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神田政子と黒田仁子、そしてアイヲタたちの決起

『けしからん噂が流れているようね』


 モニターに映る厚化粧の熟女の顔が、険しい皺をピキピキと音を立てるように浮かび上がらせながら、憎むように笑う。


 薄暗い部屋の中、黒スーツに身を固めた短髪の女が最敬礼をし、それに答える。


「はい。なんでも実績のある預言者が発信源らしく、アイドルオタクどもはそれを信じきっているようです。噂によると、鳥の羽根を背中に生やした『終末アイドル』とやらが降臨し、末法の世に救いをもたらすのだとか。そいつは不死身で、たとえバラバラにされても死なないのだとか」


『くだらない噂ね。オカルトもいいところだけど……』

 モニターの中の熟女はひっつめ髪の中に人差し指を入れ、コリコリと掻くと、黒スーツの女に聞いた。

『……あなたはそれらしきアイドルを見たのよね?』


「はっ!」

 一礼すると、黒スーツの女が改めてその報告をする。

令子れいこがまず発見し、市子いちこが始末しようとして失敗しています。有栖川アリスという名前のいけすかない女子高生でした」


黒田くろだ仁子にこ……。あなたたちは記憶を共有できる。令子が見たものは市子も見ていて、市子が体験したことは仁子──あなたの体験でもある』


「はい! ありがとうございます!」

 黒田仁子は深くお辞儀をすると、モニターに映る熟女に感謝を述べた。

「神田首相! 貴女様にこの力を授けていただき、私たちは心から感謝しております!」


『……でも、記憶を共有するということは、前の二人の死の記憶もあなたはもっているということよね? 大丈夫なの? トラウマとかにはなってない?』


「むしろ憎しみしかありませんね」

 黒田仁子は頭を下げたまま、殺気を背中から漲らせた。

「死の恐怖など軽く超越するほどの憎しみ……そして怒りが、有栖川アリスを殺せと私に背中から命じております」


『頼もしいわ』

 神田政子首相は蛇のような笑いを浮かべると、モニター通話のスイッチを切りながら、言った。

『伝説とやらを軽く蹴散らしてやりなさい』



 モニターが消えると同時に後ろの扉が開き、黒田仁子とまったく同じ容姿の女が入って来た。


「仁子、見た?」


「ああ……、見たよ、酸子さんこ

 黒田仁子はそう答え、嬉しそうに顔を歪ませた。黒いヘルメットをかぶり、新型の武器を背中に装着する。

死子しこが見たものを私も見た! 確かに有栖川アリスだ! 市子を踊らせたふざけたアイドルも一緒だな! 三人がかりで殺しに行くぞ!」



 ♡ ♡ ♡ ♡



 地下に会場のある小規模のライヴハウスではアイドルオタクたちの集会が開かれていた。


「同士よ! 慰め合おう!」

 マイクを持ったおじさんが、みんなに呼びかける。

「我々はアイドルを崇める! しかし何もできない! 伝説のアイドルが降臨するのを待つだけだ! 慰め合おう!」


「うんうんうん」と、会場の一同が、うなずきながら低い声を漏らした。


「アイドルを守ろうとすれば我々の身も危ない! 我々は見守ることしかできない! ここでみんなでせめて祈ろうではないか!」


「「「「「うんうんうんうん!」」」」」


「祈るんだ! 伝説の終末アイドル様の一日でも早いご降臨を! そして我々の『好きパワー』をアイドルへ向けて送ろう! ぎゅっと手を合わせて、念を送るんだ! 『しゅきしゅき!』『◯◯たん、しゅき!』『どうか無事でいて!』……さぁ! オマエラもご一緒に……!」


 その時、客席の中から一人の若い男がステージに乱入した。おじさんのマイクを力任せに奪うと、会場に向かって呼びかける。


「おい! おまえらのアイドルに対する想いはそんなものかよ? そんなものだったのかよ!?」


 会場がしーんと静まり返った。若い男は続けた。


「本気で好きなら命かけてみろよ! 『俺がアイドル守るんだ』って、動いてみろよ! 一人じゃなんにもできないかもしれないけどな、力を合わせりゃ何事かなせるかもしんねーだろ!」


「ぼっ……、ぼくは……」

 会場の者たちが少しずつ反応しはじめた。

「◯◯たんのためなら、命をかけられる!」

「△△くんはあたしに命をくれたようなものだもん! あたしも彼のために命をかけられるわ!」


「よし! みんなでやろう!」

 若い男は拳を振りかざすと、大声で叫んだ。

「俺は命をかけて□□たんを守る! オマエラもオマエラの推しのため、命をかけろ! 俺たちはアイドルが好きだ! 大好きなんだー! こんな間違った今の状況を許してはいけない! 立ち上がれ!!!」


 大歓声が沸き上がった。




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粛正部隊、隊長はみんなクローンなのかな?
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