アイヲタたちの苦悩と昆虫化
有名アイドルたちが処刑されるニュースが来る日も来る日もテレビやネットで報道されている。変装して街を歩いていた女性のトップアイドルが見つかり、その場にいた一般人たちに寄ってたかって捕まえられ、首を絞められて殺される場面を映した動画が話題になっていたりした。
そんな中、アイドルオタクたちの多くは苦悩していた。
尊い存在として崇め、自分の生き甲斐だとさえ思っていた推しのアイドルが処刑されたニュースを知り、こっそりと自室に籠もって号泣する者が後を絶たなかった。擁護すれば自分も同罪とされてしまう。隠れて泣くしかできなかったのである。
中には推しが処刑される動画などを観て異常なほどの興奮を覚える者もいた。それは恋人を寝取られることに性的興奮を覚えるような変態性を彼らに覚醒させた。
また、中には推しが処刑されても平然としている者もいた。
王子様だと思っていた存在が急にカエルになってしまったように、世論がアイドルを『異質なもの』『排除すべきもの』と見なすようになると、同調するように自分の意識を変えてしまったのである。
今まで神のように崇めていた存在を、一転『アイドルなんて所詮昆虫だよね』と吐き捨て、急激に冷めてしまうこの現象は『昆虫化』と呼ばれた。
しかしそんな中、それでもアイドルを隠れて信奉する者たちの間では、希望ある噂が流れ、それが信じられていた。
千年に一度、伝説のアイドルがこの世に降臨するという──
それは特別な力を持つ神のような存在で、何をされても死ぬことがないのだという──
それを『終末アイドル』と名づけ、アイヲタたちはその降臨を願った。
「この末法の世に、ぜひ! ご降臨を!」
「アイドルの力、見せつけてやってください!」
「アイドルは尊い! アイドルは我らの生きる力!」
「あの異教徒みたいな一般人どもに、そしてアイドル粛清法案なんて悪魔のごときルールを定めた政治家どもに、あなたのお力を知らしめてやってください!」