場の中堅男性スタッフと話し、お金を払った後、その男性は私たちを下へと案内し始めた。そう、渓谷の下だ。渓流の湾曲部にある石浜に直接連れて行かれた。


ここまで本当に降りられるとは思わなかった。そして、都会育ちの私としては、本当にこんなに渓流に近づいたことはない。一番近いのも田舎に帰ったときに土手のそばにいたくらいだ。


ただ、本当に上流の水位上昇とか大丈夫なのか?でも、石浜の反対側では別のおっさんたち数人が釣りをしているから、まあ大丈夫だろう。


「初めて?」


そばにいた優一が私の興奮した様子に気づき、何かのダブルミーニングを含んだ質問を小声でしてきた。


「ああ?そうだね?」


深く考えずに答えた。


「じゃあ、あとで優しくしてあげる。」


彼女は突然私に寄りかかり、耳元で言った。


私は首をかしげて彼女が何を意味してるのか理解できなかったが、すぐにわかることになった。


「水遊びは深い所まで行っちゃダメだよ。」


後ろにいた伊咲が言った。


「わかったー!」


私たち二人は振り返って答えた。


すると、この奴はいつの間にかカメラを取り出して写真を撮り始めていた。あの管理人おじさんはとっくに遠くに行ってしまった。


でも正直、何をして遊べばいいんだろう。私は渓流のそばにしゃがみこみ、手を入れてみた。本当に涼しくて、ちょっと冷たいくらいだ。


「結構気持ちいい。」


独り言を言った。


「何してるの?」


優一の奴が私の背中に覆いかぶさり、悪戯っぽく聞いてきた。


彼女が普段と違って私にベタベタしてくる時は、必ず何か良からぬことを企んでいる。


「じゃあお前は何がしたいの?そんなに近づくな、暑い!」


私は慎重に聞いた。


「はい!謝りに来たんだ!」


彼女は私から離れ、わけのわからないことを言った。


「はあ?」


私は首をかしげ、ちょうど立ち上がろうとした。


「ごめんね、兄ちゃん!」


彼女が口に出すと同時に、私の背中を思い切り蹴った。


そのまま私を水の中に蹴り落とした。


「冷たっ!」


一口水を飲んでしまい、慌てて起き上がった。


「おい!」


伊咲が私たちに怒鳴り、そして真剣な顔で近づいてきた。


「よく蹴ったな!」


彼女が私たちの前に来て、表情を変えて言った。


彼女が私の味方なんてするわけないと思えばよかった。


「もう帰る、遊びたくない。」


私は怒って言った。


ああ!もう最悪、全部びしょ濡れだ。髪が顔や首に貼りついて気持ち悪い。このワンピースも、それに風が吹くと少し寒い。


「待て、ちょっと待て。」


伊咲は私のワンピースの片方の肩紐をつかんだ。


「何すんだよ、また私を投げ込む気か!」


私は腹を立てて言った。


彼女は答えず、私たちが降りてきた場所を指さした。しばらくすると、さっきの管理人おじさんが何かを持ってやってきた。


彼は折りたたみ椅子を下ろすと、タオルを二組手渡してきた。


「水遊びをするなら向こう側には行かないでくださいね。あっちでは他のお客さんが釣りをしていますし、それに深い所に入らないように。」


おじさんは念を押した。


「ガキ、聞いたか、人の邪魔するなよ。」


伊咲はそう言うと、タオルを一枚私の頭に乗せた。


ちくしょう!私に関係ないだろ、私こそ被害者なのに!


「他のものは今買いに行きますから、あと30分くらいかかりますね。」

管理人おじさんは続けて言った。


私は首をかしげながらタオルで頭を拭き、聞いていた。


「ではお願いします。」

伊咲が答えた。


管理人おじさんはうなずき、去っていった。


「他に何を買わせたんだ。」

私は髪を拭きながら続けて聞いた。


「買ってくればわかるでしょ。」

伊咲はそう言うと、もう一枚のタオルを私に押し付け、折りたたみ椅子をセットし始めた。


あれ?なんでタオルが二枚あるんだ?


私は何かを察したが、彼女には教えてやらない。だってこっちを不意打ちしたんだから。でも、たとえ彼女が不意打ちしなくても、さっき伊咲も同じことをしようとしてたんだろうな。


「気持ちいいね!」

優一が私たちに叫んだ。


この奴は靴を脱ぐと、自分で水の中に走り込んでいった。いや、実際には私こそが唯一水に入るつもりがなかった人間だ。


「ちぇっ。」

計画を台無しにされた伊咲がそばで舌打ちした。彼女は折りたたみチェアをセットし終えると、持ってきたバッグからヘアゴムを取り出し、私の髪がまだ乾いてないのに無理やり結い上げ始めた。


「そんなに強く引っ張らないで、痛いよ!また何するつもりなんだ?」


私は文句を言ってから聞いた。


すると彼女は全く答えず、私を抱き上げるとまた渓流のほうへ向かって歩き出した。


「おい!おい!やめて!離して!」

私は無力に叫んだ。なんでいつも私だけいじめるんだ!


「さっさと水に入って、子供時代を満喫しろよ、ガキ!」


彼女はそう言うと、また私を水の中に投げ込んだ。


もう…冷たすぎる!でも投げられる前に、頭の中にいい考えが浮かんだ。深く息を吸い、死んだふりを始める!そして水中で水を一口含み、彼女が助けに来た時に顔に吐きかけてやる。


「また死んだふりか?」


水越しに伊咲が何か言っているのがかすかに聞こえた。


もう息が続きそうにない頃になって、ようやく彼女が助けに来た。しかし彼女は私を直接引き上げようとするつもりは全くなく、手を伸ばして私をくすぐった。


元々息もほとんどなかったのに、こうやられたらもう我慢できず、自分で起き上がった。


「同じ手には二度とかからないよ。」

彼女は得意げに言った。


でも私はやることを忘れてなかった。彼女は今しゃがんでいて絶好のチャンスだ!私は体をひねると、彼女の顔に水を吐きかけた。


「うわ、気持ち悪い!」

彼女はしばらく呆然とした後、そう言い、顔を洗い始めた。


後ろでずっと傍観していた優一は、私たち二人の悲惨な姿を見て笑いが止まらなかった。


そして当然のように、次の八つ当たりの対象になった。


私たちが怒りに満ちて近づいてくるのを見て、彼女は逃げようとしたが、伊咲がダッシュして彼女を捕まえ、引き寄せると、さっき私にしたように彼女も水の中に放り込んだ。


彼女が起き上がろうとした瞬間、私は体をひねってダイブし、また彼女を水の中に押し戻した。


「げほ、げほ!あんたたち、二人がかりはずるい!」

彼女は水を飲んでむせ込みながら抗議した。


しかし私と伊咲は彼女を無視し、そのままチェアのほうへ歩いていった。


私はヘアゴムを外し、まず髪を少しだけ絞った。それから伊咲にタオルで少し乾かしてもらった。でも服はまだびしょ濡れで、体に張り付いてすごく気持ち悪い。


まあいい、いっそのこと脱いで伊咲に絞ってもらうことにした。


「わあ、ガキ!美穂は外でむやみに服を脱いじゃダメって教えてなかったのか?」


彼女は驚いた顔で私を見て言った。


「それがどうした。びしょ濡れの服を着て風邪ひくよりマシだろ。早くちょっと乾かしてくれよ!」


私は服を彼女に渡しながら言った。


「それもそうか…うん、とにかく女の子は外でむやみに服を脱いじゃダメってこと、覚えとけよ!」

彼女は私の服を絞りながら言った。


中身何も着てないのに一時間もホテル中走り回ってた奴にそう言われたくないよ。


彼女がだいたい絞り終えると、私にまた着せてくれた。


そして後ろで不機嫌になっている優一。彼女の髪はもともと私と同じくらい長く、びしょ濡れになると体に貼りついてしまう。


「めんどくさいなぁ…」

伊咲はとても嫌そうだったが、後始末もしなければならない。


「帰ったら髪切らせに行くからな。」

彼女は優一の髪を拭きながら、続けて言った。


「いやだ。」

優一はきっぱり断った。


「男のくせにそんなに長い髪にしてどうする、お姉ちゃんと一緒にいると姉妹に見えるぞ。」

彼女はひとりでしゃべり続けた。


ちくしょう、そばにいるだけなのに攻撃されるなんて!


「よし、さっさと服脱いで絞らせろ。自分でタオルで拭いとけ。」

だいたい済んだところで伊咲は直接彼女のズボンを脱がしにかかった。


「おい!なにするの?」

優一は抵抗しながら自分のズボンを掴み、彼女から離れようとした。


「いや、お姉ちゃんはあんなにあっさり脱いだのに、なんでお前は恥ずかしがってるんだ…」

伊咲は理解できないというように言った。


でも、これ以上私を攻撃しないでくれ!


「こ、このままでいい!」

優一はそう言うと、また逃げ出そうとした。


しかし結果は予想通り、伊咲が手を伸ばして彼女の襟首を引っかけた。


「美穂は一体どう教えてるんだ…男の方が恥ずかしがり屋で、女の方があっさりしてるなんて…」

彼女は不思議そうに言いながら、やっぱり優一を脱がせた。


どうやらまだ注意すべき細かい問題があるようだ。


服を着直した優一は生きた心地がしないといった表情で、渓流のそばにしゃがみ込み、機械的に石を水に投げ入れていた。


石を投げるのは彼女の固定行動パターンなのか?


