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粛清部隊

 朝、登校してみると、ユキの姿がない。

 針宮はりみやハナは、地味な黒ぶちメガネの奥で、エメラルドのような瞳をうるうると、不安げに動かした。


『ユキちゃん……、何かあったのかな……。あの優しそうなお父さんが何かするとは思えないし……』


 教室を見渡すと、他の四人のアイドルのたまごたちは登校して来ている。ユキの姿だけが、ない。

 不安をどうすることもできず、そのうちの一人に話しかけてみることにした。


白峰しろみねさん……( •́ㅿ•̀ )」


 ハナに話しかけられた白峰という名の女子生徒がうろたえた声を出す。

「はっ……、話しかけないでよ! あたしたちバラバラにクラスに紛れてるべきよ!(۳˚Д˚)۳」


「ユキちゃんが登校してないんだけど……何か知らない?( ´•д•` )」

「しっ……、知らないわよ真田村さなだむらさんのことなんか! あたし関係ないんだから! 大人しくしてなさいよ!(۳˚Д˚)۳」


「白峰さんのとこは……なんにもなかった?( •́ㅿ•̀ )」

「あるわけないでしょ! うちのお母さん、あたしのこと大切に思ってくれてるんだから! ほっといて!(۳˚Д˚)۳」


「そっか……。ごめんね( ´•ω•` )」

「いいから! あっち行って! アイドル同士仲良ししてるなんて……あんたたち信じらんない!(۳˚Д˚)۳」


『そっか……。白峰さんのお母さんも、優しいのか』

 自分の席に戻りながらハナは思った。

『いいな……。孤児院育ちのあたしにはそんなひといない……』


 教室の扉が開いた。


 担任の女教師が入って来てHRが始まるのかと思ったら、入って来たのは三人の武装した、黒いスーツのひとたちだった。


 生徒たちが一瞬沈黙し、ざわめきだす。


「誰?」

「武器持ってるよ……?」

「こ……、怖……」


「みなさん、静粛に」

 リーダーらしき黒スーツが、女性の声で言った。

「えー……。白峰キナさんというのはどの生徒ですか?」


「えっ!?( ゜Д゜;)」


 驚いて声をあげた白峰キナを、周囲の生徒たちが平和な顔で指さす。


 黒スーツの女は既に背中から取り外していた大口径のライフル銃を白峰キナに向けると、銃爪を引いた。


 白峰キナの頭部が砕け散り、脳漿が周囲に飛び散る。

 椅子に座ったままの格好で、彼女の胴体が後ろへ勢いよく傾き、そのまま床に斃れた。

 みるみるうちに広がる血の海を避け、彼女を指さした生徒たちがのけぞり、悲鳴をあげる。


「静粛に! アイドルです!」

 黒スーツの女がライフル銃を手にしたまま、言い渡す。

「彼女を育てていたいわゆる『お母さん』から通報を受けました。家の中を汚したくないので、外で始末するよう依頼されておりましたので、そうしたまでのことです」


 遅れて入って来た担任の女教師が、教室の真ん中で頭部を失って斃れている白峰キナを見て、一瞬悲鳴をあげかけ、黒スーツの女に声をかける。


「あの……。これはちょっと……。生徒たちの情操教育に悪影響が……」


「非常事態なのです」

 黒スーツの女は冷静に答えた。

「戒厳令が敷かれました。また、アイドルは人間ではないという事実を生徒さんたちにもわからせるために、これは教育として必要なことなのです」


「でも……」


 担任の女教師は白峰キナの死体を眺め、言いかけたことを口ごもる。白峰キナの死体は人間のそれと何も変わりがなかった。


「申し遅れましたが、私どもはこのたび設立されました『アイドル粛清部隊』の者です。私は部隊長を任されております黒田くろだ令子れいこと申します」


 黒いヘルメットを取ると、黒田令子の顔があらわになった。二十歳代後半ぐらいの、短く髪を刈り揃えた、吹出物だらけの浅黒い肌の女だ。


 素顔をあらわにすると、すぐに黒田令子はスコープを自分の目に装着した。そして、生徒たちに言う。


「アイドルは喋ると語尾に顔文字がつくということが判明しております。ただ、ふつうの人間にそれは見えません。ですが、このスコープを通して見ると一目瞭然となります」


 男性の黒スーツ二人が出口を固めるのを確かめると、黒田令子は話を継いだ。


「まだこのクラスの中にアイドルが隠れているかもしれません。一人ずつ、私と会話をしてもらいます。出席番号順に前へ出てください」


 出席番号1番の女子生徒が前へ出た。取り乱し、泣きじゃくりながら、ガクガクと震える膝を押さえながら。


 黒田令子が聞く。

「お名前は?」


 女子生徒は恐怖で張り裂けそうな声で、答えた。

愛本裕子あいもとゆうこで……すっ!」


「よし、次」


 男子も泣いていた。次に前へ出た男子生徒が、顔を涙でぐしょぐしょにしながら、名前を口にした。

青木あおき健太けんたです」


「よし、次!」


 一人ずつ前へ出て名乗るのを見守りながら、針宮ハナはただオロオロするしかできずにいた。

 自分の出席番号は後のほうだ。しかし必ずその時はやって来る。

 逃げようにも出口は二人の武装した黒スーツに固められ、教室は監禁状態だ。


 ツ……と、落ち着いた足取りで、長い黒髪の長身女子が前に出ると、黒田令子に向かって名乗った。


有栖川ありすがわアリスです」


「え?」

 黒田令子は何かが引っかかったように、有栖川に聞いた。

「どっかで聞いたなまえだな」


「同じ名前の小説家さんがいます」

 有栖川はクールに答えた。

「もっともそのひとはおじさんですので、私のほうが絶対にかわいいですけど」

 にっこり笑った。


 黒田令子は有栖川アリスをまじまじと見つめた。

 なぜ、この女子生徒は、こんな時に笑えるのだろうと訝しんだ。この状況で少しも動揺していない。あまりにも肝が据わりすぎている。

 しかし語尾に顔文字は見えない。おかしなやつだとは思ったが、こう言うしかなかった。


「よし、次!」


 針宮ハナは窓を見ていた。


 あそこを開けて、飛び降りようか? ここは二階だからなんとかなるかも……。


 ここにいたら絶対に、確実に殺される。っていうか──ユキちゃんはどうなったの? もしかして、あのひとたちに、もう、殺されちゃったの?


 確かめなきゃ! ユキちゃんが無事なのか、知りたい! そう思いながら、足を動かそうとしながら、でもその足がどうしても動かなかった。


 前へ出た男子生徒が名乗った。


「た……、玉国たまくにヒカル……です( ¯−¯٥)」


 大口径のライフル銃が火を噴き、玉国たまくにくんの頭部が吹っ飛んだ。


 その音とみんなの悲鳴に勢いをつけ、立ち上がり、窓へ向かって走り出そうとしたハナの腕を、誰かが掴んだ。

 びっくりしてその顔を見ると、クールな目をして有栖川アリスがこちらを無表情に見つめていた。


「は……、離して……っ!Σ(⊙ө⊙*)」


 有栖川は眉ひとつ動かさずにハナの顔をじっと見つめると、首を横に振った。





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― 新着の感想 ―
顔文字つきで喋るアイドルもあれだが、それを見るスコープを開発する粛正部隊もスゴいな。 これ、法案成立する前から開発してるよな?
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