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羽化……しない

 死体を捨てに行ったタツミとフジコが戻って来た。行きはブツブツと文句を呟いていたフジコがやたらと元気になっている。


「捨てて来たダスー!٩(๑ˆOˆ๑)۶」

「フジコちゃん、大活躍だったね。物凄い力で川にブン投げて、気持ちよさそうだったよね。凄かった……あっ!∑(°口°๑)」

 タツミが立ったままサナギ化しているハナに気づいて声をあげた。

「針宮さん……サナギ化したのか('▽'*)」


「あなたたちは逃げて」

 壁にもたれてスマホゲームをしながら、アリスが言う。

「ここに静粛部隊が来るかもしれないわよ」


「わあっ! 楽しみダス!‹‹\(´ω` ๑ )/››‹‹\( ๑´)/›› ‹‹\( ๑´ω`)/››~♪」

 フジコが踊り出した。

「どんなアイドル出るかな? 針宮さんの羽化、楽しみダスー!‹‹\(´ω` ๑ )/››」


「この子の羽化は私が見守るから。……行って」


「えー? 有栖川さんだけずるいよ〜( *´ω`* )」

 タツミがわくわくした顔で言う。

「ボクたちも見たい。どんなかわいい女の子になるのかな? どんな羽根が生えるのかな? 蝶々かな? カゲロウかな? 見たい!(⁎˃ᴗ˂⁎)」


 アリスは二人を冷たい目で睨みつけると、吐き捨てるように言った。

「もしここに静粛部隊が来て、戦闘になったら、サナギ化しててまったく動けないこの子を守るだけで私、精一杯になるのよ? あんたたちのことまで守って戦えって言うの? それともあんたたち、自分で自分の身、守れる?」


「そっか……(╯•ω•╰)」

「そうだね……。じゃ、ボクいい隠れ家知ってるんだ。フジコちゃん、行こう(*´ω`*)」


「それじゃ、有栖川さん、ご無事で。出来ればまた会うダス(*˘︶˘人)♡*。+」

「針宮さんの羽化がどんなだったか、また教えてね(-´∀`-)」


 アリスがスマホを見ながらテキトーに手を振ると、二人は手を繋いで出て行った。







「……遅い」


 アリスはスマホを置くと、サナギ化しているハナを見つめた。

 少し大きくなったような気がする。色も茶色だったのが、黒に近くなっている。


「もう45分は経ってる……。もしかして……死んでる?」


 たまにサナギ化したまま中で死んでしまうアイドルもいることをアリスは知っていた。


 サナギの表面に浮き出ているハナの顔がデスマスクのように見えて、それがぴくりとも動かないのを見ながら、このまま置いて行こうかとも考えた。この子がどうなろうと関係ない──と。


 窓から射し込む月明かりを雲が隠し、サナギの表面を動く影が、ハナの表情が悲しそうに動いたように見せた。


「……もう15分だけ待ってあげる」

 アリスはスマホを鞄にしまい、ハナのサナギと向かい合った。

「それでも羽化しなかったら置いて行くからね」


 耳を澄ました。


 誰かが階段を昇って来る音が聞こえる。


 軍靴のようなものを履いている。一……二……三人だ。


 アリスはゆっくりと立ち上がり、セーラー服の背中につけたスリットから白い翼を出して身構える。


 影が三つ、向こうの戸口に現れた。


「……あら?」

 アリスがその影に向かって、声を投げる。

「生きてたの? それとも……双子だった?」


 闇を縫って現れたのは、二人の黒スーツの男。そしてその戦闘に立つのは、ヘルメットを上げて顔を晒している、黒田令子の歪んだ笑顔だった。吹出物だらけの浅黒い肌を月光が照らし出す。


「有栖川アリス……見つけたぞ」

 黒田が嬉しそうに歯ぎしりの音を立てた。

「令子は死んだ。私は黒田くろだ市子いちこ


「へぇ……。クローンなの? あまりにも顔が一緒すぎる。……その顔、あまりにもムカつきすぎて、隅から隅までよく覚えてるもの」


「オマエの闘い方は学習済みだ。今度はやられんぞ」


「嬉しいな」

 アリスが床を蹴り、飛んだ。

「またお姉さんをれるなんて」


 黒田市子が武器を構えるなり発射した。大口径のライフルではなかった。


「わう!」

 アリスが声をあげ、撃たれた鳥のように床に落ちる。


「麻酔銃だ。さすがに動けねーだろ?」

 床にうずくまるアリスを見下ろしながら、黒田市子が勝ち誇る。


「……そうみたい」

 体が痺れて動けなくなりながらも、アリスが笑う。

「……でも、痺れさせて……どうするの?」


「頭部を破壊されてもオマエは死なないんだよな? でも、全身をバラバラにされたら──さすがに死ぬだろ?」


「……そうかもね。でも、どうやって?」


「ライフルで穴だらけにしてやってもいいが……」

 黒田市子が懐から小ぶりなパイナップルのようなものを取り出し、見せつけた。

手榴弾(グレネード)だ。『ザクロ』って意味らしいが、なぜかパイナップルみてーだよな? まぁ、コイツの爆発に巻かれた人間はザクロみてーになるからな。コイツを置いて行ってやるよ」


 アリスの頬を冷たい汗が伝った。


「おや?」

 黒田市子がサナギに気づいた。

「へんなモニュメントが立ってんなと思ったら……。これ、アイドルのサナギか? ハハ……、ちょうどいい。二匹まとめて始末すりゃ、神田首相に……」


 突然、ハナのサナギが強い光を放った。


 目を眩まされ、黒田市子と二人の黒スーツが怯む。

 その隙をついてアリスは羽根を三本、自分の翼から抜いた。投げようとしたが、痺れて体が言うことをきかない。


 ピシリという音とともにサナギが割れた。


「じゃじゃーんっ!♡*.+゜٩(๑>∀<๑)۶♡*.+゜」


 眩い光とともに中から現れたのは、黒髪の三つ編みおさげに黒ぶちメガネ地味っ娘──だったハナではなく、サラサラのプラチナブロンドヘアーをなびかせ、天使のような白いドレスに身を包み、赤いハイヒールで足元までバッチリかわいく固めたアイドルだった。


「アイドル! 針宮ハナたんっ! 今! 生誕ーんっ!❀.(ღ˘ㅂ˘ღ)❀.」


 その場の全員が呆然とそれを見つめていた。

 視線を感じてハナが踊り出す。観客を目の前にしてアイドルが踊らないわけに行かない。


「か……、かわいい……」

 二人の黒スーツの男が武器を投げ捨て、ハナの振りつけに合わせて、夢中で体を動かしはじめた。

「は……、ハナたん! ハナたーんっ!」


「クッ……! 女性アイドルの力は男の心を攪乱しやがる……が、女の私には……」

 黒田市子は手榴弾を振り上げると、それをサイリウムのようにノリノリで振り回しはじめた。

「だぁめっ! ムリ! かぁわいぃっ! なんてかわいいのーーっ!」


「ふふっ! ぜひぜひ、かわいいを堪能してねっ! 羽化したアイドルは無敵なんだからっ! あれ……?❀.(*´▽`*)❀.」

 ハナが気づいた。自分の背中を振り返り、声をあげた。

「あ……あれっ!? は……、羽根がないっ!? 生えてない!Σ(⊙ө⊙*;)!!」


 ようやく体が動くようになったアリスが、三本の羽根を投げた。




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そうか、アイドルには羽根があるのか…………。羽化だもんな。 「チカちゃんでーす!」(by宇宙家族カールビンソン)という声が聞こえてきそうだ。
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