「服を脱いでちょっと乾かすくらい、大したことじゃないだろ。それにお前は今、人に見せるようなものも持ってないんだから、そんなに拒否することある?」


私は火に油を注ぐように彼女を慰めた。


「変態バカクソ兄貴!何がわかるって言うんだ!」

彼女は私をにらみつけ、頭ごなしに罵倒した。


「わからない。だから説明してよ。」


私はわざと言った。彼氏じゃないんだから、推測せず直接聞けばいいじゃないか。


「クソ兄貴!そんなこと自分で理解しろよ、いきなり聞くなよ!」

彼女はますます怒って私に向かって怒鳴った。


「ちょっと説明しないと、私もなかなか共感できないよ!」


私は手を振りながら言った。


「あんた、羞恥心ってものあるの?」


彼女はあきれたように言った。


「どうしてない?最後の一枚のパンツが俺の譲れない一線さ。」


私は答えた。


彼女は私を見つめ、一瞬考えた。そして直接手を伸ばして私のスカートの中に侵入させ、私の今唯一のパンツを引きずり下ろした。


「お前…また何してんだ。」


私はうつむき、不思議そうに彼女を見た。彼女も理解できないというように私を見上げた。


「お前の一線を脱いじゃったのに、なんで他の反応がないんだ?」

長い沈黙の後、彼女は言った。


「まず、それは前世の話だ。あの頃はあそこにも何かあった。次に、スカートは好きじゃないけど、この服は長さもあって、すでに存在しない俺の体面をちょうど隠せる。だから、履かせてくれないか?」


私は平静な顔で言った。


「あ、ああ。」

彼女は私の冷静な態度に完全に圧倒された。というか、むしろ今の状況が理解できなかったようだ。そして最後に聞いた指示を実行するしかなかった。


どうやら私たち二人とも、何かわけのわからないものがこっそり目覚めてしまったようだ…


その後はそれぞれ好きなことをした。伊咲の奴はチェアにうつぶせになり、日光を浴びながらまた寝入ってしまった。


優一は私にそんなことをされてから、私に近づきたくないらしく、すぐに反対側に走って行き、他の人が釣りをするのを見に行った。


そして私はまた、携帯を盗むといういつもの仕事に戻った。


「ガキ、また何するつもりだ?」


私が携帯をゲットして逃げようとした瞬間、背後から携帯の持ち主の声が聞こえた。


「ママに電話してもいい?」


とっさに思いついた言い訳で答えた。


「ダメだ。こっちの悪口を言うかもしれないからな。早くよこせ!」


彼女は寝返りを打ち、手を差し出しながら言った。


私にどうしようもない。素直に返すしかない。


「さっさと大自然の懐に飛び込んで、子供時代を満喫してこいよ。」


彼女は携帯を受け取ると、それで私の頭をポンと叩いて言った。


「そんな場所に来たがったのは私じゃないのに…」


私は彼女から離れながら文句を言った。


「私だって最初はお前たち二人の厄介なガキを連れてくるつもりなんてなかったんだ。」


彼女は少しうんざりしたように言った。


反論したい気持ちは山々だったが、彼女が相手にしてくれそうにないのを見て、これ以上この奴を怒らせないほうがいいだろう。


でもここでいったい何をして遊べばいいんだ?石だらけの地面以外には何もない。この石で水中に堰でも作るわけにはいかないし…


うーん…それもありかも?渓流の幅を見上げた。絶対に無理だ。でもなぜか、こういう悪知恵を思いつくとすぐに行動に移したくなってしまう。


でもさ、本当にそんなことしたら怒られるだろうな…


まあいい、水に石を投げるくらいにしとこう。優一がなんでいつも石を投げてるのか、少しわかった気がする。だって怒られもしないし、退屈もしないから。


でも、すぐに飽きてしまった。私が水辺にしゃがみ込み、堰の建設の実現性を改めて考えていると、あの管理人おじさんが突然背後に現れた。


「こんな何もない場所じゃ、退屈だろう、お嬢ちゃん?」


管理人おじさんが突然言った。


「びっくりした!」


振り向くと、管理人おじさんが変わった形の竹かごを抱え、スイカが入ったネット袋を提げているのが見えた。


「すまんね!」


彼はそう言うと、そばにしゃがんだ。そして杭を一本取り出し、渓流に打ち込んだ。それから持ってきた二つのものを杭に結び付け、冷たい渓流の水に浸けた。


「もしよかったら、あとで暇つぶしに釣りでもしてみる?竿を作ってあげるよ。」


おじさんは固定を確認してから、続けて言った。


「それも今のぼーっとしてるのと大して変わらないんじゃない?」


私は嫌そうに言った。


「ははは、まあそうだな。でも何もやらないよりはマシだよ。少なくとも魚がかかるかもしれないし。」


おじさんは笑った。


「それもそうだな。でも私、釣りしたことないんだ。」


嘘は言っていない。前世も本当に釣りをしたことはない。サイバー釣りなら経験あるけど。


「簡単だよ。竿さえあれば十分。あとは忍耐力次第だ。ここでちょっと待ってて。おじさん、材料を取りに行くから。」


おじさんはそう言うと、振り返って材料を探しに行った。


かなり経ってから、小さなバケツと丈夫そうな枝を提げて戻ってきた。


「おじさんもお前ぐらいの頃は、こんな材料で組み立てた竿で、友達と川辺で遊びながら一日中釣りをしてたんだ。運が良ければ、帰りに何匹か魚を持って帰れたよ。」


彼はそう言いながら簡易的な釣り竿を手作業で作り、そう時間もかけずに完成させた。


「釣りで一番大事なのは何だと思う?」


彼は釣り竿を私に渡してから、聞いた。


「餌?」


私は不思議に思いながら言った。だってあの二文字のオープンワールドゲームでは、餌がないと釣れないから。


「その通り!ちょうどおじさん、この辺りで一番新鮮で良質な餌を持ってるんだ!」


彼はそう言うと、小バケツから大量のヌメヌメしていてまだ動いている、ある明確な生物が入った容器を取り出した。


「あ、あ、う、ああっ…」


声が出ない!全く動けない。こんな自然のままの環境に来るんじゃなかった!こういうものには本当にまったく抵抗できないんだ。


「おっと!忘れてた、忘れてた。都会から来たんだったな。まだこんなもの見たことないだろう。びっくりさせて悪かったね。実は葉っぱで代用してもいいんだよ。」


彼は私が動けなくなっているのに気づいたようで、慌ててそのミミズの入ったカップをそばに置き、慰めながら言った。


「何してるの、釣りするの?」


私たちがこちらで何をしてるかわからず、優一が走って来て聞いた。


彼女は現在の状況を見て、すぐに何が起こったかを理解した。


「彼女、虫とかそういうのすごく怖がるんだ。」


優一が続けて言った。


「うちの娘は小さい頃あまり怖がらなかったから、みんなが怖くないわけじゃないって、つい忘れちゃったよ。」


おじさんは気まずそうに笑いながら説明した。


「私、怖くないよ。このミミズ、私に残しておいてくれる?あいつが飽きたら、私も釣りしてみたいから。」

優一は期待に満ちた顔で聞いた。


「いいよ。ちょうど余分な釣り針も持ってるし、残りの材料でもう一本竿を作るには十分だ。」

おじさんはそう言うと、別の釣り針を取り出し、すぐにもう一本釣り竿を作り始めた。


「やったー、やっと何かすることができた。」

優一は嬉しそうに新しいおもちゃを受け取った。


それから、私とおじさんが驚きの目で見つめる中、彼女は慣れた手つきでミミズを取り出し、釣り針に付け、慣れた投げ竿を見せた。


「うーん、最近の子供はなんでもできるんだな。」

おじさんは驚いて言った。


いや、こいつ、なんでそんなに慣れてるんだ?


「じゃあお姉ちゃんたち、楽しんでね。釣れたらまずバケツに入れといて。」

おじさんは続けて言い、信じられないという表情で帰っていった。


「餌、付けてあげようか?」

長い間動かない私を見て、優一が聞いた。


「いいよ。」

私は答え、適当に葉っぱを一枚見つけて釣り針に付け、とても適当に針を投げ出した。どうせ釣れるとは思ってない。


「前、よく釣りしてた?」

しばらく沈黙した後、私が先に話しかけた。


「夏の家族旅行でパパと一緒に釣ったんだ。長くやってれば自然にできるようになるよ。」

彼女はあっさり答えた。


家族旅行…知っているけど、なんだかとても遠い言葉だ…


「毎年行ってたんだ?」

私は続けて聞いた。


「知ってて聞くんだ。」

彼女は冷たく答えた。


「はあ、いいなあ。暇もお金もあって遊びに行けるなんて。」

私はため息をつき、羨ましそうに言った。


「あんたなら、絶対に行きたくないと思うよ。」

彼女はそれほど単純じゃないという様子で言った。


「どうして?」

私は不思議に思って彼女を見た。


「あの場所は虫がすごく多いし、毎年同じ場所に行くんだ。スケジュールも完全に固定されてる。それに断れないんだ。目的地を変えて別のところに行きたいって言ったってダメなんだ。それにあのボロボロのキャンピングカー、四人が住むには狭すぎて小さすぎる。毎年の旅行はほぼ災難だよ。家にいたいって思うくらいだった!」


彼女は言えば言うほど熱が入り、本当に嫌ってるように見えた。


「少なくとも行く場所はあるんだし、キャンピングカーだってどんなに酷くてもトイレはあるんだろ?少なくとも渋滞は気にしなくていいし。」

私も以前は、家族でどこかへ旅行に行けたらなあと思ってたけど、家の経済状況が許さなかった。田舎に帰るのが家族旅行の代わりみたいなものだった。


「何回か行けば、自然に行きたくなくなるよ。」

彼女は非常に嫌悪感を露わにして言った。


「それはどうかな。私は車に乗るのは結構好きだし、公共交通機関よりずっと快適だよ。それにキャンピングカーなら、次のサービスエリアが近くにありますようにって願う必要もないし。」

私は言った。


「なにそれ?」

彼女は理解できないというように私を見た。


私たち二人が話している間、手に持った釣り竿に何か動きがあった。最初は錯覚かと思ったが、次の瞬間、反対側から大きな引きが伝わってきた。


まさか本当に釣れるなんて。それも葉っぱを餌にした私の方に!


「あっ!動かせない!手伝って!」


私は竿をしっかり握ったが、かかった奴は結構大きいようで、私一人の体重では足りず、水の中に引きずり込まれそうになった。


「ダメなら放せ!」


優一はそう言うと、自分の竿を放り投げ、私の腰を抱えて一緒に後ろへ引っ張った。


でもまだ足りない。今の私たち二人だけでは、水に引きずり込まれないでバランスを保つのがやっとだ。


「おい!伊咲!伊咲!!助けて!」


私は全身の力で竿を握りしめながら、大声で叫んだ。


後ろで気持ち良さそうに寝ていた伊咲は、私の突然の叫び声でうつらうつらと起き上がり、水に引きずり込まれそうになっている私たち二人を見て、すぐに目が覚めた。


「ったく!」


彼女はすぐにチェアから飛び降り、私たちの方へ駆け寄ってきた。


「まったく…ちゃんと寝かせてくれよ。」

彼女は文句を言いながら、私の手から釣り竿を奪い取り、思い切り引っ張ると、針にかかった魚を水中から岸に引き上げた。でも彼女も体勢を崩し、よろめいて倒れてしまった。


岸辺でまだぴちぴち跳ねている大きな魚を見て、反対側であの午後中何も釣れなかった釣り人たちが一斉に驚いた視線をこちらに向けた。


多分、これが初心者特典ってやつなんだろう…


それから、突然起こされた伊咲が怒りに満ちた目で私を見ているのが見えた。


まずいと思った。どうして初心者ペナルティもあるんだ!


