皆殺しの終末アイドル
階段を上りながら、ハナとアリスは意見が食い違っていた。
「正義の戦士ぶるわけじゃないけど、神田みたいな巨悪が許せないの。首を飛ばしてやるわ」
「ダメだよ、アリスちゃん。神田首相にも何かアイドルを迫害しないといけない理由があったんだよ。改心してもらえばそれでいいじゃない( `•д•´ )و❀.」
「いや、アイツは殺す。ハナの親友はアイツのせいで死んだんだぞ? 許せるのか?」
「アイドルは笑うものだよ。辛いこととかいっぱいあったけど……、それでも笑うのがアイドルなの❀.(ღ˘ㅂ˘ღ)❀.」
ハナは目を瞑り、胸に手を当てた。
「悲しい涙なんて、もう見せない。アイドルが涙を見せるのは、嬉しい時だけなの♡*。( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ ).。.:*♡」
「つまりアイドルは虚像ってこと?」
怒りに燃えていたアリスの目が、急激に冷めた。
「辛いことや許せないことがあっても、それは自分の胸の中だけに秘めて、人には見せない? ばっかじゃないの? 辛かったら思い切り泣いて、許せないやつがいたら正直にブッ殺せばいいのよ。アイドルだって自分の心があるんだから」
「とにかく人殺しはダメっ( `•д•´ )و❀.」
「神田が何人アイドルを殺したと思ってるの? やられたらやり返すのよ」
「ダメっ( `•д•´ )و❀.」
「……はいはい」
二階に上がりしばらく歩いていると、音楽が聞こえて来た。ショパンの『華麗なる大円舞曲』のピアノ演奏が、どこかにあるスピーカーから静かに流れていた。
どこからか実況生配信されている。アリスがスマホを見ると、天井のほうから自分たちの姿が映されていた。黒スーツを着て長い黒髪の乱れた自分の姿は悪魔のように禍々しく、白いおおきな翼をユラユラさせながら歩くハナは天使のように見えた。
「神田! 来たぞ!」
アリスが大声で告げる。
「姿を見せろ! 臆病者!」
すると静かな大広間に、ふいに笑い声が響いた。
「さっきからここにいるわよ?( ー`▽ー´)
」
「えっ?」
「顔文字?Σ(*゜ロ゜*)❀.」
薄暗い大広間に置かれているソファーの上から人影が立ち上がった。きっちりとスーツを着込んだその後ろ姿はテレビで見慣れたものだった。神田政子総理大臣そのひとだ。ひっつめ髪の顔が振り向き、薄暗闇の中でニタリと笑った。
「よくここまで来られたわね。褒めてあげるわ(*`▽´*)」
コツコツとハイヒールの音を鳴らし、近づいて来る。
「語尾に顔文字……。おまえ……」
「アイドルなのっ!?(*゜ロ゜*;)❀.」
しかしその背中に羽根はなかった。
「ふふ……。早い子で13歳から羽化が始まることは、あなたたちもご存知よね?( `•―•´ )」
神田首相が両腕をゆっくりと広げる。
「でもこれは知ってる? 50年羽化しなかったアイドルには特別な力が宿るの(*`・▽・´*)」
その腕を羽ばたかせるように、振った。
「私は63歳になったの。遂に50年羽化しなかったのよ!( ✧▽✧) 」
黒い突風が吹き荒れ、アリスとハナが勢いよく後ろへ飛ばされた。
「なるほどね」
アリスは短い羽根でバランスを取り、すぐに着地する。
「あなたがアイドルを憎む理由がなんとなくわかったわ」
「うわーーーっ!\(๑0ω0๑;)/」
ハナは壁に叩きつけられてバラバラになり、大広間に色とりどりのシャボン玉が飛び散った。
「『わかった』だと? ……小癪な( ✧Д✧) 」
首相の顔から笑いが消えた。
「おまえみたいな小娘に何がわかる!? 私がアイドルを憎む気持ちがただの『嫉妬』だとでも言うつもりか!?( ✧□✧)」
アリスが身体を回転させた。
短い羽根をナイフのように尖らせ、首相の首を斬りに行く。
「止まれ( `•▽•´ )」
神田首相がそう言うと、まるで命令を聞くようにアリスの攻撃が止まった。
「何……? 何をしたの?」
アリスの顔に驚きの色が浮かぶ。
「私は支配者……。日本の最高司令塔であり、アイドルを統べる者でもあるのよ(*`▽´*)」
神田首相が再び両腕を広げる。
「これこそこの屈辱の50年で授かった力! 見るがいい!\(*´∀`*)ノ」
飛び散っていたシャボン玉が素早く首相の前に集まると、ハナの姿に固まった。具現化すると同時に踊り出す。
「首相さんっ! アイドルは楽しいものでしょ! 踊りましょ! ❀.\(*´∇`*)」
楽しませようとしたが、首相は楽しまなかった。アイドルにはアイドルの力は効かないのだ。
「おまえみたいな脳天気なアイドルが一番ムカつくのだ\(๑✧ᴗ✧๑)ノ」
首相が広げた腕を、振った。
「喰らえ! ウィングレス・エクスキューション!\( ✧▽✧) ノ゛」
「きゃあっ!? Σ(;:°;Д;°:;)」
ハナが殺された。一瞬でだった。
アイドルとして、殺されたのだ。その背中に生えていたおおきな白い翼がもがれ、塵のように、煙のように消えてしまった。
「つ……、翼が……(; ºωº ;)」
「これでおまえは無敵ではなくなった(*`ᴗ´*)」
首相の手が、無防備なハナの首元に伸びる。
「私の破壊技『ブラック・ノーウィンド』を受けて死ね!( ✧Д✧)9m 」
横からアリスが飛んで来た。
短い羽根をナイフのようにして、首相の伸ばした腕を切断しようとしたが、寸前でかわされた。
「あなたのそれ……、アイドルの技じゃないわよね( ˙ㅿ˙ ;)」
首相が呆れて言う。
「語尾に顔文字もつかないし……。あなたは一体何なの?( ˙ڡ˙ ;)」
「私は終末アイドル有栖川アリス。この末法の世に現れる、千年に一人のアイドルだ」
「やっぱり主人公はアリスちゃんだよね。あたしなんかじゃ申し訳ない」
ハナが言った。翼をもがれ、語尾からは顔文字ももがれていた。
「笑わせる!(*`▽´*)」
首相が大広間に高笑いを響かせた。
「終末アイドルとは私のことよ! アイドルを終わらせるアイドルという意味でね! 皆殺しの終末アイドルとはこの私のことだ!( ✧▽✧) 」
アリスが飛んだ。短い白い翼を広げて。
「貴様も喰らえ! ウィングレス・エクスキューション! ( ✧Д✧)9m」
アリスの背中から翼がもがれた。