4、親が子を選ぶ?子は親を選べない?子も親を選べるんです
◆親が子を選ぶ?子は親を選べない?子も親を選べるんです
──国や彼らのせいで、たった1か月で近隣国中に攻め込まれ、ライオンヘッド王国はもう二度と取り返しのつかない悲惨な最期を遂げた……
……ことを未来視で創造神の許可を得て精霊王や上位精霊たちから見せつけられた私は、とても後悔していた。だって自分が望んだ死が全くの無駄になることを知ったのだから。
地、水、火、風、闇、光の上位精霊たち。セーブル様。私はどう行動すればよかったの? どう人生を送ればいいの? どうか答えを教えてくれませんか?……
……そうして気が付くと、聖女として選ばれる前、母が死ぬ前の子供の頃、離邸で暮らしていた時に戻っていた。
実は未来視は、精霊王たちが愛し子に祝福と加護を与える際、物心がつき始める3歳くらいになると、その力を将来どういう風に使うか。他人を思いやって有効に使えるのか。悪意を持って私利私欲の為に使うのか。性格や心根を見極めるために見せるものだったそうだ。
中には精霊王たちの加護や恩恵を悪意と私利私欲のためだけに使う邪な者も確かにいたから。そういう者には何の力も与えず、未来視の記憶も奪って普通の平凡な人生を送れるようにしていた。
しかし私は、どうやらその力を正しく使おうとしていると認められ、誰よりも他人の言動に心を痛める優しい性根の持ち主だと精霊王たちも納得してくれたようだ。
そこで私の願いを聞き届け、加護や恩恵を与えてもその力を抑制し、髪色も目の色も神力も隠匿する方法を教えてくれた。
そこで父に会う前に、髪色を赤毛に、瞳を空色に変えた。トリアンタやハバナには成長して髪が焼けたのよと言い張った。瞳の色は、見間違いじゃない? と誤魔化した。
次は7歳になった頃の母の死についてだ。
妖精さんたちの情報収集のおかげで、父や義母妹が事故に見せかけるか画策したが、妖精さん達が私といる母を結果的に守ってくれていたことが分かったから。それで最終的に、産後の肥立ちの悪い母に、メイドや医者を買収して、毒殺したことがわかった。
そんな母の死を避けるために、医者の薬、信用できない使用人からの飲み物、料理人のタン本人からか、妖精さん達が確認してくれた飲食物以外は口にしないように守った。それだけでなく、健康になるような薬草や木の実を食べさせて、未来視で見た時よりもすっと丈夫な身体で元気になった。
母が長期の移動に耐えれるくらいに回復したのを確認すると、領地にいる祖父の下へ、療養と称して、父や義母妹から距離を取るために向かった。
侯爵家はどうしたと驚く祖父には、父がいるから何とかしてくれるでしょう。それよりも、祖父と母には健康で元気になってもらいたいからと、母とともに領地で過ごすことを快諾させた。
10歳の神殿の儀式では、神力を隠す方法を教えてもらった私は、義妹の『早くしろ!』と押してくる攻撃も軽くかわし、さっさと水晶に触って平凡な魔力しかないと判断された。おかげで聖女になることも王太子の婚約者として選ばれることもなかった。
代わりに、魔力量の多い公爵家の令嬢が婚約者候補にされた。
あら? 義妹じゃないのね。未来視と違うけど。どうでもいいわね。
儀式後、未来視では自分のお仕着せの格好とか恥ずかしかったことと、寄ってくる妖精さんを説得するので周囲を見渡せる余裕がなかったり、神官が騒いだことで気付かなかったけど、公爵閣下に話をするいい機会だと考えた。
それに閣下も私を見て思うところがあるようで、儀式が無事に終わって抜けると、閣下の待つ人気のない場所へ、閣下と契約している妖精の案内で連れてきてもらった。
「先に挨拶することをお許しください。ですが姪としてなら挨拶してもよろしいでしょうか。お久しぶりです。伯父様」
「ライラック、久しぶりだね。庭師を通してよく連絡貰っていたが、実は侯爵夫人と君への扱いが気になってね。こっそり庭師見習いに変装して様子を見に行ったこともあるんだよ。
しかし、素敵なレディとして成長してるようでよかったよ」
「妖精と契約できるほどの伯父様の目はごまかせなかったのですね」
「髪色と瞳の色に妖精の魔法が掛かっているからね。それと、実力についても。理由があるんだろう?」
公爵閣下なら信頼できるとセーブルに確認し、信じられないかもしれないけど、と未来視をざっと語った。私が今後どう行動するか、どうしたいかの考えも伝えると、助けてもらうことになった。
「ふむ。自分と契約している妖精の様子がおかしかったのはそう言う理由か。
それに妖精や精霊が未来のことを報せたり教えたりする話は、実は妖精と契約する人間には良く知られてることなんだ。だから可愛い姪の話も信じられるよ」