「このやろう!」


彼女は怒って立ち上がりながら言った。


私は後ずさりし、いつでも逃げられる準備をした。


「誰がこんな危ないことしていいって言ったんだ!」


彼女は言い終わらないうちに、いきなり私を捕まえた。全く逃げる隙を与えない。


「痛い!うっ!助けて!」

彼女は片手で私をしっかり抱きしめ、もう一方の手で私の頬を思いっきりつねって憂さを晴らし、私は無力に叫んで助けを求めるしかなかった。


優一の奴は状況がまずいと見るや、すぐに逃げ出した。どうせ仲間より早く逃げれば安全だから、私一人が全部を負う羽目になった。


伊咲がやりたい放題やった後、ようやく彼女は地上でまだ活きのいい獲物の処理を思い出した。


「これはどうすればいいんだ?」


彼女はしゃがみ込んで、その魚を指さしながら言った。


「うっ…バケツに水を少し入れて、そこに入れればいいんだよ。」

私は片方の頬を押さえながら言った。でも実際は体中あちこちが痛かった。ただ顔が一番強くつねられただけだ。


帰ったら絶対に美穂に告げ口して、復讐してもらう。


私の言う通りに、伊咲はそばにあったバケツを持って渓流で半分ほど水を汲み、それからようやく魚を捕まえ始めた。


そう、手で捕まえようとした。


この魚はまだ元気が良く、釣り上げられてからこんなに時間が経っても、まだ捕まえにくく、手が触れるやいなや跳ね始めた。


何度か挑戦しても捕まえられず、ついに伊咲はキレて、蹴りを一発くらわせた。


飛ばなかったが、確かに動かなくなった…


伊咲が再び手を伸ばして捕まえようとした瞬間、また跳ね始めた。


「くそ!くそ!くそ!この野郎!」

彼女は罵りながら、哀れな魚の頭を思いっきり踏みつけた。


魚は暴れるニートの蹴りに耐え切れず、完全に燃え尽きた。


「じゃあ次はどうする?」

伊咲は魚の入ったバケツを提げながら聞いた。


「さあな、管理人おじさんに聞いてみたら?」

私は魚を哀悼しながら言った。


「ちぇっ、ここでじっとしてろ。もう危ないことするなよ。さっきまた戻ってくるから。」

彼女はそう言うと、バケツを提げて行った。


私をここに残し、何もすることがなく、体中が痛い。


もういい、とにかくチェアは空いてるし、私はそのまま横になった。


さっき伊咲の奴が強く叩きすぎて、横になるとお尻が押されて少し痛い。


今の天気はそんなに暖かいわけでもなく、ただこの場所は気温がやや低いだけで、このまま直射日光を浴びていると少し暑いし、つねられた方の頬もヒリヒリする…


毎日毎日、一体なんなんだよ。早く家に帰りたいよ、ううっ~


私がまだそんなに長く横になっていないうちに、戻ってきた伊咲に追い出された。


「いつ帰るの?」

そばで石を積み上げている私が聞いた。


「晩御飯食べてから帰る。」

伊咲はそこにうつ伏せになって答えた。


「え?じゃあ真っ暗じゃん、どうやって帰るんだ?」

私は振り返り、不思議そうに彼女を見た。


だって私たちが歩いて来るのに一時間近くかかった。それも渓流沿いの歩道で、街灯なんて全然ない。


「管理人があとで車で送ってくれるから。」

彼女は元気なく答えた。


それなら安心だ。少なくとも歩いて帰らなくていい。


私が渓流のそばに戻り、石を運び始めようとしたその時、伊咲の奴が突然起き上がり、私はびっくりした。


「もう眠れない。」

彼女は伸びをしながら言い、また渓流のそばへ歩いていった。


彼女がしゃがみ込むと、管理人おじさんが置いていったあの竹かごから何かを取り出した。彼女が戻ってくるまで、何だかよく見覚えがあるものだと気づいた。


「ほら。」

彼女はそう言うと、それを私の手に押し付けた。その時、やっとこの物体がラムネ(ビー玉入り炭酸飲料)だと気づいた。


「開けて!」


私は嬉しそうにそのラムネを掲げ、手伝ってくれるよう頼んだ。


「めんどくさい、ちょっと待って。」

彼女はうんざりしたように言いながら、自分のビールを開け、まずは一気に飲んだ。


それからようやく私の炭酸飲料を開け始めた。彼女がしばらくいじって、やっと口の包装を開けた。次は最後のステップだ。


炭酸飲料の口のガラス玉を押し込むと、「プシュッ」という音がした。なんて素晴らしい響きだろう。まるで夏がこの瞬間に完全に完成したかのようだ。


「あれ、手についちゃった。」

伊咲は嫌そうに炭酸飲料を私に渡した。


私は待ちきれずに瓶を受け取った。ここまで歩いてきて、とっくに喉が渇いていた。彼女が水を買いに行かなかったのは、これを用意するためだったのか。時々、この奴は本当にサプライズを準備できるんだなと感じる。


渓流の水でしばらく冷やされた瓶はひんやりとしていて、普段冷蔵庫から取り出すような凍てつく感じはしない。一口味わうと、ちょうどいい温度で冷たすぎず刺激も強すぎず、細かい泡が塩味と炭酸飲料そのものの味を包み込み、積もりに積もった喉の渇きと暑さをほぼ瞬時に消し去ってくれた。


やっぱり野外では、赤い缶のコーラより、ラムネこそが正しい選択かもしれない。


こうして渓流のそばに座り、山の涼しい風を浴びながら炭酸飲料を飲むと、この瞬間だけは夏と一時的な和解ができたかのようだった。


それからそんなに時間も経たないうちに、そばの椅子でビールを飲みながら私と一緒にぼーっとしていた伊咲がまた立ち上がり、渓流の方へ向かった。そして飲み物と一緒に冷やしておいたスイカを抱えて戻ってきた。


「おい、ガキ、お前の弟を呼んでこい。このスイカ切るから。」

彼女は歩きながら私に言った。


やっと気持ちよくぼーっとしてたのに、また走り回りたくはなかった。でもスイカが食べられるなら、仕方なく歩いてもいいか。


しかし、私が優一を連れ戻す前に、この奴はもう食べ始めていた…


彼女は真っ二つに切り、半分を抱えてスプーンでほじり始めた。もう半分はそばに置き、さらにスプーンを二本刺していた。


切り分けなんて絶対にありえない。面倒くさがり屋なのはそういうことだ。


優一はとても嫌そうな顔で、私と一緒にこの半分のスイカを共有した。


「こっち側には食べるなよ!」


彼女は嫌そうに言った。


「じゃあお前が先に食べろよ。残ったら私が食べるから。」


私はいい加減に言った。だってこの奴は本当に私と同じものを食べるのをすごく拒むんだ。なんで今でもまだこんなところで私と距離を置こうとしてるのか、まったくわからない。私たちはソフトウェア以外は同じメーカーの製品なのに。


「本当に?」


彼女は半信半疑で聞いた。


「じゃあまず一口ほじって味見させて。」

私はそう言いながら、スプーンを取り上げようと手を伸ばしたが、彼女は食べ物を守った。


「真ん中の大きいのを一すくいにして『一匙』って言わないよね?」

彼女はスイカに刺さった二本のスプーンをしっかり握りしめながら言った。


「しない、しない。小さいのを一個食べるだけだよ。残りはお前が好きにしろ。」

私は手を振って言った。どうやら彼女は前にそうやって騙されたことがあるんだろう。


「後で面倒なことになるって脅しはやめてね。」

彼女は脅すように言い、やっとのことで手を離した。


正直言って、もうこんなに大人になったのに、こんなところでまだ子供っぽいわがままを言えるなんて。彼女が役に入り込みすぎてるのか、それとも本性がそうなのか…


私は慎重にスプーンを取り上げ、彼女の不信感に満ちた視線の中、スプーンとほぼ同じ大きさの瓜の実をほじり、口に放り込んで味わった。


「甘くない。」

私は言った。


このスイカは生瓜じゃなかった。正直言って、果汁が豊富で食感もまずまず、ひんやりとしていて、とても暑さを消してくれる。


でもさっきラムネを飲んだ後だから、味が混ざっちゃってよくわからない。


彼女は不審そうな目で自分でも味わった。


「そんなことない、甘いよ。」

彼女は味わった後、言った。


「さっき炭酸飲料飲んだから、これを食べても甘く感じないんだよ。」

私はスプーンを刺し戻しながら言った。


「何の炭酸飲料?」

彼女は食べながら聞いた。


「夏の象徴にして最高の選択、ラムネ!あともう一つ幼馴染がいれば完璧なのに!」

私は彼女に説明した。


「ああ、私は炭酸飲料あまり好きじゃないから、それと交換するよ。」

彼女は相変わらず瓜を食べながら、どうでもよさそうに言った。


うーん、少なくとも私は全損ではないか…


晩御飯については、実は予想通りだった。魚が釣れた以上、食べない手はない。管理人おじさんがすぐにバーベキューコンロを組み立ててBBQを始めた。


でも私は魚が好きじゃないんだよ!目の前の器に分けられた焼き魚を見て頭が痛くなった。


やっぱり不運はこれだけじゃ終わらない。


伊咲とあのおじさんが酒を飲みながら話している隙に、捨てるチャンスを伺おうとした瞬間、優一が突然そばから顔を出した。


「食べないの?これ、あなたの初めての収穫だよね?」

彼女は自分の器のものを食べながら聞いた。


「小さいソーセージ二本と交換しない?」

私はあからさまに聞き返した。


「あら、もしかして魚好きじゃないの?」

彼女は口の中の魚の骨を吐き出し、弱みを握ったような顔で言った。


「そういうなら、これからお前のブロッコリーも私の器に放り込むな。」

私は逆に彼女を脅した。


「そんなに興奮するなよ。みんな好き嫌いはあるんだから。もう一本小さいソーセージをよこしてくれたら、手伝ってあげる!」

彼女はそう言って、また私を脅しにかかった。


「ならいい。これから嫌いなものを私の器に放り込むな。」

私は振り返って行こうとした。


「冗談だよ、一個と交換でいいよ?」

彼女は長期利益と一回のゆすりの区別はついていた。そう言うと、私に器を寄こさせ、魚肉をすくい取り、かじった跡のある小さいソーセージを一つ私に放り投げた…


この腹黒い奴め!


