廃ビルの一室で
「佐藤……ダイチくんか……。あたしは針宮ハナ。よろしくね(*´▽`*))」
「大変なことになったよね。俺も追われているんだ。君の仲間に入れてくれよ( •̀∀•́ )✧」
「それはもちろんいいんだけど……。はぐれちゃったの(´ω`;)」
「スマホ持ってるじゃん。連絡取れないの?( •̀∀•́ )✧」
「番号が……あっ!(๑´Д`ก)」
ハナのスマホの着信音が鳴りはじめた。
「知らない番号だけど……出てみよう(•﹏•ั;ก)」
電話口に出たのは男の子の声だった。
『あっ、針宮さん? よかった、電話に出てくれて』
「あ……。もしかして藤原くん? どうしてあたしの番号わかったの?( ˙ㅿ˙ )」
『フジコちゃんが生徒名簿を持ってたんだ。そこにこの番号が載ってたから』
「ありがとう! 今、どこにいるの? あたしもそっち行く('▽'*)」
『住所を言うよ? ◯◯町の三丁目、2-3。そこに廃ビルがあって、その三階にみんないる。来ればわかるから、スマホのマップを使って来なよ』
「わかった。あっ、あのね? 今、他にも逃げて来たアイドルの男の子と一緒にいるの。彼も連れて行っていいかな?(*´∀`*)」
『アイドルなの? なら、もちろんいいよ』
「じゃ、行くね(*´˘`*)」
電話を切り、頬の涙を拭うと、ハナはダイチを振り返った。
「連絡取れた。じゃ、行こう(๑´ㅂ`๑)」
ダイチがうなずく。
「ありがとう。助かるよ( •̀∀•́ )✧」
後ろ髪を引かれるように、ユキの部屋をしばらく眺め回すと、それでもまだ生きていてくれるかもしれない友達を探しに行くように、ハナはダイチを連れて家を出た。
◆ ◆ ◆ ◆
言われた住所に着いた時にはもう夜になっていた。確かにボロボロに寂れた四階建てのビルがあった。不気味なおおきな目玉みたいな満月がかぶさるその廃ビルを見上げてハナが呟く。
「……取り壊し寸前みたいなビルだね(*´`*)」
「ここにみんないるの?( •̀∀•́ )✧」
「うん。行こう(*´˘`*)」
埃だらけの階段を使って三階に上がると、外壁を除いて壁はまったくなく、コンクリートに囲まれただだっ広いひとつの部屋のようになっていた。奥の壁際に灯りが見える。近づいて行くと、蝋燭を立てたその周りに三人がいるのが見えて来た。
「みんなー(°´˘`°)/」
ハナが声を投げかけると、藤原タツミと野村フジコらしき影が手を振った。
「よかった。合流できたね(*´∀`*)」
タツミの声が優しく迎える。
「後ろの彼が、言ってたひと?(-´∀`-)」
「うん。偶然出会っちゃって……。追われて困ってるらしいから(∗ˊᵕ`∗)」
ダイチがハナの後ろから挨拶をする。
「佐藤ダイチです。よろしく( •̀∀•́ )✧」
「藤原タツミです。よろしくね(-´∀`-)」
「ワタスは野村フジコ! よろしくダスー(´・∀・`)۶»」
挨拶を返すタツミとフジコの後ろで、アリスは興味もなさそうに、壁にもたれかかってスマホを見ている。
「あっ。彼女は有栖川アリスちゃん。無愛想だけどとってもいいひとだから、よろしくね(´ㅂ`;)」
ハナが代わりに紹介すると、ダイチはアリスに近づいて行った。
「佐藤ダイチです! よろしく、有栖川さん( •̀∀•́ )✧」
握手を求めて差し出したダイチの手を見もせずに、アリスはスマホの画面を見つめたままで、言った。
「うるさい。今、ゲームがいいとこなの」
アリスが面倒臭そうにそう答えるなり、ダイチが懐から何かを取り出した。
小型の黒光りする銃だった。それをアリスのこめかみに当てると同時に銃爪を引く。
破裂するような音が廃ビルの広い一室に轟いた。
「うあ……!?Σ(º ロ º๑)」
「うぎゃあああ!?Σ(ŎдŎ|||)ノノ」
腰を抜かしてタツミとフジコが後ずさる。
「何するのっ!? ダイチくん!(º ロ º๑)」
顎から上を失い、壊れた水道管から噴き出す水のように血を流し続けるアリスのほうから振り向くと、ダイチが言う。
「だってコイツ、語尾に顔文字ついてないぜ?( •̀∀•́ )✧」
窓の外の黄色い満月がダイチの背後にあり、まるで自分たちを殺しに来た悪魔か何かのように見えた。
「アリスちゃんは特別なの! 変わってるのっ! それに……(||゜Д゜)」
ハナはダイチの手に持っているものを見ながら、言った。
「なんであなた……そんなものを持ってるの!?(•'Д'• ;)」
「ああ……、これ?( •̀∀•́ )✧」
ダイチは銃を掲げると、ガチンと冷たい音を立てた。
「だってアイドルを抹殺するのに……これがあったほうが便利だろ?( •̀∀•́ )✧」
「あなた……、ほんとうにアイドル?(•'Д'• ;;;)」
「さあね?( •̀∀•́ )✧」
ダイチがハナに銃口を向けた。
「死ぬ前に教えてあげる。アイドル粛清部隊には、アイドルを騙して近づくために、人間なのに語尾に顔文字をつけるよう訓練された兵隊もいるそうだよ?( •̀∀•́ )✧」
タツミとフジコは脅えてしまい、抱き合いながら固まっている。
「あー、それで顔文字がやたら単調だったのか」
アリスの声がそう言った。
「……えっ?( •̀∀•́ )✧」
おそるおそる振り向いたダイチの顔面を、首のないアリスが鷲掴みにすると、そのままコンクリートの床に押し倒し、叩きつけた。グシャァ! と肉と骨が同時に潰れる音が響く。
「ぐはっ……!」
ダイチの語尾から顔文字が飛んだ。
顎から上だけの顔をぶるぶると横に振ると、アリスの顔がそこに再生されて行く。天井を仰ぎ、長い黒髪をばさっとマントのように広げると、鋭い目がダイチを睨みつけた。
ダイチがうろたえて喚く。
「なっ……、なぜだ! 頭部を破壊すれば死ぬはずだ!」
「ふつうのアイドルはそうね。でも私、ふつうじゃないの」
アリスは立ち上がると、ダイチの手首をローファーの底で思い切り踏み潰した。手から離れた銃を奪い取ると、鼻先に突きつける。
「さあ……あんたをどうしてあげようかしら」