それで世代を超えた帝国との条約の反故については、祖父と、ベファレン・シルバーフォックス公爵閣下を通して帝国にいる皇帝陛下に連絡を取ってもらった。
『和平成立後2代も経っているのだから、今更帝国の皇族と王国の王家との婚姻に拘る必要はなくしませんか? それに2代にわたって、王族は一目惚れした本当に好きな人と結ばれたみたいですから。帝国側も自由恋愛を許してあげましょうよ』
と説得した。
今代の皇帝のラインランダー陛下は、とても寛容な人らしく、従従姉の母やある意味姪みたいな私に早く会える日を楽しみにしていると連絡を貰えた。
その伝手で、祖父には帝国の方が医療と薬が発展しているからと早々に帝国へ渡ってもらった。侯爵領で祖父の身辺を世話していた数人の信用できる使用人と、人手が足りないかもと侍女のハバナにもついて行ってもらった。
そう、今世では彼女は解雇されていなかったが、今後義母妹からどんな難癖つけられるかわからないからね。それと使用人たちは家族がいても年老いてるか独身が多く、ハバナも家族を流行り病で亡くしていたので、帝国で骨を埋めることになっても構わないと言う人達ばかりだった。
それでも残していく母と私を心配するハバナには、執事も家令も料理人も庭師も、それに伯父の公爵様もいるから安心してと納得させた。あともちろん教えられないが、妖精さんやセーブルたちもいるからね。
帝国に着いたら、皇帝陛下が責任もって祖父をきちんと療養させるし、使用人たちも手厚く迎え入れると確約してくれたから、きっと大丈夫だろう。
それから私が12歳になった時、邸からさっさと逃げ出して母親の故郷の、女性でも優遇してくれる隣国の帝国へ逃げることにした。
なぜなら王国では、12歳になると親を選べる権利というものが生ずるから。
精霊たちに未来視を見させられてから最悪の未来を避けるために、妖精に姿を隠してもらったり、別人に見えるように姿を変えてもらいメイドや女官に扮した。未来視で下女の仕事をやったかいがあったかな? 侯爵家内の誰も利用してない飾りの図書室や、王立図書館に行っては貴族としての勉強と表向きは偽って、母の故郷の国の言語を調べるついでに、法律を中心に調べた。
平民や貴族に限らず、親や保護者に虐待されたり、奴隷同然の扱いを受ける子供は少なからずいる。それを憂いたある時代の国王が、子供でも物心ついて自分の現状を判断できる年齢、12歳になったら親や保護者を選び出奔できる権利を与えていたのだ。
もちろん虐待の最低限の証拠である医者の診断書とか、冤罪を考え、使用人たちの証言などが必要であること。保護者や養い親として選んだ相手との条件や同意も必要であるが、遠い親戚や何かしらの血縁関係が最低限あること。
但し、産みの親や現在の養い親の同意や承認は一切必要ないことで、この法律を盾に、母親と私が、父親と愛人とその娘から放置と虐待と暴力まがいの行為をされていたことを、今世では祖父や伯父に紹介された腕のいい家令でありながら弁護士でもあるチェックフロスティに証明してもらった。
そう。今世でも彼らはやらかしたのだ。10歳の神殿の儀式が始まる前に領地から戻った母と私は、以前ほど税金が高くならないように領地経営や使用人も半分は解雇されないように頑張り、なんとか離邸で過ごしていたが、義母妹に雇用された使用人や義母妹自らやってきては、暴力を振るわれたり料理に細工されていたのだ。
料理人のタンにバレて、食べ物を粗末にするなと滅茶苦茶怒られてたけどね。
また、母と父についてはかなりごねられたが、伯父のシルバーフォックス公爵と弁護士のチェックフロスティに仲介に入ってもらい、一方的な離縁をさせ、私も侯爵籍を抜いてもらった。
私の新たな保護者は当面は母でいいとして、母には故郷の帝国の現皇帝陛下や本当の私の父である帝国の公爵閣下たちが後ろ盾になり、私は養女となった。もちろん新たな母の婚約者として、帝国のベルジアンヘア・アージェントブラン公爵閣下が申請してくれて、未来を変えることに成功したのである。
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それからこれは、祖父と妖精さんたちから聞いた話。
そう。母は真実、隣国の前皇帝の妹である皇女サテン・シルバーマーチンと、王国のブランデ公爵家の次男である騎士だった祖父ファジーロップ・ブランデの血を引いた娘。
母が生まれる前。帝国と王国とできっかけは些細でくだらない理由だったはずが、小競り合いが拗れて敵対し合うようになり、戦争を起こしていた時期があった。
王国のブランデ公爵家の次男であり騎士になった祖父は、受け継ぐ爵位が定まっていない気楽な身分だったため、階級がない下級騎士として参戦し大怪我を負った。