まあいい、少なくとも嫌いなものは取り替えられたから、他のものを食べよう。


それに、これが私の初めての野外バーベキュー体験なんだから、想像していたキャンプファイアーもなければ、このキャンプ場も野外とは言い難いし、串もない。魚以外の食べ物は全部近くのコンビニで買ってきたものだし…


でもそれでも野外バーベキューといえる…いや、これは焼肉かな?


私は悩みながら小さいソーセージを食べ、みんながそれぞれ自分のことに夢中になり、夕食が終わるまでそんな感じだった。


それから管理人おじさんが彼のライトバンを出してきた。あの、すごくコンパクトで座席が二つしかなく、後ろは荷台になってるやつだ。


明らかに助手席には三人は入れない。伊咲はとても不満そうだったし、酒も結構飲んでたから、彼女が突然酒乱を起こして駄々をこねないか心配だった。


しかし彼女は意外にも、自分から進んで荷台に座った。私は優一を抱えて助手席に座り、おじさんは彼女にしっかり掴まるように念を押すと、車を発進させて私たちを送り届けてくれた。


道中はそんなに時間はかからなかったが、この山道は本当に暗くて街灯が一つもない。ホテルの前で降ろしてもらい、おじさんは帰っていった。


ただ後ろに座って風に吹かれた伊咲は、寒さで震えていた。酒も醒めた。


部屋に戻るなり、急いでお風呂の準備をするよう私たちをせかした。


ただ、やっぱり貸し切り風呂…本当に他の宿泊客には一人も会わなかった。


お風呂でのリラックスタイムを楽しんだ後は、テレビを見て寝る準備をするだけ。残りの服は伊咲に自分でゆっくり洗わせよう。


だって、私があの洗濯物の入ったバケツをまだ運べないんだから、この仕事は当然私の役目になるはずだ。


翌日の午前中、私は家にいるときと同じ時間に彼女たちを起こし始め、やっぱりグズグズしてほぼ昼近くになってからようやく身支度を整え、出発の準備をした。


今日彼女が私たちをどこへ連れて行くのかはまだわからないが、出る前にホテルのフロントでここの観光ガイドをもらっておいた。着いてからネットで調べるよりはマシだ。


車に座り、私がまだ観光ガイドを見ていると、伊咲はハンドルにもたれかかってあくびをしていた。昨晩また何時に寝たんだか知らない。


「ちゃんと目覚めてるのか?ダメなら歩いて行くぞ。」

私は観光ガイドを閉じながら言った。だってこの辺りは全部山道だし、彼女がまだ寝不足みたいに見える。この奴に巻き込まれて事故りたくない。


「大丈夫、大丈夫。」

彼女はそう言って、頬を叩いて気合を入れ、車を発進させた。


「今日は昼ごはん食べないの?」

私は続けてガイドを見ながら聞いた。


「今から行くところじゃないか。」

彼女は言った。


「じゃあどこへ?」

「知らない。」

私が聞き終わるか終わらないうちに、彼女はまるで私が何を聞くかわかっていたかのように、すぐに模範解答を返した。


「知らないのに、なんでそんなに急いで出てきたんだよ!」

もうなんて言っていいのかわからない。来る前に少しも計画立ててなかったのか!


「お前、ガイド持ってるだろ?適当にそこから店を探して食べればいいじゃないか。早くしろ!食べ終わったら次の場所に行くんだ!」

彼女は逆にうんざりしたように、私に食事場所を探すよう急かし始めた。こうしてまずかったら、また私のせいにできるってわけだな!この奴は本当に陰険だ!


「これは観光スポットだけのガイドだよ。」

私は表紙を彼女に見せた。


「ちぇっ。」

彼女は舌打ちをし、黙って携帯を取り出し、あらかじめ準備していた目的地を設定した。


どうやらこの奴は本当に同じ手を使おうとしてたんだな…


ナビに従って細い道をしばらく走り、ようやく駐車場に着いた。それからまだ外に少し歩いて、やっと今回の目的地が見えた。


とても和風な店構えだ。でもすごく小さい!わざわざ探しに来なければ、注意して見ないと絶対に見逃してしまいそうだ。


玄関を入ると、中はお店の庭になっていて、鯉がたくさん泳いでいる池まである。少なくとも雰囲気としては悪くない!


うーん、どうせ私たちの家はお腹いっぱい美味しく食べることを追求してるから、家で食べるか、チェーン店かよく行くファミリーレストランで食べるかだ。雰囲気のあるレストランって、値段がちょっと怖い。


でも、こういうスタイルの店、前世では「農家レストラン」って呼んでたっけ?まあいい、これでいいや。


入る前は、この山の中の平日、多くのレストランは客が少ないと思ってたけど、この店はほぼ満席だった。


奥のほうの席しか空いてなかった。


「ふふふ、やっぱり私の選んだ店は間違いない。」

座ったばかりなのに、伊咲は得意げに言った。


もし別の状況だったら、やっぱり私のせいにするんだろうな。


「お前たち、何食べる?」

彼女は注文用のタブレットを手に取って聞いた。


「見えなきゃ何があるかわからないだろ!」

私はいい加減に言った。


「じゃあ看板メニュー全部頼んで、どれが美味しいか食べてみてから決めるわ。」

彼女は私たちの話を聞くつもりもなく、ひとりで注文し始めた。


また同じ手を使うつもりか!私たち二人は呆れた顔で彼女を見つめるしかなかった。


「あっちこっちうろつくなよ。トイレ行ってくる。」

注文が終わると伊咲は言い、立ち上がって去っていった。


「おい、今度はまずいのを食べる番はお前だな。」

私は小声で言った。


「いやだ。どうしてお兄ちゃんなのに、こんな時は妹を守るって見せないの。」

彼女も小声で反論した。


「もうそんな歳じゃないんだから、共同で責任負えないの?」

私は続けて交渉を試みた。


「ダメなものはダメ。なんで注文する方が子供のわがまま言ってるのに!」

彼女のへ理屈も少なくない。


「最後の価格設定、折半だ。さもなきゃ、俺もこれからお前に子供のわがまま言うぞ。」

私は切り札を出し、脅した。


「男らしく困難に立ち向かえないの!」

彼女はまだ責任逃れをしようとしていた。


「今は男じゃない。だから困難に立ち向かりたくないんだ。お前がやるべきだ!」

「くっそったれ、オタク、バカクソ兄貴!」

彼女は私が絶対に譲らないのを見て、私に悪態をつき、ふてくされてそっぽを向いた。


でも、いつから罵り方がこんなに流暢になったんだ?


この二人の厄介者に遭うと本当に疲れる。私はもうこれ以上彼女を慰める時間を無駄にするつもりはない。


このまま怒ってろ。


かなり待って、ようやく私たちの昼食が運ばれてきた。


伊咲は一番肉が多いうな重を奪い、私はキノコご飯、優一はキノコが好きじゃないので、食べたことのないそばを選んだ。


なぜ伊咲がご飯二つに麺類一つも注文したのか、私にはわからない。文化の違いかな?


でも、あのそばについてる、プリンみたいな白い塊はなんなんだ?


それに、この瓦の鍋にご飯、もう一つはスープってスタイルもどこか見覚えがある気がする。まあいい、少し味見してみよう。


米は私が好きなタイプじゃないけど、タレがご飯に染み込んで一粒一粒に絡まり、それに未知の品種のキノコの独特の香りとご飯に振りかけたゴマの風味がする。


意外と結構美味しい。それに思い出した。これって、底のお焦げがない釜飯じゃないか!全然本場じゃない!


私がこの偽物の釜飯を品評している間、伊咲は素早く手を出し、私のキノコご飯から大きな一さじをかっさらった。ついでに私のご飯の中のわずかなキノコも全部持っていった。


「あっ!私のキノコ!」

私は彼女に向かって怒鳴った。


でも彼女は誰だ?私のことなんかお構いなしで、すぐに口に放り込んで味わった。


「どうやらあんたの方が美味しいみたい!」

伊咲は食べ終わってから言った。


「美穂が帰ってきたら全部話してやるからな。」

私は意地悪く言った。


「そんなにケチるなよ。ただで取ったわけじゃないんだから。」

彼女はそう言うと、うなぎの身を半切れ私に投げた。本当に一切れから分けたんだ。だからこそ、この二人は全く同じタイプなんだ。そして重要なのは、私は魚が好きじゃないんだよ!


「どうせ好きじゃないんだろ、もらうわ。」

私がまだ何も言わないうちに、優一は箸でその半切れのうなぎの身を刺し、さっと取っていった。


「おい!あんたたち二人、いい加減にしろよ!」

私はもうこの二人の奴に怒って飛び上がりそうだった。


「あら、そのスープもう一口ちょうだい!」

優一の奴はまだ私をいじめるのをやめるつもりはなかった。


「勝手に分けて食べろ。もうお腹いっぱい。」

もうこの二人の奴と関わりたくない。私はお皿を押し出し、怒りでお腹がいっぱいだと言わんばかりにした。


「おい、そんなちょっとしたことですぐふてくされるなよ。」

伊咲は自分のうな重を食べながら、自分には関係ないといった様子で言った。


「そうだ、そうだ!」

優一がそばで相槌を打った。


「じゃあ、もし私がお前のうなぎ全部かっさらったらどうする?」

私は伊咲に聞き返した。


「ぶっ殺すぞ、ガキ!」

彼女は即座に表情を曇らせ、ためらいもなく口にした。


「今の私がそんな気分なんだ。」

私はいい加減に言った。


「今のあんたがどんな気分かなんて知るかよ。」

彼女は相変わらず理不尽で、本当に私を子供扱いして、いいようにしている。


もうこれ以上彼女たちと話す気力もなくなった。疲れた。


「この白いの、どうやって食べるの?」

優一が聞いた。


「こんな風にするんだよ。」

伊咲はそう言うと、優一のそばつゆを受け取り、あの白い物体のお皿の中身を注ぎ入れた。


「一口味見させて。」

彼女は続けて言い、優一のそばを一箸つまんで、つゆにつけて食べた。


「まあまあ。」

彼女は評価を下した。


「フォークと替えてくれない?」

優一は続けて聞いた。


「何言ってんだ。こんなに長く練習しててまだ箸が使えないのか。」

伊咲はそばつゆを返しながら、ついでにからかった。


「あんたが要らないなら、もらうわ。」

優一は直接別の手段を講じ、私のご飯を要求した。だって彼女は本当に箸が使えないんだから。


私はもう彼女を無視することにした。


「本当に食べないの?」

伊咲が私に聞いた。


私は直接そっぽを向いて彼女にも無視した。すると彼女は黙ってそのそばをお盆ごと引き寄せた。


彼女はまた私を一日中空腹にさせるつもりなんだ。彼女たち二人がお腹いっぱいになったらすぐに出発するなんて、本当に私の死活に関係ないんだから!


