ファイナル・アイドルパワー・エクスプロージョン
針宮ハナはにこっと笑いながら、心の中では混乱していた。
自分は一体何なのか、さっぱりわからなくなった。
そういえば小学生の時、高いところから落ちて骨折したのがすぐに治ったけど、あれって確かスカイツリーの上から落ちて、一瞬で完治したんじゃなかったっけ? と思い出す。
じりじりと黒田たちが距離を詰めて来る。
「攻撃はするな。弾が無駄になるだけだ」
「有栖川みたいな攻撃力はないようだ。捕まえろ」
「捕まえて一生地下牢に閉じ込めておけばいいだけだ」
「あるいはやはりアレを使うか?」
「硫酸のプールか。……いいな」
「アレの中に落としたらどうなるかな? 再生しては溶かされる無限地獄を味わうことになるのかな?」
「ククク……。楽しそうだ」
そんなところに落とされたらどうなるのか、ハナ自身にもわからなかった。黒田たちの言う通り、無限の苦しみを味わうことになるのか……。自分の能力がさっぱりわからない。
自分がどういう生き物なのか、さっぱりわからなくはなったものの、ひとつだけ確実にわかっていることがあった。自分はアイドルなのだ。
ハナは咄嗟にかわいいポーズを決めると笑顔を作り、28人の黒田をまとめて魅了しにかかった。
「おねーさんたち、あたしのかわいさを見よっ!❀.٩(*´▽`*)ゞ♡❀.」
先頭の列の黒田がやられた。表情がとろんとニヤけ、殺意を無にされた。
しかしそんな黒田を盾にして、後ろのほうの黒田たちが、ハナを見ないようにしながら迫って来る。
背後の観音扉がばん! と音を立てて開いた。
タツミとフジコを先頭に、アイドル解放軍のみんながその勇姿を現した。
「ハナちゃん! 助けに来たダス!✿*:・゜٩(๑`^´๑)۶.*✿」
「ボクたちが来たからにはもう大丈夫!☆*.+゜( •̀∀•́ )b.。.:*✧」
「うわ! 配信見てたけど生で見るときめぇ!」
「同じ顔がいっぱい!」
「みんな!♡*.+゜(๑´ㅂ`๑)♡*.+゜」
喜ぶハナのほうから黒田がアイドル解放軍のほうを振り返る。銃口を一斉に向けた。
「タツミくん! 出番ダス!✿*:・゜٩( ๑`ε´๑ )۶.。.:*♡✿ฺ」
フジコの声とともにタツミがかっこいいポーズを決めた。
「お姉さんたち、ボクと遊ばない?✧( •̀∀•́ )ゞ•*¨*•.¸¸☆*・゜」
「うっ……!?」
黒田たちの動きが止まる。
「尊い……っ!」
前の黒田を盾にする黒田も男の子アイドルの魅了には勝てなかった。身を乗り出し、自ら見たがり、タツミの力にハマった。
「かわいいーっ!!」
すべての黒田がタツミのダンスに夢中になり、一緒に踊り出す。
その隙にフジコがハナのほうへ駆けた。
「ハナちゃんっ! 大丈夫ダスか!?☆.。.*(๑ ー̀εー́ ๑)」
「あたしは大丈夫だよ❀..(◦˙▽˙◦)❀」
ハナは安心させるように笑った顔を、すぐに曇らせる。
「……でもアリスちゃんが〣( ºΔº )〣」
「大丈夫。見るダス☆.。.*٩(*`・ω・´*)」
「あっ!?Σ(º ロ º๑)」
アリスの肉片が一箇所に集まりはじめていた。ゆっくりと、その姿を取り戻して行く。
「アリスちゃん……! よかった! やっぱりアイドルって不死身なんだね(இ▽இ )」
「いや……たぶん彼女は特殊ダス。それとたぶん……ハナちゃんも(๑´•ω•`๑;)」
タツミが魅せつけるダンスに黒田たちは夢中でアリスの再生には気づいていない。
解放軍のひとたちも、女性のみならず男性までもがタツミを応援して盛り上がっていた。
ハナとフジコにはタツミの魅了の力は届いていない。アイドルの力はアイドルには通じないのだ。
アリスは姿を取り戻すと、ハナを見つめた。
「ハナ! ……無事だったか」
バラバラになっている間の記憶はないようだ。衣服までは再生されず、生まれたままの姿だった。
「アリスちゃん! また会えてよかった!.˚‧º·(இдஇ )‧º·˚.」
気配を察して、黒田たちが全員、振り返った。アリスへの憎しみが、男の子アイドルの魅了に勝った。
「おい!」
「アイツ、再生したぞ!」
「バケモノが!」
「もう一度バラバラにして硫酸のプールに沈めろ」
「クッ……!」
アリスは明らかにダメージは負っていた。すぐには動けないようだ。
ハナがおおきな翼を広げた。
自分がアリスを守らねばと思った。何が出来るかはさっぱりわからなかったが、テキトーに必殺技名を叫んでみた。
「ファイナル・アイドルパワー・エクスプロージョン!☆.。.*\(*`Д´*)/.。.:*✧」
何も起こらなかった。
苦しまぎれに翼をはためかせてみた。
「ウワーーーッ!?」
「ギョーーーーッ!?」
凄まじい風が起こり、黒田たちがすべて吹っ飛んで壁に圧しつけられる。
「ウワーーーッ!」
「キャーーーッ!?」
解放軍のひとたちも吹っ飛んだ。壁に激突して大ダメージを受けている。
「グウーーーッ!? ダス! \∑(✘Д✘๑ )/」
「あきゃーーーっ!?∑( ◦д⊙)/」
フジコとタツミも吹っ飛んだ。
ボロボロのアリスも飛んで行く。
ハナが泣き叫ぶ。
「ウワアアーッ!? 余計なことしちゃった!?.˚‧º·(இдஇ )‧º·˚.」
しかしアリスは途中から横に回転し始めると、裸の背中から生やした短い翼をナイフのように尖らせた。そのまま壁に貼りついている28人の黒田たちめがけて飛んで行く。
「まとめて死ね」
壁を走る車のように、一気に28人すべての首を薙ぎ斬った。
頭部を失くした黒田たちの体が、壁をずり落ち、次々と床に斃れる。
そのうち一人の体から黒スーツを剥ぎ取ると、それを身に着けながら、アリスがハナを振り返る。
「またハナに助けられたよ。……凄いね、翼が生えたんだね。もしかして千年に一人の伝説級アイドルって、あんたのことだったの?」
ハナは放心していた。
何か言いたそうにしながら、言葉が出て来ないようだ。
『ハハハハ!』
突然、部屋の壁の上部に取りつけられたモニターが点り、そこに神田政子首相の顔がおおきく映し出された。
『まさか黒田を全員やるとはね……!』
「神田……!」
アリスがモニターを睨みつける。
『私は二階の中央にある大広間にいる』
余裕たっぷりの笑顔を見せると、神田政子首相は言った。
『そこまでおいで。遊んであげましょう』
周りを見ると、タツミもフジコも壁に叩きつけられて気を失っている。
ハナは顔を上げると、アリスに言った。
「行こう、アリスちゃん!(*`・ω・´*)و」
そして付け加えた。
「……でも人殺しはダメ! アイドルの力で首相をメロメロにしてやるのよ!❀.(*`・□・´*)و❀.」