有栖川アリスについて
ハナが叫んだ。
「ひ……、ひどいことはやめてっ! アリスちゃん!Σ(゜Д゜;)」
「はあ……? コイツ、あんたを殺そうとしたのよ?」
アリスが面倒臭そうに目だけで振り向く。
「私なんかもう殺されちゃってるし」
「捕虜にしよう(-´∀`-)」
タツミが提案した。
「このひとを捕虜にすれば、いいことあるかもしれないよ? アイドル粛清部隊の内情とかさ、聞き出せるかも(-´∀`-)」
「タツミくん、頭いいダスー!(இ▽இ )」
フジコが褒めた。
アリスはどこからともなく白い羽根矢を取り出すと、ダイチの眉間にそれを深く突き刺した。
「あ……(´ㅂ`;)」
「殺したダスーっ!!(இ△இ; )」
ぴくぴくと痙攣しながら絶命したダイチをくだらないものでも見るように見下ろしながら、アリスが言う。
「発信機でも持ってたらここに粛清部隊が来ちゃうわよ。……藤原くん、野村さんと一緒に、コイツ捨てて来て」
「す……、捨てる?(´ㅂ`;)」
「どこにダスかーっ!?(இ□இ; )」
「この下に川が流れてるの。そこに投げ込めば勝手にどっかへ流れて行ってくれるわ」
「な……、なんでボクたちが……(´ㅂ`;)」
「早くして」
仕方がなさそうにタツミとフジコは死体を両側から抱えると、階段を下りて行った。
何事もなかったかのように再び壁にもたれ、スマホゲームを始めたアリスに、ハナは呆然と立ち尽くしながらも話しかけた。
「あ……あの……(´・ω・`;)」
「なんでしょう?」
「その……(•﹏•ั;ก)」
「用がないなら黙ってて」
「……あの時、窓から飛び降りようとしたのを止めてくれて……ありがとう(´ㅂ`;)」
「……べつに。窓を開けられると寒いから嫌だっただけよ」
確かに秋風が寒々しかった。
コンクリートの冷たさが身に染みて、ハナは思い出したようにぶるっと震えた。
「さ……、寒いよね。使い捨てカイロでも買って来よっか? あ……コンビニでもう、売ってるかな(´ㅂ`;)」
「……いい。とりあえずここは出るから」
「帰る場所……あるの? お家のひととか……( ´•д•` )」
「ここが家よ」
「ここ──って……(´・ω・`;)」
ハナは自分のいる場所を見回した。コンクリートの壁と床以外には何もないように見える。しかしよく見れば、隅っこに蝋燭とマッチがたくさん置かれてあり、寝床に使っているのか段ボールが折り畳まれてあった。
「お父さんとかお母さんとか……いないの?(´・ω・`;)」
「私、勝手に産まれて来たから」
スマホの画面から目を離さずに、アリスは他人事のように言った。
「誰にも拾われなかったたまごから勝手に産まれて、勝手に育っただけだから」
「そ……、そうなんだ?(´・ω・`;)」
それを聞いて、なんだか親近感が湧いてしまった。
「あたしもね、拾ってくれるひと、いなくて……。五歳までひとりで育ったから、わかるな。もっともあたしの場合はその後、孤児院の先生が育ててくれたんだけど(*´ω`*)」
アリスは何も答えなかった。黙々とスマホゲームを続けている。
間が持たなくなったこともあり、ハナは気になっていたことを聞いてみた。
「なんでアリスちゃんは不死身なの?(*´•ω•`*)」
プッとアリスが噴いた。
すぐに真顔で振り向くと、答えた。
「そうね。ふつうのアイドルは頭部を破壊されたら死ぬ。っていうか頭部を破壊するしかアイドルを殺す方法はない」
「そうなの!?Σ(º ロ º๑)」
ハナは初耳だった。
「あたしたちって、そんなゾンビみたいな生き物だったの?ฅ(º ロ º ฅ)」
「知らなかったの? 胸に穴が開いたくらいなら再生するのがふつうのアイドルよ」
そういえば小学生の時、高いところから落ちて足を折ったけど、やたら治るの早かったなと思い出した。
そういえば自殺したアイドルって、みんな高いところから飛び降りて頭が潰れたり、ピストルでこめかみ撃ち抜いたり、首を吊って脳への血流を止めたり──頭部を何かして死んでるなと思い当たった。
「私は異質な存在……」
アリスがスマホゲームを続けながら、言った。
「人間から見ればアイドル、アイドルから見れば変わり種。頭部を破壊されても死なないし、語尾に顔文字もつかない。だから自分をふつうのアイドルと区別して、『終末アイドル』と呼ぶようにしてるの」
「終末アイドル? ……何が終末なの?( ºωº )」
「わからないよね。わかんなくていいわよ」
アリスは溜息をつくと、少し声を大きくした。
「……それにしてもバカなことをしたわ。私、語尾に顔文字つかないから大人しくしてればアイドルだってバレないのに。黒田令子のせいであんなこと──!」
「正義感が強いんだね、アリスちゃん。あたしたちを助けてくれたんだよね(*´ω`*)」
「ああいう……黒田令子みたいな正義の執行人みたいな顔してる輩が嫌いなだけよ」
ようやくアリスがハナの顔を見た。
「あんたたちがどうなろうと、どうでもよかった。ただ黒田令子にムカついただけ」
「そうなんだ?(*´•ω•`*)」
「だから友達ヅラしないで」
スマホを鞄にしまうと、アリスは立ち上がった。
「もしかしたらさっきのやつが発信機を持ってて、もう粛清部隊がここに向かって来てるかもしれないわね。ここからは別行動にしましょ。あなたも早く──」
アリスの言葉が止まった。
立ったまま、土色になりはじめているハナの顔をまじまじと見つめた。
何も言葉を発することができなくなり、目を白黒とさせたまま、ハナはみるみるうちにぶよぶよとした茶色い皮のようなものに全身を包まれて行く。
「サナギ化が始まったか……」
アリスは仕方なさそうに鞄を置いた。
「……30分ぐらい? その間まったく無防備になるあなたを置いては行けないわね。……しょうがないから羽化するまで見守っててあげる」