アゲハ蝶とウスバカゲロウ
フジコが拳を握りしめ、鼻息荒く言った。
「助けに行くダス! 有栖川さんには恩があるし、針宮さんは友達ダス! ほうってはおけぬっ!٩( ๑`ε´๑ )۶」
「エライよ、フジコちゃん! それでこそボクが好きになったひとだ!(-´∀`-)」
「タツミくん、照れるダスー! (*/∀\*)……はっ?」
「あっ!(*゜ロ゜*)」
タツミが慌ててフジコの手を引っ張り、駆け出した。
フジコの紅く染まったほっぺたが、茶色くなりはじめている。
「こんな時に……サナギ化始まっちゃった!.˚‧º·(இдஇ )‧º·˚.」
「いや、いいことだよフジコちゃん。アイドルに羽化すれば無敵になれる。無敵になってから二人を助けに行こう('▽'*)」
路地裏に入り、誰もやって来なさそうな袋小路を見つけると、タツミがフジコの手を塀につかせた。その姿勢でみるみるうちにサナギ化は進み、すぐにフジコは物言わない蝶のサナギとなった。
「あっ……(*゜ロ゜*)」
タツミが声をあげると、慌ててフジコの隣に並ぶ。
「ボクも始まっちゃった( *´ω`* )」
つるべ落としで暗くなる秋の夜、二つのサナギが仲良くコンクリート塀にくっついて、羽化の時を待った。
30分ほどで羽化は始まった。
ピシリと背中からサナギを割って、紫色の光を放ちながら、くしゃくしゃな羽根のついたフジコの背中が現れる。
タツミの羽化も同時だった。まだ濡れて縮こまってはいるが、薄緑色の透き通った羽根がサナギの中から現れた。
「タツミくん……☆*.+゜(๑ÖㅁÖ๑)♡」
「フジコちゃん……(*´∇`*).。.:*✧」
二人が背中の羽根を、揃って広げた。
タツミはウスバカゲロウの羽根だった。まるで羽根の生えたピーター・パンのようなかわいい姿だ。
フジコはアゲハ蝶の羽根だ。牛乳瓶メガネはなくても目が見えるようになっており、セクシーな美女がそこに出現していた。太っていた体はムチムチでボンキュッボンなナイスボディに変わっており、セーラー服はセクシーな紫のナイトドレスに変わっている。
「綺麗だ……、フジコちゃん♡*。( •̀∀•́ ).。.:*♡」
「タツミくんも……。え、おやあっ!?Σ(๑0ω0๑;;;)」
気づけばギャラリーがたくさん集まって、二人の羽化を見物していた。お互いに見とれるあまり気がつかなかった。
「アイドルだ……」
「アイドルだ……」
「羽化したぞ」
人間たちだった。老人から若い者まで、男女さまざまな20人ほどが、羽化したばかりの二人を袋小路に追い詰めるような形でそこに立っていた。
「しまった……。見つかっちゃってた……(´・ω・`;)」
「どうするダスー!?.˚‧º·(இдஇ )‧º·˚.」
人間たちの手が、前へ伸びて来た。襲いかかられ、首でも締められるものと二人が身を固くすると、その手はすべて地面につけられた。
「アイドル様!」
「どうか我々をお導きください!」
「あれっ……?(´・_・`)」
「おろっ……?(๑´•ω•`๑)」
「我々は『アイドル解放軍』の者ですじゃ!」
リーダーらしき老人が説明した。
「アイドルが迫害されるこの現状を見てはおられんでした! どうか我らを率いて、終末アイドル様を救出してはくださらんか!」
二人は顔を見合わせ、にっこり笑った。
「もちろんですよ、おじいさん(-´∀`-).。.:* ♬*゜」
「ワタスら、最初からそのつもりダス♡*.+゜(๑¯∇¯๑)」
「おい! そこで何をしている!」
背後から厳めしい大声が駆け足でやって来た。振り返った全員がそこに二人組のアイドル粛清部隊の黒いスーツ姿を認めた。
