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0.プロローグ

  俺の名は鈴木雅人(すずきまさと)、早くから親元を離れた21歳の大学生だ。

日に日にギャンブルに行っては大金をかけ、そして大負けして嘆くのが茶飯事である。

しかし、祖父から借りた金が大量に余っているため、いくらやっても金は減らない。

今頃、祖父は泣いているかもしれないが、どうせ短い命だから許してくれよな。

未来ある若者への投資くらいに思っておいてくれ。


 俺は根っからのギャンブラーであるが、そんな俺にも友がいる。

森野晴斗(もりのはると)高橋智也(たかはしともや)、この2人がそれにあたる。

まず、森野から。

彼は、俺と同じ学部にいる友人で、ギャンブル繋がりで仲良くなった。

どうやら森野の父が、『大』が付くほどの金持ちなようで、俺と同じく、金が尽きることを知らないんだとか。

……まぁ、俺の祖父はそんなに金持ちではないのだがな。 

 次に、高橋について。

あいつとは高校からの付き合いで、通っている大学は違えど、割と近場に住んでいるため、頻繁に会っている。

とはいえ、高橋はギャンブル好きでもないんでもないため、あくまで俺と森野が金を使いすぎないようにするための見張り程度の役割なのだと、自称していた。

……余計なお世話な気がするが。


 俺は森野、高橋との3人で、いつも夜頃に会って出かける。

もちろん、ギャンブルに行くためだ。

最近ではパチ屋にハマっているため、集合場所も大体はパチ屋前の交差点だ。

そして、それは今日も約束している事項である。

もう9:00頃だし、直に来ると思うのだが……。


(さみぃぃ……)


 ……にしても、寒い。

ここは雪国だからとは言えど、まだ9月なのである。

外に出て寒いと感じるのは、せめて11月からとかにしてほしい。


「マサトー!」


 何やら、背後から声が聞こえた。

きっとあいつらだろう。


 そう思い、後ろを振り返ってみると、やはり森野と高橋であった。


「お前、ホントにいつも来るの早いよな」

「うっせぇよ、

 俺は早く打ちたくてウズウズしてんだよ」

「今日は程々にしておけよ」

「ハイハイ分かりましたよ智也さん…」


 日常会話を交えながら、俺は3人全員が集まったことを目視し、いつもの交差点を渡ることにした。

 ここの交差点の信号待ちは、他と比べてやけに長いことで有名で、どうやら今日もそれは健在なようだ。

1台車が通ったと思えばまた1台、また1台と、それが永遠に繰り返される。

それを見ているとイラッと来ることもあるが、これを渡りきればパチ屋に着けると、自らの心に言い聞かせ、なんとか感情を抑えている。


 するとやがて、信号機の色が青に変わったのを見受けた。

なので俺達は、この交差点を渡ることにした。


 俺はなぜか、赤信号で止まっている車達に優越感を覚えた。

それは、言わずもがなどうでもいいことであったが。


「「…………。」」

 

 みんな無言で、ここを渡りきった。

すると、目の前にパチ屋があった。

少し小さめの店だが、俺達にとってはあまり関係ない。

 

 ガラス張りにしてある一面の壁から、パチ屋の中を覗くことができた。

当然、中には美少女の姿はなかった。

しかし、女だけで見てもそれ自体が希少種であった。

中に1人、2人、いるかいないかくらいだろう。


「ホントにこの店は集客出来てねぇよな。

 もう潰れるんじゃないか?」

「そんなに夢ねぇことを言うなよ」

「ハハッ、わりぃわりぃ」


 森野と高橋が喋っていた通り、この店の集客率は悪い。

だが、俺達の常連の店なので、潰れてもらっては困る。

特に俺が大金を溶かしてやってるんだから、少しは長続きしてほしいものだ。

明らかに客が減っているし、ここで働いてる人も多くなさそうだし、いつ潰れてもおかしくない状態なのが少しばかり気にかかる。

第一、なぜパチ屋っていう業態で潰れそうになることがあるのかね。

それが疑問でたまらない。

ならいっそ…………ん?


 …………。

…気のせいだろうか。


 俺は、このパチ屋の一面ガラス張りの壁から、何やら危険なものを察知した。

見間違いだろうか、赤信号も無視して、全速力で走ってくる大型トラックが見えたのだが……。


 俺は、一度目を瞑る。

2人は気づいていないようだったし、見間違いの可能性も十分あり得る。

それに、そんなまさかのことがね……。


 ………。


 俺は、恐る恐る目を開けてみた。

しかしやはり、それは見間違いではないようだった。


 このガラス面にはっきりと映っている。

全速力で交差点を突っ切る、あの大型トラックが。

……しかも向かってきているのは俺達がいる方だ。


(…!!!!!)


 ……嘘、だよな?


 俺は、この光景を、未だに信じることができなかった。

しかし、身体は危険を感知しているようで、自然に声が出た。

その声は、酷くかすれていたのだが。


「…に、にげ…………る…………」


 恐怖で声が出ない。

恐怖で足が動かない。

恐怖で身体が言うことを聞かない。

こんな感覚は初めてだ。


 ……そして、なぜ2人は気づかない?

ガラスから反射して見えるだろ。

音が聞こえるだろ。

どこを向いている?

なに下を見てるんだよ。

早く逃げねぇと。


「マサトどうした?」


 森野がそう言った。

しかし、あのトラックには気づいていない模様。

智也も同様にだ。


「……に、………にげ……………っ……て……」

「どうしたんだよ?

 おかしくなったのか?」


 するとまもなく、あのトラックがこちらに間近になっていった。

すると、ようやく智也が存在に気づいたようで、


「後ろ見ろ後ろ!」


 そう言葉を発した。


「……!!!……」


 それを見た森野は、ようやく事の大きさに気づいたようで、1人で逃げようとしたが、恐怖で足がすくんでいるのか、動けなかった。


……!!!!!!!!……


 もう誰一人動くことができず、俺は咄嗟に目を瞑った。

智也も、森野も、みんなそうだったのではないか。

動く気配、また動こうとする様子が全く感じられなかったし。




………!!!!!!!!!!!…………


 

 

 そしてやがて、あの大型トラックは俺達と衝突した。



………!!!!!!!!!!!…………



 とてつもない衝撃音が鳴り響くのを感じた時に、俺達は意識を失った。

走馬灯など、見る時間がなかった。

痛みなど、一瞬で過ぎ去った。

早く、逃げたかった。


 もっと早く気づけていれば。

もっと大きく声を出せていれば。

そんな後悔だけが、俺の心を苦しめていた。


「「…………。」」


 そしてやがて、俺達は永遠の眠りについた。

酷くて痛々しい惨劇であった。

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