毎日毎日…早く家に帰りたいよ、くそっ!


それからまた引っ張られて、今日の最初の観光スポット、どこかの湖の浮き橋に到着した。


「じゃあ…私たちはここを降りて、向こうまで歩いて行って、また戻ってきて、最後にまた上るってこと?」


私はわざとらしく聞いた。


「そうだよ。それとも私が背負って行くってのか。」

伊咲は写真を撮りながらからかった。


「じゃあここで待ってるわ。ゆっくり行って、私のことなんか気にしないで。」

私はそう言うと、手すりにもたれかかった。


すると伊咲が手を伸ばして私を引きずり降ろそうとした。


「何考えてんだ?巡回中の警察に見つかったら、絶対に説教くらうんだから。」

彼女はそう言いながら、私の襟首をつかんで引きずり降ろした。


「自分で歩くから!引っ張らないで!」

私は嫌々ながら言った。


階段をかなり下りて、ようやく入口に着いた。優一は興奮して先に走って行き、私たちに急ぐよう手招きした。


「上で写真撮ったらそれでいいじゃん。なんでわざわざ降りてくる必要があるんだ。」

私は歩きながら文句を言った。


「実際に上を歩いてみないと、印象に残らないだろ。」

後ろから私を追い立てる伊咲が言った。


「この橋、安全なのかな?」

私は入口の柵のそばにある注意書きの看板を見て聞いた。


「知るかよ。そんなに余計なこと言わずに、さっさと行ってみればわかる。それから前の奴、そんなに走るな!」

彼女は私を押しながら言い、自分で先に橋に上がろうとする優一に叫んだ。


「私、ここで待ってるから、あなたたちだけで行って。」

私は抵抗しながら言った。だってこの物体、乗ったらきっと揺れまくるように見える。


「一人は出かけたら一目散に走り出し、一人はどうしても歩きたがらない。あんたたち二人は本当に厄介だな!」

伊咲はうんざりしたように言い、いきなり私を抱き上げると橋の上へ向かった。


確かにこの浮き橋はかなり簡素に見える。四つのプラスチック製の浮きに、手すりと床板を付けて、それを一節ずつつなぎ合わせただけのものだ。でも実際に乗ってみると、安定性は予想以上にまあまあ良かった。


多分、私が本当に考えすぎて、あまりにも慎重すぎるのかもしれない。


違うかもしれない。何かおかしい、何か悪いことが起こりそうな感じがする。時々、悪いことが起こりそうな時はこんな感じなんだが、それともお腹が空いてる感じ?なかなか説明しにくい。


まあいい、とにかく一歩一歩進もう。


私たちは橋をのんびりとほぼ真ん中まで歩いていった。山々を抜けて湖面を伝ってくるそよ風が、ちょうど真昼の日差しがもたらすほとんどの熱気を消し去ってくれた。


「二人とも遅いな!」

優一は橋の真ん中に設置された風向計の下で、私たちに叫んだ。


「おい、そんなに遠くまで行くな!あんた、あいつを見ててこい。」

伊咲は写真を撮りながら言い、私の足を蹴って先に行かせた。


正直、ここの景色は確かに悪くない。でも私はどうも大自然とあまり相性が良くなくて、体中がどこかしっくりこないし、誰と来るかも関係ある。


少なくとも次は、もうこの二人の命取りな奴らとは一緒に出かけたくない。


対岸に着いて、特に立ち止まる価値があるものも感じられなかったので、すぐにまたせかせかと戻り始めた。やっとの思いで上の駐車場まで登り返し、もう少しで死にそうだと思ったが、それでもまだ彼女たち二人に次の場所へ引っ張られていく。


伊咲は遠くないと言ったが、それでも私は優一と席を替えて後ろで少し横になることにした。


ちょうど眠くなってうとうとし始めたとき、車が止まった。遠くないと言ったが、まさかこんなに早く着くなんて!もう動きたくないよ、どうしよう!


「おい、横になるな、着いたぞ!」

伊咲は車のエンジンを切りながら言った。


もういい、まだ死んだふりを続けよう。


私が全く動かないのを見て、伊咲は本を一冊取り上げて投げつけた。本の背の角がちょうど私の背中に当たった。


「いてっ!いてっ!本で人を叩くな、痛いってば!」

私は叩かれた場所を揉みながら言った。


「眠ってなかったのか。ガイドブック持って降りろ。」

伊咲はそう言うと、ドアを開けて車から降りた。


「あなたたちだけで行って、私はもう少し横になってるから。」

私は観光ガイドをそばに放り投げ、また横になった。


伊咲は何も言わず、ただ黙ってドアを閉めた。


私は彼女がこれ以上私と付き合うつもりはないと思った瞬間、後部座席のドアが勢いよく開き、彼女が乗り込んできて私の服をつかみ、車から引きずり出した。


ジェットコースターより刺激的だった。ようやく体勢を立て直し、まだ反応できないうちに、彼女はまたあのガイドブックを私の手に押し付け、ドアを閉めてロックするのを一連の動作でこなし、片手で私の頭を叩きながら私を引きずって歩き始め、全く私が話す機会を与えなかった。


「待、待って!自分で歩くから!」

私は無力にそう言うしかなかった。


駐車場は湖のそばにあり、優一はとっくに前の手すりのところに走って行っていた。それから私は伊咲に引っ張られて彼女のところへ行った。


「景色はいいけど、ストーリーに登場させるにはあまり適してないな。」

伊咲はカメラを調整しながら言った。


私は手すりにもたれかかり、さっきとあまり変わらない景色を見ながら、なぜまたここに来なければならなかったのかを考えていた。


ただ、そばにはダムがあり、この湖は人造湖なんだろう。


そう思いながら、観光ガイドをパラパラめくると、すぐに対応する紹介が見つかった。


「本に何て書いてある?」

伊咲が撮影しながら聞いた。


奥多摩湖おおたまこ正式名称小河内貯水池おごうちちょすいち、都庁内の重要な貯水人造湖として…長すぎて読むのやめる。」

後ろの長い文章を見て、もう読む気が失せ、読み上げるなんて到底無理だと本を閉じて無視した。


「なに?字が読めないのか?」

彼女はカメラを下ろして言った。


「違う、疲れたから読むのやめた。早く見て回って、ホテルに戻って横になりたいんだ。」

私は怒って言った。


「何考えてんだ。あとでまだ行くところがあるんだぞ。」

彼女は歩きながら言った。


私は仕方なく彼女について行った。


「小河内貯水池」と書かれた看板の前で伊咲は立ち止まり、それから私にそこに立つよう言った。


「写真撮影はお断りします、どうも。」

私は手を振って言った。なぜかはわからないが、前世もあまり写真を撮られるのが好きじゃなかった。習慣になっているようだ。


「許可は取ってないよ。それに撮らなきゃ、どうやって美穂に来たって報告するんだ?どうやって子守料を多くせしめるんだ?」

彼女は私をそこに立たせて写真を撮るよう急かし、理由は単に美穂に金を多くせしめたかったからだとわかった。


「じゃあ優一にやらせればいいじゃん?」

私はまだ言い逃れようとした。


「あいつはもうたくさん撮った。問題はあんたがいつも私の足元にいて、撮るチャンスがないんだ。」

彼女はそう言いながら、焦点距離を調整した。


もう狡弁を弄する余力はない。撮るなら撮れ。


私は看板のそばに行き、ポーズをとって彼女が撮るのを待った。


「それどこで覚えたんだ?そんなジェスチャーで私を見たら、すぐに手を折ってやる!」

彼女は不機嫌そうな顔で言った。


私は急いで万年不变のピースサインに戻した。


写真を撮った後、私たちはまたダムの反対側へと歩いていった。そして案の定、拳が頭の上に落ちてきた。


「あのジェスチャー、どこで覚えたんだ?」

伊咲は歩きながら追及した。


頭上の圧力に迫られ、私はその場ででっち上げるしかなかった。


「テレビで見て覚えた。かっこいいと思って。」

そうは言ったが、実は半分本当で半分嘘だ。だって本当にテレビで覚えたんだから。


「いいこと覚えずに悪いことばかり覚える。」

彼女は手を引っ込めて言った。


優一はまだ一番前を歩いて私たちを待っていたが、今度は何かの看板のそばに立ち止まり、そばの建物を指さしていた。


近づいてようやくわかった。看板はそばの建物が展望塔であることを示していた。


「二人とも遅いな、上ってみない?」

彼女は文句を言った。


「なんだ?有料なら行かないよ。」

伊咲はそう言いながら、入口を見た。


何の表示もなかった。有料ではないようだ。


それから私たちは階段を上っていった。三階が展望室だった。正確に言うと、四方に大きな窓がある展望デッキだ。


つまり、下のダム頂上より少し高い、視界が少し良い場所で、本質的には同じ景色で、私にとってはどっちも大差ない。


別の方向はダムの下の放水路といくつかのインフラ施設で、ここから見下ろすと落差が結構ある。でもそれ以外は特に何もなく、地元の紹介とダムのミニチュアモデルがほぼ全部だった。


私は湖に向いた大きな窓のそばに戻り、外を見ながらぼーっとし、伊咲が写真を撮り終え、優一があちこち走り回って飽きるまで、次の場所に行けないのを待った。


そして今は体のエネルギー消費を節約し始めなければならない。この後、いったいどこへ行くのかわからないんだから。


しばらくすると、伊咲がやってきて手を私の頭に乗せた。


「退屈したか?」

彼女は突然聞いた。


「まだ帰らないなら、また死んだふりしてやる。」

私は平静な口調で脅しながら答えた。


「焦るな。これから行くところは、あんた嫌いじゃないはずだ。」

彼女はわざと神秘的に言った。


「それがどうした?それに手をどけてよ、重いんだよ!」

私はどうでもいいふりをして答えた。


それに彼女がそんなことを言うなら、嫌いじゃなくても嫌いなふりをしてやらなきゃ!


展望塔を離れた後、私たちは駐車場そばの湖に面したあずまやで少し休憩し、それからまた次の場所へと向かった。


私は後部座席でうたた寝する時間を急いで確保した。最初はそんなにかからず着くはずだと思ってたが、どれだけ眠ったかわからないうちに突然伊咲に起こされ、まだ完全に覚めていないのにまた車から引きずり出された。


ぼんやりと頭を上げると、駅の外にいるようだった。


なんで駅の外なんだ?


