『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品
遅れてきた文化祭
「文化祭楽しみだね~」
幼馴染のマイカが楽しそうに跳ねる。
「おお、俺たちは行動制限で結局文化祭出来なかったからな」
親友のケンジが爽やかイケメンな笑顔で応じる。
俺たち三人は今年復活した母校の文化祭に卒業生として参加するのだ。
「……別に無理して俺を誘わなくて良かったのに」
腐れ縁で今でも一緒に行動しているが、マイカとケンジは付き合っているんだから気を使われても惨めなだけだ。
「ハヤトはまたそういうことを……あのね、本当は私、ずっとハヤトが好きだったんだよ?」
「……マジで?」
「そうだぞハヤト。お前がはっきりしないから悪いんだ。俺が玉砕覚悟で告白したらまさかのOKでびっくりしたんだからな?」
「まあ……寂しかったからね。誰でも良かったって言うか」
「えええっ!? 酷くね?」
「あはは、冗談だって」
それは励ましているつもりなのか? まあマイカが言っていることが本当なら行動を起こさなかった俺が悪いわけで……おい、自己嫌悪で帰りたくなってきたぞ。
マイカが俺のことを好きだと思っていたなんて驚いたな。
ずっと一緒だったから異性として意識したことは正直なかったけど、なんというか複雑な気分だ。大切な幼馴染を取られてしまったという寂しい気持ちと相手がケンジで良かったという安堵の想いが入り混じる。
マイカは気付いていたのかな。俺の目が他の子に向いていたことを。
「くそ、あいつら結局それかよ」
学校に到着したら別行動しようと二人から言われた。まあ良いかその方が気楽だし。
「ハヤト先輩、いらしてたんですか」
耳の後ろから胸の奥から広がる熱が一瞬で俺の心を支配する。
「……アオイ、お前……その格好」
腰まで伸びた艶やかな黒髪、凛とした佇まい、和装が似合う古風な美少女。
ずっと俺が好きだった女の子。
「ふふ、似合いますか? 競技かるた部はメイド喫茶なんです」
「……カワイイ」
「なんでカタコト!?」
恥ずかしそうなアオイの姿に語彙が崩壊する。
「あ……でも大人気で今からじゃもう入れませんね」
すでに整理券の配布は終了していた。あまりのショックに膝から崩れ落ちそうになる。
「……そうだ私で良ければこれから休憩時間なのでお世話出来ますけど?」
「悪いな、せっかくの休憩時間なのに」
「ふふ、先輩方に感謝です」
「先輩方? 何の話だ」
「内緒です」
「ところで先輩、伝統の星降後夜祭、一緒に参加しませんか?」
一緒に星を眺めると結ばれるらしいんです。耳元でそう付け加えて。