そんな中、前皇帝の妹の皇女だった祖母は、帝国の自国の兵たちであり大事な民が怪我を負う度に心を痛ませていた。幼い頃から皇女のくせにお転婆だった祖母は、たまたま身分を隠して医療所に参加し、看護の世話を医師や薬師たちと手伝っていた時に、自国の兵士たちと間違われて収容されていた祖父と出会った。
祖父が階級のない下級騎士だったことと、身に着けていた鎧が王国も帝国も身分の低い者が着ける鎧だったために、帝国の下級兵士の一人だと思われたようだ。
真摯に世話をし合う内に、恋に落ちた祖母と祖父だったが、敵国同士の者だったと発覚すると、無理矢理祖父母は別れさせられた。
しかし二人の恋仲が長きに渡る戦争を終結させるきっかけの一つになったようだ。さらに疲弊し消耗するだけの兵士の命を、これ以上無駄に散らさないで欲しいと言う祖母や医療所の医師たちからの訴えもあり、二人が別れさせれてから数か月後に戦争が終結した。
お腹に新しい命が宿っていたのを知ったのは、祖父が王国に帰還した後だった。
もし子供ができていたら、娘でも息子でも通じるシナモンと言う名にしようと、祖父と祖母は結ばれた後に話し合っていた。
和平が成立した後、騎士としての働きが認められブランデ公爵家が所有していたポーリッシュ侯爵家を、公爵家次男である祖父が譲り受けた。
さらに和平同盟を結ぶ証として、当時のシルバーマーチン皇帝とライオンヘッド国王陛下との話し合いにより、皇帝の妹の祖母はある意味人質同然のような扱いで王国に身売りされるように嫁がされた。
しかし当時のライオンヘッド国王には既に正妃と側妃がおり、王太子も既に既婚者で正妃が居て、帝国の皇女が側妃では帝国を下に見ているのかと思われてしまう。そこで皇女が嫁ぐには身分が落ちるが、侯爵家だが婚約者の決まっていない祖父に白羽の矢が立った。
だが祖母は喜んで愛する祖父の下へ嫁いだのに、やがて同盟書類による正式な婚姻と披露宴の後、早すぎる出産が祖父母の仲を疑われたようだ。
しかし祖父の正当な後継者として、和平後の帝国に対して皇女が嫁ぐのに本来は王家だったはずが、身分の低い侯爵家に嫁がせた負い目のある王家からも、私の母シナモンは数少ない女侯爵として認められることになったのだ。
そうして、さらに王国との同盟の絆を強くするためと、同盟時の約束で王家と帝国の皇家とは結ばれなければならない。帝国の血筋だけは間違いないからと、ジャージーウーリー・ライオンヘッド王太子と母との婚約が一度は成されようとした。
しかし庶子と噂の母を婚約者とするのに王太子が嫌がったことと、先に出会っていたお互いの一目惚れで大恋愛した緑髪と緑目のハレクイン公爵令嬢を早々に婚約者として決めたため、婚約者の仲を引き裂くのはよくないと、王太子との婚約話が流れた。
しかし庶子と噂の母と婚姻を結ぶ高位貴族が悉く断りを入れたり、早々に婚姻を決めてしまったために、どうせ侯爵家の配偶者として婿入りするのだから高位貴族に拘る必要はないだろうと、ライラックの父となる男爵と政略結婚を強いられることになったのだ。
当初、祖父が大反対してくれていたが、祖母が流行り病で急に亡くなり、心労が祟った祖父が体調を崩しているごたごたの内に、強引に婚約をすっ飛ばして婚姻させられたのだ。
しかし実はその母もライラックの本当の父親になる青年と出会っていた。帝国の公爵令息ベルジアンヘア・アージェントブランが身分を隠して王国に留学した際、恋仲となった。
しかし当時の母は、次々襲い来る、祖母の死。祖父は病床。王家からも高位貴族からも疎まれ、悪質な陰口まで叩かれて意気消沈していた。そんな母に、いっそのこと駆け落ちまでしようと言ってくれた。当時は偽名でジャン・ブランと名乗っていたらしい。
しかし急遽父親の公爵が病床に就いたたために帰国せざるを得なくなった。
「落ち着いたら、絶対に迎えに行く! 子供が出来ていたら男女どちらでもいいようにライラックと名付けよう!」
しかしジャン・ブランの消息はそれから途絶えた。両国間で、アージェントブラン公爵とポーリッシュ侯爵の敵対派閥や嫉妬する輩が暗躍していたようで、連絡できる唯一の手段の手紙や書簡が盗まれたり、奪われていた。
お腹の中に既に私が宿っていたが、それを隠し続けるため、ジャンの迎えを諦めてでも急いで婚姻して初夜を過ごした事実が欲しくて養父と結婚した母だった。酒に酔わせて一晩過ごしたとまで思わせ、養父と愛人が離邸に寄り付かないのをいいことに、疑われないように産み月まで誤魔化してみせた母だった。
しかし未来視では、母が養父と既に愛人だった継母に、事故死に見せかけようと策略されたり、それでも生きのびれば最終的に毒で病気に見せかけて殺されていたのだ。──