まだ頭が回転を始める前に、彼女に中へ引っ張り込まれた。


入ってくると、入口そばの階段で二階のカフェに行ける。でも、カフェにフルセットの演奏設備を置いてる家があるか!コーヒーを飲みながらライブやって、一日中歌うつもりか!それとも一生歌うつもりか!


でもバンドは見当たらず、設備も動いていなかった。演奏用の壁に掛けられたテレビだけがCMを流していた。他はカフェそのものだ。彼らはコーヒー豆や挽いたコーヒーを販売する専用の棚まであり、お土産にできる。


「自分で何がいいか見て。」

伊咲は私たちをカウンターに連れて行ってから、やっと聞いた。


私は目が回るようなメニューを見上げた。選択肢が多すぎるのも頭が痛い。


するとそばの優一が先に決めた。


「ロングアイランドアイスティーはありますか?」

彼女はわざと伊咲のズボンを引っ張りながら言った。


この奴、絶対にわざとだ!


「ダメ!それまたどこで聞いたんだ?」

伊咲は不思議そうに言った。


「テレビで見た。」

こいつは私と同じ理由を持ち出した。


「あんたたち二人、これからテレビ見るな!早く選べ、さもなきゃ食べるな。」

伊咲は少し怒った口調で言った。


すると優一は首をかしげて私を見た。


「チョコレートアイスクリームと、紅茶氷。」

私は彼女を無視し、先に注文した。


「お前は?」

伊咲は足元にしがみついている優一を見下ろしながら言った。


「ミルクソフトクリーム。」

彼女は簡単に答えた。


「私が何を飲むか見てみる。」

伊咲はそう言うと、メニューの左下を見た。私も彼女の視線を追って見ると、ここにはお酒も売ってるんだ。道理でさっき優一がロングアイランドアイスティーを欲しがったわけだ。ここにライブ設備がある理由も説明がつく。


「あとでまだ運転するんだぞ。」

私は急いで注意した。


「わかってる、わかってる。うるさいな、選ぶのに邪魔するな、あっちで遊んでろ。」

私の言葉を聞いて、彼女はしぶしぶメニューの他の部分を見始めた。


結局アイスコーヒーとミルクソフトクリームを選んだ。だったらコーヒーにミルクを入れればいいんじゃないか?突然そんな疑問が浮かんだ。


それから、二人の中年女性がカウンターの両側のレジで操作しているのが見えた。そのうちの一人が私たちの困惑に気づき、説明してくれた。実はここは二つの店が一つの場所を共用して営業しているのだそうだ。


一軒は食事、アイスクリーム、酒類を専門に売り、もう一軒はコーヒーと特製ドリンクをメインにしている。


理解できない!本当に理解できない。なぜ一つの店ですべてのジャンルをカバーできないんだ?私が理解できないだけでなく、地元民の伊咲も理解できてないようだった。


でも私が払うわけじゃないし、残りのことはこの姉さんに自分で解決させよう。食べるのを待てばいい。


とにかくチョコレートアイスクリームは濃厚だったし、アイスティーもまあまあだった。夏はやっぱり冷たいものを食べなきゃ気持ちがいい!それと不満なのはライブが見られないことと、身長が足りなくて外のプラットホームが見えないことだ。


ここで食べて休憩が終わり、窓外の日光も目に見えて明るさが落ち始めた。夜になると、この辺りは本当に何も娯楽がなくなる。


たぶんこのカフェが転身したバーで何かイベントがあるくらいだろう。


ホテルに帰る途中、伊咲は突然夜にまたここに来て夜景を撮りたいと言い出した。でも彼女が単にここで酒を飲みたいだけなのは、足の小指で考えてもわかる。


「ダメだ。酒飲んだら運転できなくなるだろ。」

私は反論した。


「じゃあ車運転しなければいいじゃないか。」

彼女は続けて説明した。


「じゃあどれだけ歩くつもりだ?私はついて歩かないぞ。酔っ払って暴れるのはともかく、問題はこの山の中には熊がいるらしいぞ。」

私は続けて断った。


すると彼女は急ブレーキをかけて車を止めた。


「これくらいの距離だ。」

彼女はエンジンを切りながら言った。しかも酒を飲みに行くことを否定もしなかった。


私は座席から立ち上がり、窓の外を見た。本当に5分もかからない距離だった。


「行くなら、美穂に、私たちをホテルに置き去りにして自分だけバーに行ったって告げ口するからな。」

私は直接脅した。


「いい考えだ。じゃあお前たち自分で部屋にいろよ。」

彼女はシートベルトを外しながら言った。


呼んでも止まらない。勝手にしろ。


夜、彼女は部屋の浴室で私たちの体を洗うと、形だけカメラを持って出ていき、私たちに自分で寝て待たなくていいと言った。


優一は今日あちこち走り回って遊び疲れ、この時間にもう疲れきって、一緒に少しテレビを見た後、あくびをしながら私にもたれかかり、うとうとし始めた。彼女を追い払って寝かせた後、私も暇で眠くなってきた。


さっきまで酔っ払いが帰ってくるのを待つつもりだったが、どうにも耐えきれなくなり、いっそのこと爆睡することにした。


早く寝て遅く起きると気持ちがいい。布団をかぶって目を閉じ、そしてお決まりのように酒臭さで起こされる。


少し目を覚まして座り直し、伸びをした。振り返っては、よく眠れなかった原因の奴の頬に平手打ちを一発。それから日常の洗面、朝のアニメ鑑賞、彼女たち二人が自分で起きてくるのを待つ。今日またどこへ行くかは、ご飯を食べてからじゃなきゃわからない。


でも少しお腹が空いたのは本当だ。最近お腹が空くのが早くて、食べる量も多い。多分この体が成長期の問題なんだろう。


私が座ってテレビをつけてまだそんなに経たないうちに、優一が先に起きてきた。しばらくそこに座っていたが、やっとベッドから降りて洗面に向かった。


彼女が身支度を整えると、私のいる畳のほうにやってきて、あの酔っ払いがまだ少しも動かないのを見て、彼女も横になり、一言も言わずに私の膝の上に頭を乗せて二度寝を始めた。


とりあえず邪魔にならないから、私は朝のアニメを見続けた。


すると見るべきものも見終わり、足も痺れてきた。あの酔っ払いはちっとも動かない。


私は優一を起こし、それから直接ベッドによじ登り、もっと騒ぎを起こすことにした。


「おい!起きろ!昼ごはんの時間だぞ!」


私は彼女の頬を叩きながら言った。


何発か叩かれた後、彼女はやっとのことで少しだけ目を覚ましたようだった。


「きもい。」

彼女は力なく言った。


「起きてすぐ人を罵るな!」

私は怒って言い、彼女の布団を引っ張り始めた。


「頭が痛い…」

彼女は続けて文句を言った。


「わかった。でもご飯の時間だ。寝るなら食べ終わってから寝なさい、いいか。」

私はそう言いながら、この奴がまた寝入ってしまわないよう、できるだけ揺さぶった。


「二日酔いの薬買ってきて…」

彼女は私の枕を引き寄せて顔に載せた。


「私、ドア開けられないよ。自分で起きて何とかして。」

私は自分の枕を取り戻そうと手を伸ばした。


彼女が寝ようが寝まいが、今日出かけるかどうかなんてどうでもいいけど、問題はもうすぐ1時なのにまだ昼食にありつけてないことだ!


「じゃあ…水、水でもいい…」

彼女は続けて言った。


「それもないよ、買ってないんだから。」

私は全身の力で自分の枕を引っ張ったが、それでも奪えなかった。


彼女にはどうしようもない。振り返って優一を一緒に呼ぼうとしたら、あの奴も床に横になって寝入っていた。


この二人、本当に誰一人として頼りにならない…


かつての大人として、一人で買い物に行くくらい問題ないはずだ。言葉も通じるし、ただ今の私の身長では、かろうじてドアノブに手が届く程度で、エレベーターは飛び跳ねればボタンを押せるかもしれないが、鍵を差し込むのはちょっと難しいかも…


しばらく考えて、私は椅子を外に運び出し、後で帰ってきてドアを開けやすくすることを決めた。どうせ頼りにならない妹がドアを開けてくれるなんて期待するより、自分でやったほうがマシだ。


あとは特に問題ないはずだ。店はそんなに遠くないし、山の中だから車も少ない。真昼間だし、熊に遭遇するはずも…


ないよね?この辺り、結構人がいるし。


服を探しながら、他にどんなハプニングがあり得るか考えていた。やっとのことでズボンを見つけ、適当に服を一枚持ってくればいい。ただ昨晩脱いだパンツを伊咲が洗った後、どこにしまったかわからない。


まあいい、とりあえずこのまま着ておこう。


それからお金と部屋の鍵を持ち、まず椅子をドアのそばに運び、飛び上がってドアを開け、椅子を運び出し、最後にドアを閉める。


次の関門はエレベーターだ。


このボタンはドアノブより少し高いが、問題ない。少し助走をつけて飛び跳ね、何度か試してようやく成功した。ただ、手が痛い…


中に入れば少しはマシだ。一階のボタンは下の方にあるから、少し飛び跳ねれば押せる。問題は後で戻ってくるときだ。


エレベーターが一階に着いてドアが開いた時、私はもっと簡単な方法を見つけた。まずは外に出よう。自動ドアが今の私の身長を感知できるだけマシだ。


外に出て、やはり山の空気の良さには感心した。都会のように吸う息が温かいなんてことはなく、ここ数日慣れたおかげで、エアコンの保護の外でも、前のように体中が不快というわけではなかった。


まだちょっとだけあるけど…だって、外派の優一には到底敵わないから。


こんな風でのんびり散歩しながらコンビニの方へ向かった。どうせ彼女をもっと寝かせておくためだ。でもよく考えてみると、これが私の人生で初めての一人外出かもしれない。他の時間は美穂か伊咲と一緒か、そばに優一が付いているかだ。


