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反撃のアイドル

 次々と生徒たちが黒田令子の前に立たされ、名乗らされた。

 玉国ヒカルの後にはしばらく延々とアイドルは発覚せず、何事もなく続いたが、もうすぐ野村フジコの番がやって来る。


 アイドルのたまご野村フジコは分厚い牛乳瓶メガネの奥でぐるぐると目を回していた。


 後ろの席を振り返ると、そこに座っている大人しそうな男子生徒のか細い手を、ボンレスハムのような太い手で握り、小声で泣き叫ぶ。


「ふ……、藤原くん! もうすぐワタスの番ダス!(╥ω╥`)」


 藤原と呼ばれた男子は、諦めたような笑いを浮かべると、野村フジコを言葉で慰めた。

「しょうがないよ、フジコちゃん……。どうせ死ぬなら一緒に殺されない? 二人なら怖くないかもしれない(*´ω`*)」


「し、心中してくれるダスか!? こ……、こんなデブでブタでダサいワタスなんかと!?:(´◦ω◦`):ぶ……ぶわ!」

「フジコちゃんはデブタなんかじゃないよ。色白で……今は地味な牛乳瓶メガネだけど、羽化したらきっと天使みたいなアイドルになったはずだよ(*^^*)」


「未来のことなのに過去形! 辛いダス! 辛いダスー!。゜゜(*´□`*。)°゜。」

「大丈夫。フジコちゃんの番の時、ボクも一緒に前に出て行ってあげるから(*´ω`*)」


「ふ……、藤原くうんっ……! た、タツミくんって呼んでも?(இ﹏இ`。)」

「もちろんだよ、フジコちゃん( •̀∀•́ )✧」



 アイドルだった生徒二人の死体がまだ床に転がる教室から、人間と判明した生徒たちは次々と出て行かされた。こんな血生臭い教室では授業どころではない。

 このクラスが終わったら他のクラスも見て回るつもりだ。今日の繰越高校は全学年全クラス臨時休校となることだろう。

 黒田令子は2年C組の教室に残った生徒たちを眺め回し、予想をした。

 順番が回って来た野村フジコが何やら諦めたように項垂れて重い足音とともに歩いて来るのを見ながら、まず思う。


『あの牛乳瓶の底みたいなメガネをかけたブサイクな娘はアイドルではないだろう。あんなのがアイドルのたまごだったら笑う。……その後ろからなんだか追いかけるみたいにやって来るあの男の子──あれはアイドル臭いな……。地味なくせに顔がかわいい』


 野村フジコが黒田令子の前に立ち止まる。

 縮んでいきそうなその肩を優しく抱くように、後ろから藤原タツミが追いついて来て、覚悟を決めたように、しかし穏やかな声で、言った。


「ボクら二人とも──(-´∀`-)」


「ねぇ、お姉さん」


 突然、藤原タツミの言葉を遮るように横から挟まれたその声に、黒田令子が気を取られた。


「何だよ、オマエ」

 声の主を黒田令子が睨む。

「オマエはもう済んだだろ。ただの人間は教室から出て行け。邪魔だ、……有栖川アリスだっけか」


 長い黒髪のサイドを気だるそうにかきあげ、手についたホコリを唇を尖らせてフッと吹き飛ばすと、有栖川アリスはどうでもよさそうに言った。


「ねぇ、お姉さん。なんでアイドルは殺されなきゃいけないの?」


 うるさそうにアリスを睨むと、黒田令子は教科書通りというように、即答した。

「神田首相がお決めになったからだ。私たちはそれに従うのが仕事だ」


「アイドルに……なんか人間に対する実害でもあるわけ? ほっとくとじつは人類を滅ぼすほどの害があるのが判明したとか?」

「人心を攪乱する。それに何より人間とは違う生き物だ。人間よりも昆虫に近い。貴様は虫ケラを殺すことに異議でも唱えるつもりか?」


「テレビとかであれだけもてはやしといてさ、粛清法案が可決した途端、大半のトップアイドルは殺されちゃったらしいよね? 今まで夢と希望をもらってたのに、いきなりひどくない?」


「うるさいぞ、貴様!」

 黒田令子が有栖川アリスに銃口を向けた。

「公務執行妨害で逮捕するぞ! ……あるいは、そうだな。アイドルを擁護したとして今ここで貴様の頭も吹っ飛ばしてやろうか」


「べつにアイドルがどうなろうとどうでもいいんだけどさ」

 有栖川アリスは黒田令子の銃口に、白い目を向け返した。

「お姉さんのその上から目線が気に食わないんだよね。国家のイヌのくせにさ」


 大口径のライフルが火を噴いた。


 頬杖をついたままの有栖川アリスの頭部が一瞬で砕け、席に座る長身の上から花火のように血肉があたりに飛び散り、生徒たちが悲鳴をあげた。


 出口を固める二人の黒スーツが声をあげる。

「黒田さん!」

「クロさんっ! さすがにそれはマズイっす! 一般人を……」


「ふ……、フフ……」

 黒田令子が興奮して笑い出だす。

「気に入らなかったのよ、有栖川アリス! この私を馬鹿にするような冷たい目を向けやがって……アイドル擁護罪で即死刑に処してやった! 何が悪いと言うのだ!?」


 アリスが死ぬのを見て、野村フジコの震えていた膝が遂に崩れ落ちた。彼女の全身が床に倒れてしまわないよう、藤原タツミが後ろから全力で支える。


 フジコが泣き叫ぶ。

「も……、もう嫌ダスーーーっ!。゜(゜´Д`゜)゜。」


「おや、意外」

 黒田令子は弾丸を詰め替えると、その銃口を素早くフジコに向けた。

「こんなブタのアイドルがいるとはね」


 藤原タツミがフジコを守るように前へ出た。

「フジコちゃんを殺すならボクも死ぬ!

⊂(`・ω・´)⊃」


「キミは殺すには惜しいが……」

 銃爪に指をかけると、照準を覗き込みながら、黒田令子は舌なめずりをし、冷たく笑った。

「私は女だ。男子アイドルに心を惑わされる前に処刑せねばな!」


 何かが教室の空中を舞った。


 それは短いが白い翼のようなものを広げていた。横に高速回転しながら飛んで来ると、翼をナイフのように尖らせて、黒田令子の首を一瞬で胴体から斬り離し、教室の天井まで飛ばした。


「き……!」

「貴様!?」


 出口を固める二人の黒スーツの男たちがライフルの銃口を同時に向けた。二つの出口は教室の前と後ろ──離れている。

 首のない有栖川アリスの背中に生えた白い翼から、二方向へ向けて、ダーツのように白い羽根が飛んだ。それが二つの銃口に刺さるのと、二人が銃爪を引くのが同時だった。容易くライフルは暴発した。


 断末魔をあげて二人の黒スーツの腕が、胸が、そしてヘルメットを飛ばして頭部が、爆発とともに肉塊に変わる。


「有栖川さん!Σ(º ロ º๑)」

 針宮ハナが後ろの席で叫ぶ。

「あなた……何者!?(´⊙ω⊙`;)」


「正義の味方じゃないことは確か」

 血だらけで首のなかった胴体の中から、無表情なアリスの頭部がせり上がって来た。

 元通りの長い黒髪を手櫛てぐしくと、面白くもなさそうな無表情で、有栖川アリスは言った。

「私は『終末アイドル』有栖川アリス」




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なんダスかあぁぁぁぁぁっ!?(இ﹏இ`。) 一体全体何がどうなってるんダスかあぁぁぁぁっ!?゜(゜´Д`゜)゜。
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