「来やがったな」
アイドル解放軍たちが覚悟を決める。
「アイドル様をお守りしろ!」
「戦うぞ!」
それぞれがポケットや懐から武器を取り出す。カッターナイフやスタンガン、野球のボールといった──
「そんなもんで勝てるわけないダス!.˚‧º·Σ(இдஇ )‧º·˚.」
「相手は銃だよ!?Σ(゜Д゜;)」
タツミとフジコも覚悟を決めた。自分たちを支持してくれるファンたちを死なせるわけにはいかない。
「行くよ? フジコちゃん(*´∇`*).。.:*✧」
「やるダス! タツミくん!( ー̀дー́ )و.。.:*✧」
二人がステップを踏んだ。シンクロ率の奇跡的なまでに高いダンスがそこから始まる。
「うっ……!?」
アイドル粛清部隊二人の動きが止まる。
「美し……いっ!?」
アイドル粛清部隊は男女ペアで行動するのが常である。女性アイドルは男性を、男性アイドルは女性を魅了してしまうので、それに対抗するためだ。
しかしこの男女混成アイドルユニットの前には成す術もなかった。
「見て、見て!☆*.+゜ヽ(〃^-^)/」
「ワタスたちを見るダスー!☆*.+゜ヾ(๑╹◡╹)ノ」
アゲハ蝶とウスバカゲロウの羽根をそれぞれに揺らしながら、お伽噺のお姫様と王子様が歌い踊るように、二人は愛と夢の国を路地裏に作り出す。
「ラヴ☆ラヴだけど許してね(﹡ˆᴗˆ﹡)✩⃛」
「ラヴ☆ラヴだけど許してね✩⃛(﹡ˆᴗˆ﹡)」
この時、二人のユニット名が決定した。『ラヴ☆ラヴだけど許してね』──おそらくは史上初の公認カップルアイドルユニットの誕生である。
「うおー!」
黒スーツの男が銃をサイリウムのように振ってはしゃぎ出す。
「きゃー!」
黒スーツの女も同様にはしゃぎ出した。
「今だ! みんな! その二人を取り押さえて!(`・ω・´).。.:*✧」
タツミが視線でアイドル解放軍のひとたちにそう告げる。
しかし彼らもまた盛り上がってしまっていた。
「いえーい!」
「最高!」
「かわいい!」
「かっこいい!」
その場にいる全員がはしゃぎ出した。カッターナイフやスタンガン、野球のボールをサイリウムのように振って踊り出している。
祭りが終われば黒スーツ二人が正気に戻り、粛清を開始することだろう。
「ど……、どうするダス、タツミくん? これじゃワタスたち、ずっと歌って踊ってないといけないダス……(*´•ω•`*;)☆*.+゜」
「仕方がない。ボクたちであの二人をやっつけるよっ(`・ω・´)و☆*.+゜」
タツミとフジコは前へバレリーナが揃って飛ぶように動くと、観客の中へ入って行った。
大歓声が沸き起こる。
二人の黒スーツが手を振る。
「アゲハちゃん! こっちへおいで!」
「キャー! カゲロウくん、こっち来て!」
タツミは女性のほうへ歩み寄ると、甘いその微笑みをゆっくりと近づけた。「やぁ、素敵なベイビーだね( •̀∀•́ ).。.:*☆」と言うなり、いきなりぎゅっと、抱きしめた。
フジコは男性のほうへ歩み寄ると、妖艶に微笑みかけ、「ワタスの唇は真っ赤な薔薇ダスよ(๑ ิټ ิ).。.:*♡」と決め台詞を口にしながら、男の唇を親指で弄ぶと、そこに唇を重ねた。
二人が目をハートにして失神したのを見届けると二人は踊りをやめ、解放軍のみんなに言った。
「この二人を取り押さえて!(*•̀ㅂ•́)و✧*。」
「これがアイドルの戦い方ダス! 人殺しはしないダスよ(*•̀ㅂ•́)و✧.:*♡」
きっとアリスもこのアイドルの力で戦い、血なんて流さない──二人はそう祈っていた。