コンビニのドアを開けて中に入り、冷蔵庫のほうへ行ってずっと探したが、ミネラルウォーターが私の手の届かない位置にあることに気づいた…


店番をしていたおばあちゃんは私が入ってきた時から気にかけていて、私が物が取れないようだと、自ら手伝いに来てくれた。


「何が欲しいのかね、お嬢ちゃん?」


彼女は歩きながら優しく尋ねた。


「水二本と、それから牛乳が欲しい!」


手伝ってくれる人がいるのを見て、私はすぐに演技モードに入り、冷蔵庫の水を指さしながら言った。ついでに自分用にも何か買っておいた。


「はいはい、おばあちゃんが取ってあげるね。」

彼女はそう言いながら、冷蔵庫からものを取り出した。


「この牛乳でいいかね?」

彼女は続けて言い、紙パックの牛乳を一つ差し出した。


これって一昨日飲んだあのブランドじゃないか?どうでもいい、どれも同じだ。


「それです!」

私は嬉しそうな様子で受け取った。だって今のこの姿を利用しないなんて、もったいない。


まだちょっと恥ずかしいけど…


「他に何かいるかね?」

おばあちゃんは優しく言いながら、冷蔵庫のドアを閉めた。


「二日酔いの薬。」

私は答えた。


「おお、大人が酔っ払って、自分で来させたのかね?」

おばあちゃんは反対側の棚へ歩きながら聞いた。


「はい!」

たくさん話すと、この年齢にふさわしくなくなりそうなので、とにかく多くを語らないことにした。


「本当にお利口さんだね。大きくなったらきっといい娘になるよ。」

おばあちゃんはにっこり笑いながら褒めてくれた。


でも私のすでに傷だらけの尊厳に、また二つ傷がついたような気がした。


レジの前に戻り、私はお金を取り出し、手を伸ばしておばあちゃんに渡した。出るときに何が欲しいかわからなかったので、五千円札を一枚抜き出しておいた。


「それと美味棒一本と、あめ玉一つもらえますか!」

ついでに言った。


「お使い代にお菓子にするのかい?」

おばあちゃんはお金を受け取りながら、袋詰めを手伝いながら言った。


私は彼女の言葉に合わせてうなずいた。


「美味棒はそばにあるよ。あめ玉はどんな味がいい?」

おばあちゃんはレジ台に置かれたあめ玉の瓶の蓋を開けて聞いた。


「オレンジ!」

私は適当に一本美味棒を取りながら答え、それもおばあちゃんに渡した。


彼女は全部袋に詰めてくれ、それから引き出しからお釣りを取り出して私に渡した。さらに二回に分け、まず紙幣をきちんとしまってから、硬貨をくれた。


私は硬貨を全部もう一つのポケットに押し込んだ。これが私の歩合だ。


おばあちゃんは詰め終わったものを私に渡し、帰り道気を付けるよう念を押した。


私はものを受け取ると、お礼を言ってゆっくりと歩いて帰った。


ホテルの玄関に着くと、私は直接フロントで当直している従業員を探し、また年齢と外見の強みを発揮した。


最初に出てくるとき、どうしてこれに気づかなかったんだろう?椅子を運び出すのに無駄な労力を使った…フロントの女性は私を部屋まで送り届け、ついでに椅子も玄関に運び入れてくれ、それからドアを閉めて去っていった。


私は買ったものを提げて部屋に戻ると、ドアの音を聞いた伊咲が目を細めて警戒しながらこっちを見上げた。私だとわかると、また横になった。


「どこ行ってた?」

彼女は小声で聞いた。


「二日酔いの薬と水を買えって言ったんじゃないの?」

私はそう言いながら彼女のベッドのそばへ行き、それから袋からミネラルウォーターを取り出して渡した。


水を受け取ると、彼女はしぶしぶ起き上がった。しばらく座っていたが、やっと開けてがぶがぶと半分近く飲み干し、むせそうになった。


「これが二日酔いの薬。」

私は袋からもう一つの小瓶を取り出して渡した。


少し目が覚めた彼女はそれを見て、薬を一気に飲み干した。彼女の嫌そうで死にそうな表情を見ると、きっと美味しくないんだろう。


私は畳の上に戻り、袋から美味棒を取り出してかじり始めた。食べる音が後ろでまだベッドに座っている酔っ払いの邪魔になった。


「おい!独り占めか!まだあるか?」

彼女はすぐに音のする方へ下りてきて突進してきた。


「買ってこいって言わなかったじゃん。」

私は答え、食べ続けた。


彼女はこれ以上話すのも面倒くさいらしく、直接私の手から残りの半分の美味棒を奪った。


「私のお金だよ。それに誰が余計なもの買っていいって言った?」

彼女は子供のものを奪って当然といった態度だった。


「ダメだって言わなかったじゃん。」

私は袋の中の紙パック牛乳を取り出して反論した。


「お母さんは盗んだり無駄遣いしたりするのは悪いことだって教えてなかったのか?」

彼女は当然のように残りの半分の美味棒を食べながら言った。


「まず、無駄遣いについてはあんたが私に言う資格はない。」

私はそう言いながら、紙パック牛乳にストローを刺した。


「次に、確かに教えてなかった。でも買えって言ったのはあんただよ。」

牛乳を一口飲んでから、ゆっくりと言った。


「じゃあ美穂は一体あんたたちに何を教えたんだ?」

彼女は自分がそれほど理にかなってないと見ると、話題をそらし始めた。


私は少し考え、また一口牛乳を飲んでから、続けて言った。


「他人のクレジットカードを使うのは、自分のを使うより楽しい!」


そう、わざとだ。


「上梁歪めば下梁歪む。お母さんにそっくりだな!」

彼女はそう言うと、私の牛乳も奪った。


この奴もそんなに良いところがあるわけじゃない。


「それからお前もだ、寝るな。」

彼女は私からいいとこ取りできそうにないと見ると、すぐに注意をそばでまだ二度寝している優一に向け、彼女のお尻をぴしゃりと叩いた。


「うっ…ご飯の時間?」

優一はぼんやりと起き上がって聞いた。


「違う、ただまだ寝てるのが気に食わないからだ。」

彼女はストローを噛みながら言った。


優一は呆れた顔で彼女を見た。


「おい、いったいいくら買ってきたんだ!」

彼女が振り返ると、私があめ玉の包装を開けているのを見た。


「もうない、最後だよ。」

私はそう言いながら後ろに下がり、万が一この最後のお菓子も奪われないようにした。


急いで開けて口に入れる。


「なんで私の分がないの?」

優一は少し目が覚めると、私たち二人が何か食べているのを見て、聞いた。


「むにゃむにゃむにゃむにゃむにゃむにゃ。」

このあめ玉をくわえたまま、自分でも何を言ってるかよくわからない。


彼女たち二人は私を見て、まるでバカを見るような目をした。


「出してから話せ…」

伊咲が残りの牛乳を飲み干してから言った。


「ずっと寝てたからだろ。」

私は口からあめ玉を取り出してもう一度言った。


「なんて自分勝手なんだ!」

優一は不満そうな顔で私を見た。


「よく言った!お前たち喧嘩してろ、私は先に風呂入ってくるから。」

伊咲の奴はさらに火に油を注ぎ、飲み終わった牛乳パックを放り投げて逃げ出そうとした。


「あ、そうだ。私のパンツはどこ?さっき出かけようとしてずっと探したけど見つからなかった。」

私も話題転換の大技を使った。


すると彼女は答えず、服を脱ぐスピードを速め、ベッドの上に全部放り投げ、洗面所のドアにしがみついてからようやく口を開けた。


「昨晩遅く帰ってきてすごく眠かったから、そのまま寝ちゃった。今日は我慢してちょっといつものやつで!」

彼女はそう言うと、直接ドアを閉め、隠れてしまった。


「おい!風呂も入らずに私のベッドに上がるな!」

しばらくしてようやく気づき、洗面所に向かって怒鳴った。


優一はそばで、あの奴が自分を抱いて寝なかったことを喜んでいた。


「何笑ってる、このズボンが最後の一枚だ。今日はお前がスカートはく番だぞ!」

私はそう言うと、あめ玉を口に含み、ズボンをしっかり掴んだ。


「え?!違うよ、お兄ちゃんがはくべきでしょ!早く脱いで返して!」

彼女は一瞬呆然とした後、やっと気づき、言いながら私のズボンを引っ張り始めた。


「返して!今はあんたが女の子なんだから!」

彼女は続けて言った。


妹よ、残念ながら、さっき私の自尊心は二つ刺されたばかりだ。今日は内側攻撃は効かない。だからごめん、今はこのズボンを命がけで守る。


身支度を整え、ご飯を食べ終わると、次は今日の最初の観光スポットへ行く番だ。


車の中で優一はまだふてくされていた。伊咲は自分自身が私や彼女が喜ぶかどうか気にせず、とにかく自分が楽しければいいとばかりに、無理やりスカートを彼女に着せたから。


でも彼女が何を怒ってるのか、私にはわからない。もともと彼女がはくべきだし、それに今の私たち二人はまだ性別がわかりにくいし、同じくらいの長さの髪をしてるし、外人にどうやってわかるっていうんだ?


山道をぐるぐると30分ほど走り、やっと伊咲が軌道ケーブルカーの駅前で車を停めた。


彼女は今日まず神社に素材を集めに行くと言っていたから、道端で見つかるような場所だと思ってた。まさかケーブルカーに乗り換える必要があるとは。


でもケーブルカーに揺られながら林間の軌道を終点のまぶしい暖かい日差しへと進んでいくと、かつて見たあの鉱山のトロッコと、太陽を浴びて盛大に逃亡する物語を突然思い出した。


でも原作はその後だめになってしまったが、別に惜しくはない。だってあの物語を書いた少年はもう少年じゃないし、物語を見ていた少年は今、幼女だから…


くそ!再び少年になる資格すらない!


そばの伊咲は突然落ち込んだ私を不思議そうに見ていた。


山頂のケーブルカー駅を出ると、「ようこそ」と書かれた大きな看板が見えた。鳥居じゃないのか?


私が首をかしげているだけでなく、伊咲も首をかしげていた。優一だけが前を歩いていた。看板の片側には確かに中の神社の名前が書いてあったが、道はすぐ先で曲がっている。まだ階段を登り続けなきゃいけないんじゃないか?


私はそばの伊咲を見た。彼女も私を見下ろした。


「もうすぐのはずだ。」

彼女も明らく自分でわかってなかった。


それからほぼ10分歩いても神社の影すら半分も見えないので、私たち二人はようやくおかしいと気づいた。伊咲は急いで携帯を取り出し、この鬼畜な場所の情報を検索した。


「登るのに30分以上かかる!」

彼女は驚きの声を上げた。


「やっぱり行くのやめよう。」

私は続けて提案した。


優一は私たち二人が立ち止まって何か話し合っているのを見て、どうやらまずいと察したらしく、すぐに走って戻ってきた。


「なんでちょっと歩いただけで休むの?」

彼女が聞いた。


「行かない!」

私と伊咲はほとんど同時に手を振って言った。


「もうこんなに歩いてきたんだから、最後まで歩いて見てみたら?」

優一はだらしない私たち二人を見て怒って言った。


「今のところまだ三分の一しか歩いてない。すぐに戻るのがベストだ。」

伊咲は振り返って言った。


「うん、うん!」

私も振り返って同調した。


「ダメ、どうしても行きたいの!」

優一はそう言うと、私の服を掴んだ。


彼女は伊咲を引っ張ることはできないとわかっていたから、まず私を捕まえて離さない。


「離してよ!私を引っ張るなよ!そんなに遠くまで歩けないよ!」

私はもがきながら言った。


「さっきあんたたちが私をいじめたからだ!行きたいんだ、行かなきゃママにみんなが私をいじめたって言うからね!」

彼女は怒って私たちを脅した。


すると伊咲はまた訴えられると聞くや、この奴はすぐに態度を変え、その場で振り返ると私を引っ張ってまた中へと歩き出した。


「来たんだから、入ってみなきゃ来た意味ないだろ。」

彼女はそう言いながら歩いた。


「え!裏切る気か!」

「あんたが教えたんだろ、ガキ!」

彼女は陰険な顔で私を見て言った。


そうだったな…まあいい、諦めてこのまま行こう。


私のこの引きこもりの体力ではなかなか持ちそうにない。それに昼食の時についおやつを食べすぎて、突然こんなに動くと気持ち悪くて吐きそうだった。途中で彼女たち二人を呼び止め、道端で少し休憩することにした。


「水ある?」

私はそばの手すりにもたれかかりながら聞いた。


「ない。ケーブルカーが直接入り口まで来ると思って、次の場所で買おうと思ってた。」

伊咲はそばで写真を撮りながら答えた。


「来る前にちゃんと下調べしろよ!」

私は文句を言った。


「人生には少しサプライズが必要だよ。そうでなきゃ創作のインスピレーションなんて湧かないだろ。たとえば、ここから市内が見えるなんて思わなかっただろう。」

彼女は明らかにその場ででっち上げた言い訳だが、これが完全に言い訳だという証拠はない。


でも彼女が写真を撮っている方向を見ると、確かに市街地の端が見下ろせる。ただ残念なことに、巨大なロボットや放射能トカゲみたいなものは見えなかった。


それに建物群は遠すぎる。若い体は確かに視力が良いが、実際には細部までは全く見えない。夕方か夜が完全に更けてから夜景を撮るには、とても良さそうだ。


優一の奴はそばで私たちを急かし続けた。私たち二人はもう少し休みたかったが、彼女はまた私たちを脅すので、動いて目的地に向かうしかなかった。


うっ、まだ少し吐き気がする…さっきあのおやつを奪い合って食べなきゃよかった。


半ば押され半ば引っ張られて残りの道のりを歩き、最後の坂を全力で登り切り、ようやく神社の入口に着いた。この鬼畜な場所、なかなか来られない…私のような室内派にはあまりに不親切だ。


でもそばの伊咲も似たようなものだった。


私たち二人はまだその場で息を整えていると、優一はとっくに階段の半分まで登って私たちを待っていた。


彼女は本当に疲れてないのか、それともわざと我慢してでも私たちに復讐しようとしてるのか、気になる。


「そんなに速く走るな!私も写真撮るんだから!」

伊咲はまた歩こうとする優一に叫んだ。


明らかに彼女自身も休みたかったが、私は彼女が助けてくれたと思いたい!


結果、私が階段のそばに座り込んでまだそんなに経たないうちに、伊咲もやってきて私のそばに座った。それから私たち二人はここで休み、涼しい山風を浴びた。


「もう入口まできたんだから、登り切って回ってから休めばいいじゃん。」

上でかなり待っていた優一は私たちがここに座り込んで動かないのを見て、仕方なく降りてきて私たちを急かした。


「ダメ!」

私たち二人は同時に彼女を見て言った。


彼女は私たちを脅しはしなかったが、そばに一緒に座り込み、私たち二人がぼーっとするのを待った。


どれくらい経ったか、まだ5分も経ってないうちに優一はまた私たちを急かし始めた。


「行くぞ、行くぞ。」

伊咲は立ち上がり、適当に私も引きずり起こした。


「あと5分休憩できないの?」

私は諦めて言った。


「どうせここもそんなに広くないんだから、回り終わってから休む場所を探せばいい。」

伊咲は私の襟首をつまんでまた座ろうとするのを止めながら言った。


仕方ない、また引きずられて登るしかない。


ただ、半分ほど登った時、白い衣に赤い袴を着た人影が地上の落ち葉を掃いているのを突然見つけた。このボロ場所に巫女がいるなんて思わなかった。そしたら、もう疲れなんて吹っ飛んだ!


だって普段、初詣以外はうちは神社なんて行く理由ないし、それに初詣のあの盛況ぶりを除けば、コスプレ巫女や東方の巫女ばかりで、本物の巫女なんて見たことないんだから。


この場所、自家製の口噛み酒を売ってないかな?頭に小さいアヒルを載せて、喋れない少女じゃなければ、何でもいいんだけど。


突然興奮して前に走り出した私に、伊咲と優一はびっくりしたが、私はただ近づいて観察したかっただけだ。


するとあの巫女、実は掃除してるんじゃなくてサボって携帯をいじってた…


「なにしてんの?修道院の修道女にでも興味あるの?」

優一が私の後ろについてきて言った。


「修道女には…違う!君はこの場所を何だと思ってるんだ?」

彼女のわけのわからない言葉に、私は一瞬頭が回らなかった。


「これ、アジアの教会でしょ?」

彼女は不思議そうに言った。


私は何か説明しようとしたが、よく考えてみると、お経と祈りの区別はなんなのか、私が今まで考えたことのない問題だが、今より大きな問題は、この奴に寺と神社と教会の違いをはっきり説明することだ。


そして私は確かに見落としていた。こういう元の認識と混同しやすい用語は、彼女のために直さなければならない。


私は振り返って彼女の肩を叩き、とても真剣に説明した。


「私の妹よ、これらのことを君にきちんと説明するのを怠っていた。まず、巫女は魔女じゃない、すぐに薪を探しに行くんじゃない!巫女は大体未成年の少女が務めるもので、役割は修道女に少し似ているが修道女ではない。それに住職は男の子が好きじゃないんだ!あ、太った子も好きじゃないけど、多分一部の地域だけだ。」


私がそう言うと、彼女の表情は次第に困惑から理解不能に変わった。


「それから今のところ、空飛ぶ教会と歩く教会しかなくて、寺と神社にはまだその機能はない。もちろん君が欲しいなら、今から設定書を書き始めることはできる。ゼロから書くのはちょっと難しいけど、兄である私が全力を尽くす!とにかく、ここで何かわからないことがあったら、私に聞きに来て。兄である私ができる限り説明してあげる!」


私は続けて言った。しかし彼女の私を見る目はどんどん変人を見るようになっていった。


「いったい何の話してんの?」

短い沈黙の後、彼女はやっと言葉を絞り出した。


「君みたいに教会が至る所にある土地で育った人にとっては、受け入れがたいのはわかるけど、でも固定的な目で他の文化を見るんじゃない!」


私は続けて付け加えた。


「自分が何言ってるか聞いてみなよ!それにあんたこそが一番固定的な目で見てるじゃん!いったい私を何だと思ってるのよ!」


彼女は怒って言った。


どうやら伝統的なイメージを打ち破るのは難しいようだ。こういうことはやっぱりゆっくりやらなきゃいけない。焦って説明するのはまだだめだ。


「とにかく、ここで教会が教会なのは教会だけで、残りは全部寺と神社なんだってことを覚えておいて!これらの概念を混同しないで!」


私は続けて言った。


「おい、あんたたち二人、また何やってんの?」

伊咲が厚紙のカードを一枚持って私たちの方へ歩いてきて、そう言った。


「それ何持ってるの?」

私は聞いた。


「参拝証明。」

彼女はそう言うと、それをカバンに入れた。


「あれは贖宥状じゃない!」

私は優一の耳元に寄ってこっそり説明した。


「またそんなことしたら、後で階段から蹴り落としてやるからな!」

彼女は私をにらみつけ、脅した。それから怒って立ち去った。


宗教的信者って怖い!


「またどうやって弟を怒らせたんだ?」

わけのわからない伊咲は怒って去っていく優一を見て、それから振り返って聞いた。


私はただ手を振るしかなかった。説明のしようがない。


次はお参りだ。本殿の前に来ると、伊咲は突然手を私の前に差し出したが、何も言わず、ただ震わせた。


「あれ?」

私は彼女を不思議そうに見た。


「あれじゃない、小銭出せ。あるんだろ?」

どうやら彼女は当然のように子供にお金を要求していた!


「私にお金なんかないよ!」

明らかに朝買い物に行ったときのお釣りを狙ってる。もちろん認めるわけにはいかない。彼女が風呂に入ってる間に隠しておけばよかった。


「自分でズボン脱がせて取りに行かせたいのか?」

彼女は冷静に脅した。


「脱いだズボン、私にくれる?パンツがないとスカートの下がひんやりするんだ。」

優一はチャンスと見て、伊咲と同じ陣営に立った。


このお金はどうやら払わなきゃいけないようだ。伊咲は本当に手を出して奪いにくる。私が苦労して走って稼いだのに。


探した後、私はポケットから小さい硬貨を二枚取り出し、伊咲の手に渡した。


「なんだ、本当にケチだな!10円と100円玉一個ずつだけか!」

彼女はそう言うと、いらいらして直接手を出して私のズボンをつかみ、ポケットから硬貨を全部ひっくり返した。


「この奴、結構隠し持ってたな、全部没収!これは賽銭箱に入れろ。」

彼女はそう言うと、押収した小銭を全部しまい、私と優一に100円玉を一つずつ渡した。


でも全部没収されなかっただけマシだ。少なくとも額の大きいのは見つからなかった。


それからは願い事だ。両手を合わせて、どんな願いをかけようか考えていた。


するとそばの伊咲がブツブツ言っているのが聞こえた。


「どうか私の単行本の売上が安定しますように、次の本が早く仕上がりますように、それとこの旅行で多く経費を落とせますように…」


彼女はいくつも願いをかけ、500円しか入れてないのに、一体いくつ願いを叶えさせようってんだ!


本当にこの奴には参った。


お参りが終わると、ようやくどこかに腰を下ろして休める。でも考えてみたら、また山を下りなきゃいけないと思うと頭が痛い。それにこんな時間だから、下りてホテルに戻る頃には真っ暗だ。


まったく、わけもわからず半日も山登りさせられた。明日はそんなに歩かなくていいところへ行けますように。


早く家に帰ってリビングでごろごろしたいよ…

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